2017年9月12日深夜、ヨーロッパ国境沿岸警備機関(FRONTEX)のポルトガル沿岸警備隊による夜間パトロールに同行した。

 ギリシャ・レスボス島北端のモリボス沖合。ギリシャとトルコの両岸を隔てる距離はわずか10㎞。ほぼ2年前の2015年夏、1日1万人もの難民がゴムボートなどに乗り、対岸のトルコ領からレスボス島に押し寄せた。まさにその海に私はいた。

 小型巡視艇は午後10時過ぎ、モリボスの船着き場を出航すると、モーターのうなりを上げ、ギリシャとトルコの中間線を目指して波しぶきを上げた。乗員は、レスボス島のポルトガル沿岸警備隊隊長ペトロ・ジャルディン(41)をはじめとするポルトガル隊員4人に、ギリシャの沿岸警備隊員1人、そして、ミティリーニの町からやってきた私と、FRONTEXのレスボス島本部渉外担当シュテファン・アンドレエスク。ジャルディンは、ずんぐりした体つきの、よく日焼けした顔に頬ほお髭ひげを生やした、人のよさそうな男だった。

 車のハンドルのような操縦桿(そうじゅうかん)を握るのは、沿岸警備隊に勤めて26年になるというカルロス・ボラーリョ艦長(44)。「向こうに見えるのがトルコ側の灯。こちら側がギリシャの領海。我々は境界付近を重点的にパトロールする」と船を操りながら話す。

 操縦席の前に設置してあるモニター画面は二つ。操縦桿の前のレーダーによるモニター画面には、両岸の陸地が赤く、その間に船の形をした表示が点在している。左手の赤外線監視装置によるモニター画面には、前方の海面の様子が灰色にぼんやりと映し出されている。

「レーダー画面に映るこの表示が周囲を航行している船を示す。今映っているのは貨物船。前方にぼんやりと赤いランプが見えるだろう」とボラーリョは前方に目をこらした。

 ジャルディンによれば、当地に派遣されているポルトガル沿岸警備隊の監視活動は、2チームに分かれて行っている。この巡視艇チームと、地上にあるレーダー施設のチームだ。

「地上チームは船の装備より強力なレーダーと赤外線監視装置を持っている。何か不審な船を発見すれば、我々に伝え、我々は接近してその船が何であるか確認する。ゴムボートの難民船はレーダーでとらえるのは難しいが、地上や巡視艇の赤外線監視装置や、我々が肉眼で発見することができる」

 ジャルディンによると、ポルトガル隊は2015年以来の活動で、これまでに4000人以上の難民を救助した。「前方に男を20人、船室に子供を20人、後方に女を20人乗せて、ギリシャ側まで運んだこともある。助けられなかった難民もたくさんいたと思うが、犠牲者の正確な数は誰もわからない」

 難民船には武装した密航業者が乗っていることがあるが、これまで武器を使い抵抗されたことはないという。

 巡視艇は再びエンジンを起動させ、島に向かって速度を上げた。モリボスの明かりがだんだん大きくなり、巡視艇は出航したのと同じ船着き場に滑り込んだ。

 沖合にいたのは2時間。「夜間に密入国しようとする難民船が多い。夜間は危険なのだが、巡視艇に見つからないと思っている」とジャルディンは言ったが、幸か不幸か難民船に遭遇することなく、同行取材は終わった。波もずっと穏やかなままで、満天の星に陰りはなかった。「昨日は海が荒れて、巡視艇は木の葉のように揺れた。あなたは幸運だった」とジャルディン。

 通常は5~6時間沖合にとどまり監視活動を行うが、この日は私が乗っていたため特別にいったん寄港したという。巡視艇は私、アンドレエスク、ジャルディンの3人を降ろすと、また出航していった。

 

この記事をシェア
この連載のすべての記事を見る

★がついた記事は無料会員限定

三好範英『本音化するヨーロッパ 裏切られた統合の理想』

アフリカからの難民をイタリアが堂々と受け入れ拒否し、EU内では政権参加するポピュリズム政党が増加、ロシアの軍事的脅威には徴兵制復活の動きで対抗する……。ギリシャの共通通貨ユーロ離脱は一応回避し、外からは一見、落ち着きを取り戻したかのように思える欧州。だが、エリートたちが懸命に目指そうとする理想とは裏腹に、普通の人々の生活レベルでの不満は鬱積し、むしろ深化していた――。9年半のベルリン特派員経験を持つ著者が、緊張の現場を丹念に取材。米・英に続く、ヨーロッパの「本音化」というべき現象が、EUの協調を崩し、世界の衝突の震源地となる!