ひさびさになります!
香川さんのエッセイが届きました。
休んでいた分をヨユーで挽回しやうくらい、めちゃくちゃ感動的な、家族のおはなし。

 家族

 ご無沙汰しております。香川です。また1か月以上も原稿を放置してしまった…。
 もはやこれは週刊少年ジャンプでいうところの『HUNTER×HUNTER』の冨樫先生レベルである…。いや、人気漫画家の大先生と一緒にするなんておこがましい。僕の場合はただの怠慢である。
 しかし、言い訳にはなるが、ここ最近ツアーに制作にリハーサルに打ち合わせに、非常に忙しかった…。嬉しいことだが、30代の身体には少々ハードなスケジュールで、日々、体調管理との闘いである。来月に控えている海外遠征まで、ノンストップ現在進行形なのでだ。
 ほとんど休みがないので、たまに休みの日があると、ついつい映画を観たり漫画を読みたくなるのだ!(原稿書けよ!!)こんなダメ唄うたいのエッセイをそれでも愉しみに読んで下さる方のためにも、もうちょっと気張れる体力をつけなければ。心よりお詫び申し上げます!!!

 さて、あっちやこっちやと旅は続いている。
 先日、関西は兵庫県で阪神高速に乗って、軽快に車を飛ばしていた。そのうち、なんだかトイレに行きたくなってきた。しかし阪神高速のような“都市高速”は、休憩できるPA(パーキングエリア)がすごく少ない。どうしようもないので、とりあえずひたすら我慢して目的地へ急いでいると、尿意は問答無用で『ドンドン!まだですかーー!?』と僕の下腹部をノックしてくる。
 まずい…。しかし、トイレなんてない。
 車のナビには付近のIC(インターチェンジ)やPAを表示してくれる機能がついているため、何処かにPAはないもんかと見てみると、2.5㎞先に『PA しあわせの村』と表示されていた。
 あまり聞いたことのない名前のPAだが、何にせよ助かった…。なんたる幸運。しあわせ…。
 まるで虹のふもとでも見つけた気分だ。なんとか大惨事は免れそうである。

 数分後、そろそろかな?と前方を確認するも、一向に「しあわせの村」の標識が出てこない。おかしい。ナビに目をやると、ちゃんと「100m先 PAしあわせの村」と表示されている。しかし次の瞬間、僕の見ている目の前で、画面から「しあわせの村」が“パッ”と消えたのである。

 き、消えた!!しあわせが、消えた!!

 幸せというモノはいつもあと一歩という所で、跡形もなく消えてしまうものなのだろうか――。人生は、時にしょっぱくて生温かいスパイスを用意してくれる。
※ナビの誤作動でした。

* * * * *

iStock/YekoPhotoStudio

「今夜は私たちにとって特別な夜なんです」
 大阪は守口市。ライブ前に、会場外で今日演奏する曲目リストを確認していると、40代くらいの女性が話かけてきた。聞くと、今日は“娘が初めて恋人を自分達夫婦に紹介してくれる日“なのだという。いわゆる、“結婚の報告”だ。「娘さんを僕に下さい!」記念日になる予定なのだろう。
 いやいや、それはどう考えても、ライブ会場でやることじゃなくない? もっと静かなとこでやるべきじゃ…!? と驚いたが、なんでも父親が非常に口下手で、顔合わせを拒否していたらしい。そこで、面と向かって話をしなくても同じ空間で音楽を楽しめるライブなら、少しは距離が縮まるのではないかという、母のアイデアだそうだ。
 若いカップルにとって、とりわけ彼氏くんにとっては、人生のトップ3に入るくらいの緊張の夜。どう考えてもライブなんて楽しめるわけがない。しかし僕もプロ歌手の端くれ。是非とも、その家族にとって、一生の思い出に残るような夜を作りあげてあげたい。

