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宇宙は何でできているのか

2018.11.11 公開 ツイート

宇宙の73%は謎の「暗黒エネルギー」が占めていた 村山斉

 宇宙はどう始まったのか、私たちはなぜ存在するのか、宇宙はこれからどうなるのか――。そんな人類永遠の疑問にやさしく答えてくれる本が、物理学者、村山斉さんの『宇宙は何でできているのか』です。発売たちまち話題となり、2011年には、1年間に刊行されたすべての新書から最高の一冊を選ぶ「新書大賞」を受賞。現在もロングセラーとなっています。今回は、本書の一部を公開します。

宇宙の23%を占める「暗黒物質」

 ほとんどの人は学校の授業で地球の公転スピードを習った記憶がないでしょう。それはたぶん、子どもたちが怖がるからです(笑)。自分たちの乗り物が秒速30キロメートル(時速10万8000キロメートル!)で突っ走っていると思ったら、ちょっと気分が悪くなる人もいるかもしれません。

iStock.com/Nastco

 それだけでなく、実は地球を含む太陽系自体も猛スピードで動いています。それも、秒速220キロメートル。私たちは、宇宙という大海原を、1時間に約80万キロメートルの速さで進んでいるわけです。

 とはいえ、あてもなく猪突猛進しているわけではありません。地球が太陽の重力で「落ちる」のと同様、太陽系も天の川銀河全体の重力に引っ張られています。銀河系から離れてさまようことはないので、どうぞご安心を(ただし天の川銀河自体が隣のアンドロメダ銀河と45億年後に衝突する予定なので、それまでに脱出計画を立てなければいけません)。

 それだけのスピードで走る太陽系を捕まえているのですから、その重力は大変なものです。ところが、不思議なことがわかりました。天の川銀河全体の星やブラックホールなどをすべて集めても、太陽系を引き留めておけるほどの重力にはならないのです。

 そんなことが計算できるようになったこと自体が大変な進歩なのですが、ともかく、そこに星以外の「何か」がないと、私たちは安心して太陽系に乗っていられません。どこかへ飛んでいってしまうはずです。しかし現実に、私たちは天の川銀河の一員としてそこに留まっています。

 では、何の重力が太陽系をここに引き留めているのか。

 それが、暗黒物質です

 もちろん、暗黒物質は私たちが住む天の川銀河だけにあるわけではありません。お隣のアンドロメダ銀河も、ほとんどが暗黒物質です。

 暗黒物質は宇宙全体に遍在しており、それが宇宙の全エネルギーに占める割合は約23%、原子のおよそ5倍です。光り輝く星たちが主役だとばかり思っていた銀河系ですが、その星をつくっている原子は、宇宙の中ではマイナーな存在にすぎません。「銀河」とは名ばかりで、実のところ、それは暗黒物質の溜まり場のようなもの。そこに星がちょっと混ざっているのが、銀河系の実態なのです。

目に見えない「お化けエネルギー」

 いまの話で、いかに「万物が原子でできていないか」がおわかりになったでしょう。しかし、原子と暗黒物質を合わせても、まだ27%。宇宙のほんの一部にすぎません。それ以外の73%──つまり宇宙の大部分──は、いったい何が占めているのでしょうか。

iStock.com/robertsrob

 これも名前だけは一応ついていて、「暗黒エネルギー(ダークエネルギー)」と呼ばれています。でも、その正体は暗黒物質以上によくわかりません。

 暗黒物質のほうは、私たちの知っている原子とはまったく違うとはいうものの、それなりに「物質」らしく振る舞います。どういうことかというと、宇宙が膨張するにつれて、その密度が薄まるのです。べつに、難しい話はしていません。たとえばビー玉の入った箱の容積を2倍に広げれば、ビー玉の密度は半分になりますよね? 物質とは、そういうものです。その点では、原子も暗黒物質も変わりがありません。

