リクルート「スタディサプリ」の人気講師で『学習版 日本の歴史人物かるた』の著者でもある伊藤賀一先生。

そして『笑えて、泣けて、するする頭に入る 超現代語訳 幕末物語』を8月に発売したお笑いコンビ「ブロードキャスト!!」の房野史典さん。

おふたりがそろって「伊藤賀一さんと房野史典さんが教える 笑って、泣ける日本の歴史~幕末編~」と題し、幕末を中心に日本の歴史を語るトークイベントを開催しました。

この日は最年少は10歳の女子、そして中学生や高校生、上は60代という幅広い世代の約90名にお集まりいただきました。
盛り上がりに盛り上がった、幻冬舎大学主催のトークショー。
あまりに面白い内容だったので、3回にわけて、その詳細をリポートします!

「幕末」を理解するのはものすごい難しい

房野 (たくさんの参加者の方を見て)うわ~、嬉しいですね。でもこれだけ集まってもらって、終わった後、何も学べてなかったらどうします?(笑)

伊藤 僕ら今日のトーク、一切打ち合わせしてないですからね(笑)。

房野 もう僕は全部、伊藤先生にお任せします! 今日は幕末について喋らせてもらうわけですけど。

伊藤 そうですね。僕がたまたま京都出身でして。京都の壬生(みぶ)という所の。

房野 出た、ズルい!(笑) 壬生は新選組が結成した、幕末好きからしたら、もうとんでもない聖地(※)ですよね。
(※壬生は将軍徳川家茂が京都を訪問する際、護衛として集められた幕府の浪士組が集まった場所。京都に残った近藤勇や芹沢鴨らを中心に壬生浪士組が結成され、これが後に新選組となった)

伊藤 はい、ありがたいことに、観光客がいつもいるような場所で生まれ育ちました。ただ京都って町は、聖地があちこちにいっぱいあるありがたい土地なのに、そういう聖地をかなり雑に扱ってるんですよ。坂本龍馬が暗殺された近江屋の跡とか、ひどいですよね。

房野 今は居酒屋でしたっけ?

伊藤 居酒屋になってるのは、池田屋(※)の跡! ちなみに居酒屋の前はパチンコ屋でした(笑)。近江屋の跡は、今は回転寿司屋になってますが、その前はコンビニでしたね。
(※1864年、旅宿の池田屋に集まって謀議をしていた長州、土佐、肥後の討幕派浪士を新選組が襲撃した「池田屋事件」が起きた場所)

房野 日本人って、ヨーロッパに比べて、歴史的遺物を軽んじてるところありますよね。

伊藤 リスペクトがちょっと足りない部分があるんですよね。……でも、歴史上の重要な場所が今はこんなふうになってる、というのを追っかけるのも、また楽しいことだとも思うんです。
ところで、房野さんの本、読ませていただいたんですけど、すごい人たちが推薦してますね! 歴史作家の河合敦さんとか。

房野 はい、あとは『ビリギャル』の坪田(信貴)先生、そしてキングコングの西野(亮廣)さん……もう癒着しかないです! コネクションをフルに使ってます!(笑)

伊藤 (笑) それでいくつか言っていこう、と思うんですが……

房野 え、ダメ出しですか? 僕、褒めて伸びるタイプなんですけど(笑)。

伊藤 褒めるに決まってるじゃないですか、ここの関係も癒着しかないですから!

房野 ありがとうございます(笑)。

伊藤 すごいなと思ったのは、「現代に例えたら何」、というのがわかるところですね。幕末って、実はものすごい難しいんです。これなぜかって言うと、政策と各藩の殿様たちの趣旨が、一貫してないからなんですよ。「藩」っていうのは国みたいなものなので、国王である殿様は領民を守らないといけない。そういう立場と、もうひとつ「政治家」としての野心もあるわけですよ。なので殿様は、領民を守るためには幕府方、公武合体派についておかなければいけない。でも、政治家の野心としては、尊王攘夷運動側にも肩入れしないといけない。

房野 うわ~、なるほど!

