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海の授業

2018.11.09 公開 ツイート

太陽系で地球以外に「海のある星」はあるのか? 後藤忠徳

 海にはどんな謎の生物がいるの? 人間はどれだけ深く潜れるの? 津波はなぜ起こるの? 火星に海はあるの? そんな素朴な疑問にこたえてくれる一冊が、世界中の海を調査してきた京都大学准教授、後藤忠徳先生の『海の授業』。文章はきわめてやさしく、子どもさんへのプレゼントにもピッタリかもしれません。そんな本書から、一部を抜粋して公開します。

地球に海ができた奇跡

 地球に海ができたように、同じ太陽系の他の星にも海があっていいはずです。

 まず月はどうでしょう?

iStock.com/Nastco

 月がどのようにしてできたかについてはいろいろな説がありますが、地球が誕生する寸前、大きな原始惑星が原始地球にぶつかって、原始地球の一部がちぎれて月になった、というのが有力な説です。月と地球はほぼ同い歳で同じように育ってきたので、月にも海があっても良いはずなのですが、残念ながら月は小さすぎました。

 かつて月にも地球と同様にマグマの海があり、空気中が水蒸気で満たされていましたが、月の引力は地球の約6分の1と小さかったため、水蒸気は宇宙空間へと逃げてしまったようなのです。月の上では大雨も降らず、海もできませんでした。ただし、月のクレーターの影の部分にはちょこっとだけ氷があるようです。

 ちなみに現在の月には「海」と呼ばれている場所があります。16世紀頃、望遠鏡で月を観察した天文学者達は、月の黒っぽく見える部分には水があると信じて「海」と名付けました。ただアポロ宇宙船が月に行って調べたところ、実際には玄武岩という溶岩で覆われた平地でした。

 ではお隣の火星や金星はどうでしょう? まず火星ですが、無人探査機を使って調査した結果、約35億年前には、火星の表面の3分の1以上が巨大な海に覆われていたようです。約35億年前といえば、地球最古のバクテリア化石と同じ歳です。その頃、火星にも生命が誕生していたかもしれません。

 しかし現在の火星には海はありません。火星も地球より小さく、引力は地球の4割ほどしかないからです。このため、火星の大気は薄く、地球のように温暖な気候を維持できません。かつての海の水は、いまは火星の地下で氷となっているか、あるいは水蒸気になって少しずつ宇宙空間へ逃げてしまったのでしょう。

 一方、金星は地球とほぼ同じ大きさで、火星とは異なり厚い大気があり、雲に覆われています。そこでかつては「金星には雨が降っていて、海もある」と考えられていました。ところが実際に無人探査機を送ってみたところ、金星の地表の平均温度は400度で、水はなく、水蒸気もほとんどありませんでした。

 なぜこんなことになったのでしょう? その原因の一つは、金星の大気中の大量の二酸化炭素だといわれています。

 二酸化炭素は、地表を冷えにくくする効果を持つ気体です(最近話題の「地球温暖化」の原因だといわれています)。地球では誕生直後に海ができて、二酸化炭素が海水に溶け、さらにそのあとに誕生した生物達は二酸化炭素を吸収したり、海底に閉じ込めたりしてくれたので、空気中の二酸化炭素はほど良い濃さになり、気温もほど良い高さになりました。

 ところが金星の大気中にあった大量の水蒸気は、太陽からの強いX線によって分解されてしまったようで、金星には海ができませんでした。二酸化炭素は海に吸収されずに大気中を漂い続けたため、強烈な「金星温暖化」が起きてしまい、金星は灼熱の惑星になってしまったといわれています。

衛星には水が存在している?

 地球と火星・金星の運命を分けたものは海のアリ・ナシだったようです。地球に海があって、金星や火星に海がない詳しい理由はまだよく分かりませんが、水蒸気でもなく、氷でもなく、液体の状態で海ができるためには、地球が太陽から丁度良い距離であることが重要だといわれています。この丁度良い距離は、最近は「ハビタブルゾーン」と呼ばれています。

iStock.com/manjik

「ハビタブル」とは「住むのに適した」という意味です。実際、天文学者達は高性能の宇宙望遠鏡を使って太陽系の外側を観察し、ハビタブルゾーン内に地球型の惑星を持つ惑星系をいくつか発見しています。同じような惑星はこれからもっとたくさん見つかるでしょう。この中には、地球と同じような海を持ち、生命が存在する惑星もあるかもしれません。

 さて、私たちの太陽系で、海を持つ星は地球だけなのでしょうか? 例えば火星よりも太陽から遠い、木星や土星はどうでしょうか? これらは主にガスでできたガス惑星なので、地面はなく、地球のような海はヤッパリなさそうです。がっかり。

 ところがです。木星や土星の周りを回っている衛星(月)には、どうも海が存在するようなのです。

 まずは木星の衛星「エウロパ」です。巨大な木星の周りを回っているエウロパは、木星の強い重力のため衛星全体が常に変形しています。そのため、表面は氷で覆われていますが、その下では氷は溶けて海になっているようなのです。無人探査機が調査したところ、エウロパの表面には氷が一度割れてから再び固まったような跡が見つかっており、さらに氷の下には電気をよく通す物質(水)が大量にあることが分かりました。

 一方、土星の衛星「タイタン」には、水ではなく液体メタン(またはエタン)の海があるようです。2004年に無人探査機がタイタンに降下した際に、その地表には、メタンの海や川のようなものと陸地が撮影されています。その景色は地球のものにそっくりです。探査機は無事に陸地に降り立ちましたが、そこは少し濡れて泥のようだったそうです。

 また土星の別の衛星「エンケラドス」を探査機が調査したところ、高さ数百キロにもなる巨大な噴水(間欠泉)が見つかっており、この衛星の地下にも塩水の海があるようです。

関連書籍

後藤忠徳『海の授業』

海はいつどのようにできた? 波はどのようにできる? 深海では何が起きている? なぜ人は船酔いするの? 調査船で世界の海を探査してきた海洋学者が、海の神秘を分かりやすく解説。大人も子供も必読。電子書籍版限定で「調査船」から撮影した写真も収録!

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海の授業

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後藤忠徳

大阪府生まれ。京都大学大学院工学研究科准教授。1993年神戸大学大学院修士課程修了(理学研究科地球科学専攻)。97年京都大学博士(理学)学位取得。東京大学地震研究所、愛知教育大学総合科学課程地球環境科学領域助手、海洋科学技術センター深海研究部研究員、海洋研究開発機構技術研究主任などを経て現職。光の届かない海底を、電磁探査を使って照らしだし、巨大地震発生域のイメージ化、石油・天然ガス・メタンハイドレート・熱水金属鉱床などの海底資源の探査、地下環境変動のモニタリング技術の開発などを行っている。海や陸の調査観測だけではなく、数値シミュレーションなどの開発にも力を入れている。

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