目を覚ますと既に14時を過ぎていて、頭が重い。本当は10時くらいに一旦目を覚ましたのだけど、寝足りないと思ってもう一度薬を飲んで寝てしまった。

 会社に勤めたりしているわけじゃないから別に朝起きて夜寝る必要はないんだけど、それでもやっぱり起きて数時間で日が沈んでくると気が滅入るものがある。だけどしかたない。最近なんだか精神状態が悪くてどん底の気分なのだ。何もかもうまくいかなくて今までやってきたことが全て間違っていたような気がする。人に会いたくない。みんな別に自分に害意があるわけじゃないのはわかってるのだけど、コミュニケーションが理由なく怖い。人の声を聞いたり物音を聞くだけで精神に響く。結構きてるな。そんなときは意図的に生活リズムを夜型にするようにしている。そうするとなんだかちょっと気分がマシになる。調子の悪さを生活リズムを崩すことで受け止めているというか、車が衝突した際にあえて外殻が壊れることで衝撃を吸収して中の人間を守るように、壊れてもいい部分をある程度壊すことによって本当に大事な部分を守るのだ。

 何もやる気がしないので部屋で寝そべりながらひたすらネットを見たり漫画を読んだりする。そんなに面白いわけでもないのだけど疲れてるときはそういうことしかできない。起きて数時間はそんな感じで頭がぼんやりしたまま過ごして、ちょっとお腹が空いたな、と思ったらコンビニに行ってパンとかを買ってきて、部屋で自堕落な姿勢のまま食べて、お腹が満ちたらいつの間にか眠ってしまう。再び目を覚ますと夜はすっかり更けていてどこにも行くところがない。そんな生活をもう5日くらい続けている。

 

 夜は街が静かだし人からの連絡も来ないのでいいのだけど、部屋にずっといると閉塞感でつらくなる。だけど遠くに行く体力はないので、結局近所を軽く散歩してコンビニに行くくらいだ。

 コンビニは24時間いつでも自分を受け入れてくれる。そんな場所は街で公園とコンビニしかない。24時間開いているスーパーもあるけれど、スーパーはきちんと生活をする人のための場所だという感じがある。コンビニはなんか、自分みたいなダメ人間が用もなく入ってもいいような気がする。

 コンビニに入るとまず雑誌コーナーを見る。雑誌なんてほとんど買わないのだけど、いろんな雑誌の表紙が並んでいるのを見るとちょっと気分が落ち着く。他にも、壁に貼られているライブのチケットの情報や、アニメのグッズが当たるくじや、あまり美味しくなさそうなカップラーメンの新商品など、自分は絶対どれも買わないのだけど、そういうのが並んでいるのを見るとそこから何か最新の文化や情報に繋がっているような感じがして少し寂しくない感じがする。自分からわざわざ摂取しないような情報の広がりを目にするのが良いのだろうか。

 なんとなく漫画雑誌を手にとって軽く立ち読みをする。今日は月曜だからいろいろ出ているな。長い間会社勤めをしていない自分が曜日感覚を失わないでいるのは漫画雑誌の発売曜日をいつも気にしているからだ。

 最寄りのコンビニには一日一回は行っているので、もう棚の配置も並んでいる商品も大体覚えていて目をつむっていても歩けそうな感じがするのだけど、それでも自分が見ている部分は限られているのだろう。商品の棚を注意深く見てみると、よくわからない味のグミとかカニみその缶詰とか冷凍のエビチリとか、自分が一度も買ったことがない商品がたくさんある。POSシステムによって綿密に商品管理がされた現代のコンビニでは売れない商品はすぐに棚から排除されてしまうだろうから、ずっと棚に並んでいる商品は誰かが定期的にそれを買っているはずだ。このコンビニの商圏の中の、自分のすぐ近所に住んでいる人が。そう思うと、コンビニの棚を見ているだけで人間の多様性を思い知らされる。

 プリンやポテトチップスなど、適当に飲み物や食べ物をカゴに入れてレジに向かう。調子の悪いときはコンビニで好きなものを買いまくるに限る。

 もともと苦手なのだけど、精神的に調子が悪いときは特に、発声をしたり人の声を聞いたりすることが怖くなる。いつもはコンビニで会計をするときは大体電子マネーで払うのだけど、「Suicaでお願いします」などと言うのもつらいときは千円札を無言で差し出す。

「ポイントカードをお持ちですか」とか言われるけれど首を振る。この資本主義社会ではどいつもこいつもみんなポイントカードを作らせようとしてくるけれど、ポイントが買った金額の5%くらい付くのならまだ考えるけど、1%くらいのポイントのために財布の中の限られたスペースをプラスチックのカードに分け与えてやる気にはならない。空間はタダじゃないのだ。引きつった笑顔を浮かべながらレシートとお釣りを受け取って外に出る。

 どこに行くあてもないのだけどあの閉塞した部屋には帰りたくない。帰っても別にやることがないし、まだ眠くないし朝も来ない。公園にでも行って、ベンチに座って飲み物を飲みながらちょっとぼーっとしてから、そのあとまた別のコンビニに行ってみようか。あっちの店には自分の気分を晴らしてくれるちょっと素敵な何かが売っているかもしれない。

 夜の闇に生活感を隠された静かな住宅地の中で、ところどころにあるコンビニだけが白く光って浮かび上がっている。その光から光へと、今夜もふらふらとさまよい歩く。

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pha『ひきこもらない』

家を出て街に遊ぶ。
お金と仕事と家族がなくても、人生は続く。
東京のすみっこに猫2匹と住まう京大卒、元ニートの生き方。

世間で普通とされる暮らし方にうまく嵌まれない。
例えば会社に勤めること、家族を持つこと、近所、親戚付き合いをこなすこと。同じ家に何年も住み続けること。メールや郵便を溜めこまずに処理すること。特定のパートナーと何年も関係を続けること。
睡眠薬なしで毎晩同じ時間に眠って毎朝同じ時間に起きること。
だから既存の生き方や暮らし方は参考にならない。誰も知らない新しいやり方を探さないといけない。自分がその時いる場所によって考えることは変わるから、もっといろんな場所に行っていろんなものを見ないといけない。