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 日本企業の9割以上は、同族経営の中小企業。その多くで経営者の高齢化が進み、後継者が決まっていません。中小企業の後継者不足は、まさに日本経済にとっての死活問題です。
 そんななか、
『アトツギが日本を救う――事業承継は最高のベンチャーだ』を出版し、「若者よ、家業を継ごう!」と呼びかけているのが、株式会社サンワカンパニー代表取締役社長の山根太郎さん。
 家業を継ぐことなどまったく考えていなかったという山根さん。なぜ2代目社長となったのでしょうか? なぜ今、後輩たちに「アトツギよ、立ち上がれ!」と呼びかけているのでしょうか?

亡くなる3日前の国際電話

 2012年8月。そのとき私は伊藤忠商事の社員で、上海に駐在していました。いつものように仕事をしていると父から電話があり、こう告げられました。

「やっぱり、お前しかおらん」

 父は、20代で事業を立ち上げた創業者です。私は、父の後を継ぐつもりはまったくありませんでしたし、父も「お前には継がさへん」と、よく言っていました。
けれども「やっぱり、お前しかおらん」。
このとき父は、末期の肝臓がんでした。ほとんど力が入らない手で、震えながら受話器を持ち、最後に会いたいということと、私に、会社を継いでほしいということを伝えてきたのです。

 父の体がそろそろ危ないということは知っていました。
 電話の1カ月前に母から連絡を受け、父に会いに行っていたからです。ガリガリに痩せ、腹水が溜まった父を見て、ある程度の覚悟もしていました。でも、家業を継ぐ話なんて、そのときもしなかったし、幼少時代をさかのぼっても一度もありませんでした。
だから、父から会社を継いでほしいと言われたときはとても驚きました。

「お前には継がさへんと言われてたから、そういう準備をしてないし。そもそも、やるわと言ったって、アパレルのことしかわからへんで」戸惑いながらそう伝えましたが、父の 答えは、「それでええねん」。
「たしかにお前は、うちの業界のことはわかってへん。お前より詳しい社員は山ほどおる。業界内にもたくさんおる。だけど変わってへんやん。やっぱり中からは変えられへんねや。だからお前みたいな、わけわからんやつがいきなり来て、なんでこんな古臭いことやってるんですかって、好きにやってくれたらええねん」

 私は迷いました。
 当時、伊藤忠商事の売上は約12兆円、社員数は約4300人。
 一方、父の会社「サンワカンパニー」の売上は56億円、社員数は約50人。
 伊藤忠の社員をサンワカンパニーにヘッドハンティングしようとしても、なかなか難しいでしょう。

 また、世間からの目も気になりました。
「起業家はカッコいいけれど、2代目はアホのぼんぼん」
 世間から、そう思われている気がしましたし、親が作った会社でビジネスをするという後ろめたさのようなものもありました。

 でも、これは父が最後にくれたチャンスです。社長になるというチャンス。このチャンスは、決してすべての人にめぐってくるわけではありません。

 電話がかかってきた3日後、父は亡くなりました。そして私は今、サンワカンパニーの2代目社長をしています。

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山根太郎『アトツギが日本を救う――事業承継は最高のベンチャーだ』

者よ、家業を継ごう!
日本経済を元気にする、後継ぎのすすめ。
■同族経営中小企業の後継者不足は、日本経済にとっての死活問題
■すでにあるインフラを活用できる環境で社長になれるのは、大きなチャンス
■後継ぎはカッコ悪くない、後ろめたくない
■社長になるのに「満を持して」のタイミングなんてない
■家業を継いで成果を出せないなら、創業しても成功しない
■親の会社で修業する必要はない
■お家騒動と言われてもいい。社内の膿はすべて出す
■家業なんか乗っ取るつもりでやれば、ベンチャー以上に刺激的
「建築業界の異端児」が後継ぎの立場から考えた、成功する事業承継とは?
来たるべき「大廃業時代」の救世主となる一冊!