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海の授業

2018.11.12 公開 ツイート

世界最大の津波は「520メートル」にまで達した! 後藤忠徳

海にはどんな謎の生物がいるの? 人間はどれだけ深く潜れるの? 津波はなぜ起こるの? 火星に海はあるの? そんな素朴な疑問にこたえてくれる一冊が、世界中の海を調査してきた京都大学准教授、後藤忠徳先生の『海の授業』。文章はきわめてやさしく、子どもさんへのプレゼントにもピッタリかもしれません。そんな本書から、一部を抜粋して公開します。

津波の本当の怖さとは

 津波の際に注意しないといけないのは「最初に来る波(第一波)が一番大きく、あとになるほど小さくなる」とは限らない点です。海岸で一度はね返された津波は、ブーメランのように隣の海岸へ舞い戻ります。海岸線が複雑に入り組んでいる場合は、津波は何度も複雑にはね返され続け、はね返った波同士がタイミング悪く海岸を襲うと、津波の高さは第一波よりも大きくなることがあるのです。

iStock.com/enase

 津波の高さにも注意が必要です。「高さ40メートルの津波」と聞けば誰でも逃げ出します。でも「高さ1メートルの津波が来る」としたら、あなたはどう感じますか? 海岸の町では、津波が来なくても、嵐の日には高さ数メートルの大きな波がやってきて、道路が通行止めになったりします。嵐は毎年やってくるのですから、高さ1メートルの津波なんて、大したことはないと思いがちです。

 ところが同じ波といっても、嵐と津波では全く違います。嵐の時は強い風が作った風浪(前にも出てきましたね)が打ち寄せますが、この波は横から見ると尖った三角形です。これだと、押し寄せた海水はすぐに海に戻っていきます。ところが津波はそのような尖った三角形ではなく、もっと平べったい形をしています

 例えば海底が盛り上がって津波になる場合、海底は広い範囲で盛り上がるので、水面全体が広い範囲で押し上げられます。波というよりも海そのものが持ち上がった形ですから、泳いでいる魚は(陸地に打ち上げられない限りは)津波で死ぬことはありませんし、津波に気づかないかもしれません。

 この津波が陸地へ到達すると、町の中に海水がどんどん流れ込んできます。数分から数十分をかけて町を水浸しにしてしまったあとで、今度は引き波が町を襲います。つまり津波は風浪とは違って、陸地を移動していく「水の壁」といえます。例えば縦・横・高さ1メートルの水の塊は、重さ1トン、2リットル入りペットボトルで500本分の量です。

 このような水の塊が横一列にたくさん並んで、スクラムを組んで壁となり、あなたに迫ってくる様子を想像してみて下さい。これが高さ1メートルの津波の力です。その破壊力は凄まじく、高さ1メートルの津波では2階建ての家の多くは半壊してしまいます(高さ2メートルならばほぼすべてが全壊です)。歩いている人間なんて、あっという間に転ばされて波にさらわれてしまうでしょう。実際に1983年の日本海中部地震の時には、高さ70センチほどの津波に多くの人が飲み込まれてしまいました

 私達は普段、津波を見ることはありませんから、普通の波と比べてしまって「1メートルくらいなら怖くない」と思い込んでしまうのは無理もありません。また東日本大震災での津波の映像を繰り返し見てしまったので、「大津波だと危険だけど、小さな津波だと大丈夫だよね」と勘違いする方が増えているそうです。でも、それらは誤解なのです。

「海水が一旦引いてから津波が押し寄せる」というのも間違っています。海底の盛り上がりが津波を引き起こす場合、引き潮なしで津波はいきなりやってきます。こちらの誤解も、普段の海の波と比較したために生じたのでしょう。「きっと大丈夫だろう」という過信や思い込みは、災害の時は危険なのです。

隕石で津波が起こることも

 地震以外の原因で発生する津波もあります。例えば、あの恐竜も津波の被害を受けています。いまから約6550万年前、メキシコのユカタン半島の海岸近くに直径約10キロの大隕石が墜落しました。

iStock.com/Ig0rZh

 巨大隕石によってできたクレーターには、海水がドッと流れ込んで、これが巨大津波を引き起こしたそうです。その高さは推定で300メートル!!

 横浜の超高層ビル「ランドマークタワー」と同じくらいの高さです。

 これがメキシコ湾の沿岸を襲いました。たぶんこの津波は大西洋からインド洋に伝わり、太平洋に広がり、地球を一周したと思います。世界中の海岸線で、泳げない恐竜は溺れてしまったことでしょう。

 また隕石衝突時には大量の土埃が上がり、衝突時の高温の衝撃波は周りの森林を燃やしてしまったので、太陽の光は1年以上にわたって地表に届きづらくなり、地球全体の気温は10年間ほど低下しました。生き残った陸や海の恐竜の多くも、飢えと寒さで死んでしまったのだろうといわれています。

 津波の高さでいえば、もっと凄い記録が残っています。アラスカの太平洋岸のある地域では、津波の最大到達高度は520メートル!! 1958年のことだそうです。

 人は住まず、目撃者もいない奥地で起きた大事件でしたが、その後の調査で、大津波の原因は斜面の大崩壊だと考えられています。近くの山の斜面から、9000万トンもの岩石が入江に落ちてきたために、入江の海水が弾き飛ばされて対岸の斜面を一気に駆け上がったのです。 このような大規模な斜面の崩壊は「山体崩壊」と呼ばれていて、太平洋のハワイ諸島や大西洋のカナリア諸島でも過去に度々、山体崩壊が起きた跡が見つかっています。もしもいま、大西洋で山体崩壊が起きたら? 地震がほとんど起きないニューヨークですが、ある日突然、数十メートルの津波が押し寄せることもありえるのです。

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海の授業

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後藤忠徳

大阪府生まれ。京都大学大学院工学研究科准教授。1993年神戸大学大学院修士課程修了(理学研究科地球科学専攻)。97年京都大学博士(理学)学位取得。東京大学地震研究所、愛知教育大学総合科学課程地球環境科学領域助手、海洋科学技術センター深海研究部研究員、海洋研究開発機構技術研究主任などを経て現職。光の届かない海底を、電磁探査を使って照らしだし、巨大地震発生域のイメージ化、石油・天然ガス・メタンハイドレート・熱水金属鉱床などの海底資源の探査、地下環境変動のモニタリング技術の開発などを行っている。海や陸の調査観測だけではなく、数値シミュレーションなどの開発にも力を入れている。

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