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2013.12.27

第4回

基礎から考えること 後編

大栗 博司

基礎から考えること 後編

無理数の衝撃

 紀元前$4$世紀ごろに書かれたプラトンの対話編『メノン』では、テッタリアから訪れた客人メノンに、「自分の知らないことをどうして探求することができるのか」と問われたソクラテスが、次のような実験をする場面がある。

 ソクラテスは、メノンの召使いの少年を呼び寄せ、与えられた正方形の2倍の面積の正方形を作れという問題を出す。少年は$1$辺を$2$倍にすればよいと答えるが、ソクラテスに導かれて、それでは面積が$4$倍になってしまうと悟り、自らの「無知」を自覚する。


図2

 ソクラテスは砂の上に正方形を$2$つ描き、おのおのを対角線で$2$つの直角$2$等辺$3$角形に分ける。少年は、ソクラテスの質問に導かれて、この$4$つの$3$角形を直角の部分を中心に集めると、面積が$2$倍の正方形になるという正解に到達する(図$2$)。この実験の後、ソクラテスは、メノンに語りかける。 

「われわれは自分が知らないことを発見することはできないし、そのようなものを探求すべきでもないというふうに考えるよりも、人は自分が知らないことを探求すべきであると考えるほうが、よりすぐれた者であり得るし、より勇敢であり、より怠けない者であり得るのだ」(光文社古典新訳文庫『メノン―徳について』プラトン著、渡辺邦夫訳) 

 もともとの正方形の辺の長さを$1$とすると、その面積は$1 \times 1=1$。ソクラテスとの問答から、この正方形の対角線を使えば、面積が$2$倍の正方形ができることがわかる。つまり、対角線の長さは$2$乗すると$2$。現代の表記法を使うと、対角線は$2$の平方根、つまり$\sqrt{2}$ということになる。

 古代ギリシア人は数としては分数しか存在しないと考えていた。たとえば、線分(直線の一部)の長さは、基本となる長さの分数倍として表されると信じられていた。与えられた線分の分数倍なら、定規とコンパスで作図できるからだ。ちょっと説明しようか。

図3

 たとえば、$1$つの線分が与えられたときに、これを$2$倍の長さにすることは簡単だ。定規を使って線分をまっすぐに延ばし、コンパスでもとの線分の長さを半径とする円を描いていけば、直線の上に$2$倍の長さのしるしをつけることができる(図$3$)。

 では、同じ線分を$1/3$にするにはどうしたらよいか。まず、この線分に平行な、別な線分を描く。平行な線分の描き方は知っているかな。ひとつのやり方としては、まずコンパスを使って垂線を引く。この垂線に、垂直な線を引けば、これはもとの線分と平行になっている。


図4-1

 さて、この新しい線分の方を$3$倍にする。これもコンパスで作図できる(図$4$-$1$)。次に、図$4$-$2$のように直線を引いてやると、もとの線分が$1/3$に分割されることがわかるだろう。このやり方で、どんな分数についても、与えられた線分の分数倍を描くことができる。


図4-2

 古代ギリシアでは、自然界の様々な現象の中に分数が見いだされた。たとえば、紀元前$5$世紀の偉大な数学者ピタゴラスは、$2$つの音の周波数の比が簡単な分数になるときに、その和音が美しく響くことを発見した。そのため、ピタゴラスたちは、分数が自然界の美と真実を表していると考えた。

 しかし、分数による調和的な世界観を主張したピタゴラスたちは、数学の論理を追っていくうちに、分数でない数を発見してしまう。プラトンの対話編に現れる「正方形の面積を$2$倍にする問題」が有名なのは、その$1$世紀前のピタゴラスの時代に、分数でない数 $\sqrt{2}$ の発見のきっかけになったからだ。

 ピタゴラス自身は、すべての数は分数だと信じていたが、正方形の面積を倍にする数$\sqrt{2}$が分数であることは、どうしても証明できなかった。ところが、彼の弟子のヒッパソスが、この数が分数ではありえないことを証明してしまう。正方形の対角線は、定規とコンパスで作図できる線分なのに、対角線と辺の比は分数ではなかったんだ。ピタゴラスの教えに反する発見をしたヒッパソスは、溺死させられたと伝えられている(この発見を船上で披露したヒッパソスに怒ったピタゴラスが、彼を海に投げ込んだとも言われている)。

 分数として表すことのできる数のことを「有理数」、そうでない数のことを「無理数」と呼ぶ。さっき、「負の数」に否定的な印象があると言ったけれど、「無理数」という呼び方にも苦労が表れている。

 では、$\sqrt{2}$はどうして無理数なのか。ほとんどの教科書では、背理法を使って証明してある。$\sqrt{2}$が分数で表せると仮定して、矛盾を導くというやり方だ。今回は、せっかく連分数の話をしたのだから、連分数を使って、$\sqrt{2}$が無理数であることを示そう。

 語呂合わせでは、$\sqrt{2}=1.41421356\cdots$を「ひと夜ひと夜に人見ごろ」と覚える。これを連分数で表そうとして、

\begin{align}
1.41421356 &= 1 + 0.41421356\nonumber \\
& = 1 + \cfrac{1}{2.4142135\cdots} \ , \nonumber
\end{align}

と書いてみると、分母の$2.4142135\cdots$の小数点以下が、$\sqrt{2}=1.41421356\cdots$と同じように並んでいることに気がつく。そこで、

$$ \sqrt{2} = 1 + \cfrac{1}{1 + \sqrt{2}}\ ,$$

となっているのではないかという予想が立つ。実際、これは正しい。両辺に$(1+\sqrt{2})$を掛けてやると、左辺は、

\begin{align}
& (1+\sqrt{2}) \times \sqrt{2}\nonumber\\
&= \sqrt{2} + \sqrt{2}\times \sqrt{2} \nonumber \\
&= \sqrt{2} + 2\ , \nonumber
\end{align}

右辺は、

\begin{align}
&(1 + \sqrt{2}) \times \left( 1 + \cfrac{1}{1 + \sqrt{2}}\right) \nonumber \\
&= 1+\sqrt{2} + 1 = \sqrt{2} + 2\ , \nonumber
\end{align}

となり、両辺が等しくなるからだ。

 そこで、この連分数の計算を繰り返していくと、

\begin{align} \sqrt{2} & = 1 + \cfrac{1}{1 + \sqrt{2}}\nonumber\\ & = 1 + \cfrac{1}{1 + 1+ \cfrac{1}{1+ \sqrt{2}}}\nonumber\\ & = 1 + \cfrac{1}{2+ \cfrac{1}{2+ \cfrac{1}{1+ \sqrt{2}}}}\nonumber\\ & = 1 + \cfrac{1}{2+ \cfrac{1}{2+ \cfrac{1}{2 + \cfrac{1}{2+\cfrac{1}{\cdots}}}}}\ .\nonumber \end{align}

この連分数は、無限に続く。もし、これが分数ならば、さっき見たように、連分数表示はどこかで止まるはずなので、これは分数ではありえないということがわかる。


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幻冬舎plus2014.1.7

kanchan様、コメントいただきありがとうございます。 正17角形の式は、式が長くなったため平方根を途中で切って改行しています。ご覧になりにくい点、申し訳ございません。 正5角形の「74度」は誤記でしたので修正いたしました。ご指摘ありがとうございます。

kanchan2013.12.28

正17角形の式の記載箇所の表示が、不分明です。また、正5角形の記載箇所「74度」は、誤記でしょうか?

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