伊藤 だから、やじろべえのように振れるんですね。こっち側では幕府の味方みたいな顔をしておきながら、手下を使って尊王攘夷運動をやらせたりするので、はっきりしないわけです。「この人、どっち派なんだ?」となってしまう。その点、新選組はわかりやすいですよね、最後まで公武合体派、幕府側なので。でも、上の人たちがブレているから、幕末はゴチャゴチャしているんです。

房野 はいはい、確かに!

伊藤 それをこの本では、現代とうまく繋ぎ合わせて提示されているんです。これがまず一点。

房野 やった!褒められた!

伊藤 そして、「要するに何?」っていうことを説明するために、何かにたとえるわけですけど、房野さんはそれを「〇〇は、今でいうと××のこと」という説明をしているんですね。
歴史の授業って、たとえてナンボみたいなところがあって。でもこれって「スタディサプリ」のような映像では難しいんです。というのも、授業の映像には何年も使うものもあるので、旬のネタや、流行っていることを使ってたとえることができないんです。後で見ると、古くなってしまうので。それは著書でやるしかないんですけど、それをうまくやってらっしゃる。

房野 ありがとうございます!

伊藤 それを「超訳」って呼ぶんですけど、そういうのって昔でいえば橋本治さんが『桃尻語訳 枕草子』などをやっていた。その系譜をしっかり引き継いでらっしゃるなと。

房野 いつの間に引き継いだんだろう?(笑) いや、でもすげぇ嬉しいです!

伊藤 あともう1個、褒めていいですか?

房野 いや、いくらでも!(笑)

伊藤 やっぱり、本っていうのは、最後まで読まない人がメッチャ多いんですよ。売れてる本ほど、「買ったはいいけど積読(つんどく)になってしまて、最後まで読んでない」ってなっちゃう人がかなりいらっしゃるから。でも我々著者は、最後まで読ませる本をやっぱり書きたいわけですよね。この本はね、面白くて最後まで読んじゃいますよ。

房野 ありがたい。でも僕は歴史の専門家でもなくて、ちょっと好きっていうくらいで。『超現代語訳 幕末物語』の前に『超現代語訳 戦国時代』を書いてるんですけど。

伊藤 一番前に座ってる10歳の彼女がその本持ってきてますよ。すごい、付箋がメッチャ付いてますよ。大人向けの本を10歳で読み込んでるっていうことですよ!

房野 ありがとう~! メッチャ読み込んである! 僕ね、本は全世代に向けて書いてるんですけど、子どもさんに読んでいただくのがやっぱり一番嬉しい。しかも10歳だもんね。ありがとうね。
僕が本で伝えたいのは、歴史のテストに出ることってより、「1回ちょっと(歴史の面白さに)入ってみて!」てことなんです。あまりにも歴史アレルギーの人が多いから。だから、試してみてダメなら別に好きにならなくてもいいから、これ、一度読んでみてって。みんな、年号を覚えるとかでイヤになって、試さずに終わるじゃないですか。それをどうにか払拭したいなと。で、この本、1回読んでもらえたら、日本の、言ったら、ちょっと前に実際に起こったノンフィクションで、これだけ面白い話って、他にないと思ってもらえるんじゃないあなって思うんです。

伊藤 そうそう。自分も歴史の本を書いているので、わかるんですけど、歴史の話って、書いてる方も気が楽なんですよね。っていうのも、彼らの著作権がすべて消えてるんですよ! 織田信長のことや坂本龍馬のことは、実名を出そうが、何を書こうが、著作権が関係ない!(笑)

房野 よく考えたらそうですね! 物語の主人公としてはもう完璧ですね!(笑)

「戦国時代」と「幕末」が人気の秘密とは?

伊藤 先日、河合敦先生とメールでやり取りをしたんですけど、河合先生が「僕には書けない、房野さん天才だ!」と言ってましたよ。

房野 そうですか! マジうれしい! でもそれは、僕が芸人だからでしょうね。端的に言えば、芸人っていつも「編集作業」してるんですよ。劇場やテレビって、トークやネタをやる時間が決まってますから、その時間内でお客さんに伝えないとダメで、しかも笑いが起こるところ以外も飽きさせちゃダメ。そのための言葉を「これ要らない」「これ入れる」って、1文字1文字編集してるんです。だから僕は知識は特別になくて、、この本は編集作業で出来上がっているんです。そういう意味で河合先生は「僕には書けない」っておっしゃったんじゃないですかね。

伊藤 でもそうやって、劇場に来る若い方を相手にしているから、今の感覚も文章に出るんでしょうね。

房野 かもしれないですね……えーと先生、そろそろ幕末の話をしないと……(笑)。
日本の歴史の中で、戦国時代と幕末って人気があるじゃないですか。なんで魅力を感じるんでしょうね?