 いつも以上に気合を入れて臨んだライブが幕を上げた。
 事前に聞いてはいたものの、この会場のお客さんの、一体誰が、今夜結婚を決めるカップルなのだろうか。本番前に声をかけてくれたお母さんは奥に座っており、そのすぐ隣に若いカップルが座っている。おそらくその二人だろう。
 彼氏の方は、やや顔が強張っていて、緊張しているように見える。反対隣には、少し強面で恰幅の良いおじさん。彼女の父親なのだろう。厳格そうに見えるが、きっと娘にはいつも優しく、自分の人生のすべてを家族に注ぎ込んで頑張ってきた方に違いない。そのせいか、頭もやや薄い。しかしその薄さは、裏を返せば“父の愛情の厚み”なのだ。娘さん、「お父さんのあとのお風呂は、湯船に毛が浮いてて気持ち悪いから嫌!」とか言わないであげてほしい。

 いつもどおりライブを進行し、前半のラストで、僕は「家族」の話をした。他愛もない話だが、これから新しい人生を歩む二人への餞(はなむけ)でもあった。そして、その家族に向けて、福山雅治の「家族になろうよ」を歌わせて頂いた。父や母のような幸せな家族を築いていけますように、という想いが込められた、かの有名な名曲である。

 歌いながら、若いカップルや父親に目を向けると、全員が神妙な面持ちで聞いてくれていた。彼氏の方は、良く見たら、シャツに蝶ネクタイを締めて、室内で帽子を被っている。オシャレかもしれないが、本当にそれでいいのか。大切に育ててこられた娘さんをお嫁さんにいただこうというのに、蝶ネクタイでええんか。スーツにネクタイやろ! 普通!

 父親は泣き崩れてしまいそうな顔で、僕をじっと見つめてくれている。いや、僕と歌を通して、娘との二十数年間の歳月を、もう一度歩んでいるのかもしれない。
 初めて彼女を抱きかかえたあの日、パパと呼んでくれた日、クリスマスプレゼントにはしゃぐ娘の姿、受験勉強に差し入れした不格好なオニギリを頬張る顔…。まるで昨日のことのように思い浮かんでいるのだ。
 母親を見ると、これまたなんとも言えない、困ったような顔をしていた。そりゃそうだろう。娘の幸せを願う気持ちと、自分の手元を巣立っていく寂しさは、そう簡単に整理できる感情ではない。お母さん、我慢しなくて良いんですよ。泣きたいときは、泣けば良いんです。

 最後の1音まで、僕は丁寧にギターの弦を震わせた。僕自身、気持ちが乗っかって、きっと良い唄が歌えたはずだと満足していた。
「ここで一旦休憩となります」
 そう告げて、前半のステージを終えた。休憩の間、一度気持ちをリセットしよう。そして後半はとにかく楽しいライブにしよう。当然だが、僕はその家族だけじゃなく、会場全体のお客さんのために歌わなければならないのだ。

 休憩中、外で夜風に当たっていると、先ほどの母親がなんだか申し訳なさそうに声をかけてきた。
「先ほどは家族の歌、どうもありがとうございました。感動しました。」
 いえいえ、感動をもらったのはこっちの方ですよ。良い家族が築いていけたら良いですね。

「それが……申し訳ないことに、娘達とお父さん、まだ来てないんです!」

「…………?」

 ええええええーー!!!

 どうやら僕はまったく関係ないカップルに向けて歌い、蝶ネクタイを無駄に揶揄し、無関係のおじさんに想いを馳せて歌っていたようである。どないやねん。
 まぁいいか。
 この際、そのカップルにも幸ありますように!!!!

 その後、本物の若い恋人達と、父親も登場。そもそも僕なんかが変なおせっかいを焼かなくても、和やかなムードで顔合わせをしていた。結果オーライ!
 ナニハトモアレ、若い夫婦に消えることのない“しあわせな家庭”が築いていけますように。おめでとうございます!!!

この記事をシェア
この連載のすべての記事を見る

★がついた記事は無料会員限定