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2013.12.25

陶然とせよ! 空間変容の魔術
ペータース&スクイテン〈闇の国々〉
シリーズ第3巻・4巻

中条 省平

陶然とせよ! 空間変容の魔術<br />ペータース&スクイテン〈闇の国々〉<br />シリーズ第3巻・4巻<br />

ブノワ・ペータース原作、フランソワ・スクイテン作画によるBD(ベーデー、バンド・デシネ=フランス語圏マンガ)、『闇の国々』が全4巻で完結しました(古永真一・原正人訳、小学館集英社プロダクション)。

  たった「4巻」といっても分厚いハードカバーの大冊ですから、ページ数は総計で1300ページをこえます。しかも、画集のような大判、美麗なオールカラーなので、値段もかなり張ります。税込みで1万6380円。でも、もちろんその価値は十分にあります。フランスでは14分冊のアルバム形式で出ている原書を4巻にまとめ、しかも日本語版だけの付録資料も何点か収録されているからです。

日本のハイブラウな読者が4巻本を支えた

 そもそも、『闇の国々』日本語版の最初の単行本が出たとき、そこに「第1巻」という表示はありませんでした。『闇の国々』シリーズから代表的な3つのアルバムを1巻にまとめたのですが、続編を出すことなどまったく予定せずに刊行したからです。値段も高いし、ともかくこの1冊で『闇の国々』のエッセンスを日本の読者に知ってもらえればいいと訳者や編集者は考えていたのでしょう。 

 ところが、この作品は世界マンガの最高峰の1作として日本のハイブラウな読者から予想外の好評をもって迎えられ、高い価格にもかかわらずかなり売れて、続巻が『闇の国々II』として出ることになりました。

 そのうえ、外国マンガとしては初めてのことですが、文化庁メディア芸術祭のマンガ部門で「大賞」を受賞するという快挙まで達成したのです。そのおかげで、作者のペータースとスクイテンが来日し、日本という国のファンになり、大友克洋や浦沢直樹や谷口ジローと公開の場で対談する機会さえ生まれました。

   かくして、第4巻の刊行まで漕ぎつけて、このモニュメンタルなBDの主な作品をほとんど日本語で読めるようになったわけです。

 私は、『闇の国々』の第3巻と第4巻を、2013年に日本で出版されたマンガのベストワンに選出しました(「フリースタイル」誌2014年冬号、特集「THE BEST MANGA 2013このマンガを読め!」)。

 というわけで、今回は、2013年ベストワンでありながら、本時評で取りあげなかった『闇の国々』の3巻と4巻を紹介することにしましょう。

『闇の国々』とはシリーズ全体に冠せられた名称で、そう呼ばれる場所は、ヨーロッパのパラレル・ワールド(並行世界)です。『闇の国々』には、たとえば重要な都市として「ブリュゼル」という地名が登場しますが、これはむろんベルギーの「ブリュッセル」を発想のもとにしています。作画を担当するスクイテンはベルギー人でブリュッセルの出身ですし、ペータースはフランス人ですが、少年時代をブリュッセルで過ごしました。

 とはいっても、『闇の国々』はヨーロッパそのものではなく、中世のヨーロッパとSF的な近未来空間とを直結したユートピア(どこにもない場所)として描かれています。まずは、その独創的なトポス(場所)の造形に魅了されます。そこには、私たちが多くの書物で見聞きしたヨーロッパの神秘的な側面、驚異の美学、「迷宮としての世界」が凝縮されているからです。

 そんな独創的な驚異の世界の造形を可能にしたのは、スクイテンの超絶技巧による細密画のような絵柄です。いちばんよく似たタッチを感じさせる絵としては、ギュスターヴ・ドレの銅版画か、ジュール・ヴェルヌの初版本を飾ったエドワール・リウーの木版画を連想します。実際、ジュール・ヴェルヌは『闇の国々』にときどき登場する作中人物の名前でもあるのです。

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