 ところが、暗黒エネルギーは違います。きわめて非常識なことに、宇宙という「箱」がいくら大きくなっても、その密度が薄まることがありません。とても気持ちの悪い話なので、できることなら、「お化けなんてないさ」という歌のように、「お化けなんてウソさ」と思いたいところです。

 でも、そのような不気味なエネルギーの存在を前提としなければ、もっと気持ちの悪い現象を説明することができません。それは、宇宙の膨張スピードが「加速している」という事実です。

 それがなぜ気持ち悪いかを説明する前に、宇宙の膨張について少しお話ししておきましょう。そもそも宇宙が膨張していること自体が、昔の人たちにとっては「気持ちの悪い現象」だったはずです。

 かつて宇宙は、始まりも終わりもない、不変の大きさを持つ空間だと考えられていました。それが実はどんどん膨張しているとわかったのは、やはり宇宙から届く「光」を観察した結果です。

 光や音などの「波」は、光源や音源が近づいたり離れたりするときに、波長が変化します。誰もが日常的に経験するのは、いわゆる「ドップラー効果」でしょう。自分に近づいてくる救急車のサイレンは音が高く、遠ざかっていく救急車のサイレンは低く聞こえます。近づく音は波長が縮まり、遠ざかる音は波長が引き伸ばされるからです。

 光の波長にも、それと同じことが起こります。音波は波長の変化によって「高さ」が変わりますが、こちらで変化するのは「色」です。たとえば、遠ざかる星は赤く、止まっている星は黄色く、近づいてくる星は青白く見えるわけです。

 その変化を観察したところ、たとえば黄色に見えるはずだった星が赤くなるなど、星や銀河が地球から遠ざかっていることがわかりました。だからといって、地球が宇宙の中心にあって、ほかの星がどんどん離れているわけではありません。空間全体が膨らんでいるから、それぞれの星が遠ざかっているように見えるのです。

 それをイメージしにくい人は、伸縮自在のゴムでつくられた碁盤を思い浮かべてみてください。碁盤全体が宇宙、碁盤の目がそれぞれの銀河です。この碁盤の四隅を引っ張って「膨張」させると、銀河と銀河のあいだの距離は遠くなりますよね? どの銀河からも、ほかの銀河が自分から遠ざかっているように見えるのですが、「中心」はありません。宇宙の膨張も、それと同じようなものだと思えばいいでしょう。

村山斉『宇宙は何でできているのか』

すべての星と原子を足しても宇宙全体の重さのほんの4%。 では残り96%は何なのか? 物質を作る最小単位の粒子である素粒子。誕生直後の宇宙は、素粒子が原子にならない状態でバラバラに飛び交う、高温高圧の火の玉だった。だから、素粒子の種類や素粒子に働く力の法則が分かれば宇宙の成り立ちが分かるし、逆に、宇宙の現象を観測することで素粒子の謎も明らかになる。本書は、素粒子物理学の基本中の基本をやさしくかみくだきながら、「宇宙はどう始まったのか」「私たちはなぜ存在するのか」「宇宙はこれからどうなるのか」という人類永遠の疑問に挑む、限りなく小さくて大きな物語。

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村山斉

東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構(カブリIPMU)教授、カリフォルニア大学バークレー校マックアダムス冠教授。1964年東京都生まれ。91年東京大学大学院理学系研究科博士課程修了。理学博士。東北大学助手等を経て2000年よりカリフォルニア大学バークレー校教授。02年、西宮湯川記念賞受賞。07年から18年10月までカブリIPMUの初代機構長。専門は素粒子論・宇宙論。世界の科学者と協調して研究を進めるとともに、市民講座などでも積極的に活動。『宇宙は何でできているのか』(幻冬舎新書)、『宇宙は本当にひとつなのか』(ブルーバックス)、『宇宙を創る実験』(編著、集英社新書)、翻訳絵本『そうたいせいりろん for babies』(サンマーク出版)など著書多数。

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