伊藤 やっぱり、戦国も幕末も、結局のところはガラガラポンというか、下剋上だっていうことが大きいと思うんですよね。チャンスが広がってる時代。実はですね、幕末より前は、人はみんな、生まれた瞬間に人生が決まっていたんですよ。親の職業を継ぐ以外の選択肢が基本ないんです。将軍の子に生まれないと、絶対将軍にはなれない。町奉行の高いクラスに生まれない限り、そのクラスには絶対行けない。日本は弥生時代以降、幕末まで、ずっとピラミッド型の社会だったわけですね。

房野 うわ、期間長ッ!

伊藤 ノーチャンスなんですよ、基本的に。ところが戦国時代と幕末だけは、このピラミッドの下の方から逆転の可能性があるんです。自分の人生を自分の力で変えていくことができる。そういうチャンスのある時代だというのが、私たち現代の人たちにもストライクする理由だと思います。

房野 あ~、なるほど! そう考えると、歴史上で、一番度肝を抜かれた時代が幕末だったのかな、って思いますね。「全然、想像だにしなかったもんが入ってきた時代」という意味では、戦国よりも幕末ですよね。

伊藤 確かに。外からの衝撃がね。わかる人はわかると思うんですけど……「壁の外から巨人が攻めてきた」というか(笑)。

房野 それそれそれ! 『進撃の巨人』みたいなもんで(笑)。これまで外国と絡んでなかったのに外国人が来た。しかも黒船なんか見ちゃったら「勝手に動く船とかあんのかい!」ってなりますよね。現代でいえば、仮想通貨とかブロックチェーンとかって、よく聞くけど、まだイマイチ理解できてないですか。
幕末も、ちょうどそんな感じだったと思うんですよ。情報は、上の人たちには入ってきてるけど、庶民には伝わってない。言葉としてはチラッと聞いたことあるけど、実物は見たことないっていうのがドドドーッて入ってきた。そんな時代。だからこそ幕末は面白いなって。

伊藤 そうそう、幕府の上層部は知ってたんですよね!
ペリーが来航したことについて、幕府の上層部もビックリしたんだと思ってる方が多いんですが、それは誤解で、実は全然ビックリしてないんです。ペリーはアメリカから太平洋を横断して日本へ来たのではなく、逆回りでゆっくりゆっくり来てて、「アメリカの船が日本に来る」という情報は、事前にオランダ人から入ってきていたんです。でも浦賀の人には伝えてないから、庶民はすっごいビックリしちゃってましたけどね。

房野 確かに確かに(笑)。

伊藤 そのとき、庶民が黒船の実物を見てどれくらいビックリしたのかっていうと……。
当時、日本で一番デカいのは菱垣廻船(ひがきかいせん)、樽廻船(たるかいせん)という“千石積”の船でした。“千石(せんごく)”というお米の単位を積める船です。しかも当時、幕府から五百石積以上の船は作ってはいけないという「大船(たいせん)建造の禁」という法令が出ていたんです。
では問題です。ペリーの蒸気船、何石積だと思います、皆さん?

房野 うわ~、ナンボだろう?

伊藤 答えは……二万五千石!

房野 デカすぎだろ、二万五千て!(笑)

伊藤 庶民は、千石積以上の船なんて見たことがないわけすからね。どのくらいの衝撃か……たとえば鯉(こい)で考えてください。1メートルの鯉が泳いでいたら、「デカっ!」と思うじゃないですか。

房野 メッチャ思う。

伊藤 そこへ25メートルの鯉が!

