4月には南北首脳会談、6月には米朝首脳会談と、北朝鮮情勢が大きく動いた今年、初沢亜利さんは写真集『隣人、それから。38度線の北』(徳間書店)を刊行しました。
 非核化をめぐる米朝協議は行き詰まっていると伝えられてきましたが、9月18日からは今年3回目の南北首脳会談が開かれる予定、第2回米朝会談開催の可能性も急浮上しています。
 私たちは「38度線の北の隣人」を、どう見たら、どう理解したらよいのか、初沢さんにお話をうかがいました。

北朝鮮の人たちが一番嫌いなのは中国人

──これから米朝間、日朝間でさまざまな交渉が進んでいくと、北朝鮮が中国に取り込まれているのではないかと危惧する声もありますが、それはどう思われますか?

初沢 北朝鮮と中国の関係は歴史的にもすごく複雑です。戦後史を見ても時期によって中朝の距離感は異なります。朝鮮戦争を共に戦った血盟関係だけでは論じられません。ただ大雑把に言うと北朝鮮は中国に取り込まれることを一貫して拒否してきたし、これからも変わらないでしょう。

 中国のほうも、中露、中朝、露朝の複雑な関係の中で、一方的に北朝鮮を取り込もうとはしてこなかった。中国は急激に経済発展する中で、もっと北朝鮮を援助し事実上植民地化することも可能だったはずですがそうはならなかった。生かさぬよう、殺さぬよう、絶妙な距離感でつきあってきたんです。北朝鮮も、ロシアと共に中国を後ろ盾として利用することはあっても、どちらかに完全に取り込まれたくはない。

 北朝鮮の人たちがいちばん嫌いなのは、じつは中国人なんですよ。中国に対する怒りや苛立ちは、かなり深いものがあります。

──それは現地で北朝鮮の人と話していてもわかるんですか?

初沢 それは耳にします。国別に言うと、韓国人は同胞だから愛憎が交錯する。日本やアメリカは日帝、米帝と呼ぶ歴史的な仮想敵国ですが具体的なイメージを持っていない。中国とは人や物の行き来が日常的にあるので、嫌悪感が強いんですよ。人民の感覚としては直接的に嫌がらせをされているような気がするんでしょうね。

──同じ社会主義国として冷戦時代は「東側」の陣営にあったけれど、だからといって仲が良いわけではない?

初沢 そもそも1950年代の後半に北朝鮮が打ち出した「チュチェ(主体)思想」は、思想以前に政治的な意味合いが強かったと思います。社会主義陣営の中国とソ連が必ずしも仲が良くない状況の中で、両大国をうまく牽制するためのロジックとして、「われわれの社会主義は民族保守をベースにした独自の思想だ」と主張することで、中ソと一定の距離を取り、どちらにも飲み込まれないようにしたんです。

 僕は2013年11月から1年3カ月ほど沖縄に住んだので、大国からの侵略を繰り返し受けてきた歴史からくる民族保守的な感情はある程度皮膚感覚としてわかるようになりました。

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初沢亜利『隣人、それから。38度線の北』

北朝鮮の都市部や地方で普通に暮らす人々を撮った前作から5年。核実験、金正男暗殺と史上最悪の緊張から一転、北朝鮮と韓国は4月末に南北首脳会談、その先には米朝会談と宥和ムードが高まる大変化の時代に、写真家は再び訪朝を繰り返した。眼前には急増した交通量、富裕層の台頭など経済制裁の効力を疑う景色。男女は堂々と逢引し、同性同士も手を繋ぐなど一般市民にも穏やかな空気があった。報道では見えない日常からあの国を考える、必読の一冊。