房野 うわっ、気持ち悪っ! いや、もうそのレベルじゃないなぁ(笑)。
これは本にも書きましたけど、黒船を始めて見た日本人は、それがまず船かどうかもちょっとわからないレベルですよね。「怪物か!?」って言って、メッチャ怖かったと思いますもん。

伊藤 そのとき、またすごいのは、それに乗り込んでアメリカに行こうと思った吉田松陰(よしだしょういん)。

房野 よくまぁ密航しようなんて思いましたよね……見つかったら死刑じゃないですか。狂ってますよね(笑)。

伊藤 でも、幕末に、本当に密航してアメリカに渡っちゃった人がいるんですよ。新島襄(にいじまじょう)です。見つかったら死刑だったのに。

房野 狂ってるヤツ多すぎですよね。高杉晋作とかもね、やっぱ狂ってますもんね。

伊藤 高杉晋作は背がすごく低くて、ちょっとイキり体質だったので、メッチャ長い刀を持っていたんですよ。それ引きずりながら歩いてた(笑)。なので、座った写真しか撮らせないという有名な話があるわけですけど、あの人も相当ですよね。

房野 回転義挙(※)とかそうですよね。さっき先生もおっしゃってたけど、「藩」っていうのはひとつの国ですよね。その国に対して、一人で「よし、戦う」って挑んだとか、もうバカじゃないですか(笑)。この本を書くときにいろいろと資料を読んで、高杉については爆笑しながら読んだんですよ。
、高杉って、仲間が欲しい時に演説してるんですよね。そのとき「お前らがちょっと頼ろうとしてるあいつなんて、もともと農民の出身だ。身分低い! オレは違うぞ。毛利家に代々仕えてきた大エリートだ!」って。……これ失敗ですよね。こんなんで心がほだされるワケない(笑)。
(※功山寺挙兵とも言われる。長州藩を相手に、高杉率いる反乱軍が政治の主導権を取り戻すべくクーデターを起こした)

伊藤 普通はね(笑)。

房野 市長選とかに出た人が「皆さん、私はエリートです。家柄が良いんです。1票ください」って言ってるのと同じですよ(笑)。だからこのときは、みんなに大無視ぶっこかれて、仲間集まらず……なんですよ。でも一人だけついていった有名な人が、初代内閣総理大臣の伊藤博文。「もう、兄さんが言うなら」みたいな感じで。

伊藤 そう(笑)。その伊藤博文、いまだに保持している記録があるんですけど、ご存知ですか?

房野 えっ、なんですか?

伊藤 史上最年少首相の記録です。伊藤博文、初代内閣総理大臣ですが、いまだに破られていない。就任当時44歳でした。

房野 えー、マジか!

伊藤 田中角栄ですら52歳でしたからね。その伊藤が、このときの高杉についていく判断をしたのは、すごいことですよね。

房野 この判断って、普通はできないですよ。伊藤は44歳ですけど、明治政府って30代、40代のメンバーがメッチャいるんですよね。若いんですよ、みんな。

伊藤 そう、みんな若いんですよ。だからみんなね、焦った方がいい(笑)。坂本龍馬だって、今の満年齢で言うと、32歳の誕生日で亡くなってるんですよ。そうそう僕、世界史の先生でもあるんですが、イエス・キリスト、何歳で磔(はりつけ)になったかご存知ですか?

房野 え、何歳だ?

会場のお客さん 34歳!

房野 うわ、よくご存知!

伊藤 そう、34歳なんです。マーティン・ルーサー・キングが「I Have a Dream」のスピーチしたのも34歳です。釈迦(しゃか)が菩提樹の下で悟りを開いたのは35歳。

房野 マジか……僕、もう越えちゃったわ(笑)。

伊藤 年齢を調べるの好きなんですよ。あと身長も。

房野 戦国時代でも、前田利家(まえだとしいえ)はデカかったんですよね。180センチくらいあった。

伊藤 そう。あと、ビックリ仰天なのは、二宮金次郎(にのみやきんじろう)ですよ。180以上あったと言われています。ちなみにあの有名な、薪を背負って読書してる像のときって、何歳だと思います?

房野 小学校にあるから、そのくらいじゃないんですか?

伊藤 あいつ、高2ぐらいなんですよ、あの時!

房野 思春期じゃないですか!(笑) まあでもそれくらいまでずっと勉学続けてたってことですね。

ーーリポート(2)に続く

取材・文=成田全(ナリタタモツ)

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