今度、ショーとしてガチャを回すことになった。

何言ってんのかわからねえと思うが、文字通り、結構な数の人が見ている壇上でガチャを回すことになったのである。

何故そんなことになったかというと、まず私にトークライブのオファーが来たことから始まる。
私は、ギャグ漫画家としてデビューし、今はこのような文章の仕事もさせてもらっているが、率直に言ってそれがあんまり面白くないから、未だに売れていないのだ。
しかし、これが「トーク」となると、本格的におもしろくないのである、それだけは他の追随を許さない。

とても、人様から金を取れるようなことは喋れないし、無職になってから丸三か月ほぼ人間と喋っていないのだから、当日、日本語すら忘れている恐れがあるし、服を着ているかさえ疑問だ、もちろん火とかにはビビる。

そのような理由から、今までトークの依頼はほぼ断ってきた、よって今回も「検討させてください」と若干考えたフリをしてから断ったのだ。

しかし先方は、私の断りに対し「了承しかねる」という見解だった。
「断りを断る」という斬新なスタイルである、仕事依頼だからまだいいが、これが男女交際の申し込みとかだったら、完全に迷惑防止条例に反しているパワープレイだ。

だが、先方も無策で出ろと言っているわけではない「お前が喋らなくて済むようにする」というさらにパワーのあることを言ってきたのである。
このように「トークライブ」としての矛盾が過積載すぎたため、逆に正しいことを言われている気がしてしまい、ついつい出演を了承してしまった次第である。

そして「できるだけ貴様を黙らせるトークライブ」のプログラムの一つが「ガチャ応援上演」だ。
壇上で私が「Fate/Grand Order(FGO)」のガチャを回し、客がそれを応援するという催しである。
何をしたところで、私のトークより面白くないことはこの世に存在しないので別に良い、何だったらずっとアリの巣の断面図をスクリーンに映し続けても、私が喋るよりは盛り上がるはずだ。

それに「他人のガチャ」というのは、すでにエンタメとして確立しているのだ。Youtubeなどには数多くの「ガチャ実況動画」が投稿されているし、数万回再生されているものもある、出るや出ざるやは、例え他人のものでも面白いのだ。

しかし、問題は「私はエンタメとしてガチャが回せるのか」という点である、
確かに、ガチャで推しが出た、出ないだけでコラムを何本も書いているし、それだけ読んだら、あたかも1回1回スマホに指を貫通させているが如き勢いで回しているように見えるかもしれないが、実際回している時はそれはもう静かなものである。

風呂からなかなか出てこないと思っていたら死んでいた、と同じぐらい、私はいつも静かに回して、静かに死んでいるのである。

つまりyoutubeはもちろんSNSにさえ投稿しない、1人で回すガチャというのは「誰にも見せない日記」なのだ。
誰かが見ること前提なら、面白いことを書いてやろうとか、少し盛ってやろうとか、逆に恥ずかしくなりすぎない内容にしようとか、色々考えて書くだろう。

だが、本当に未来永劫自分しか見ない自分だけの日記なら、逆にその文面はただ静かであり、淡々と事実のみを記したものになるはずだ。
それと同じように「爆死」などと言っても、本人は全然爆発してないのである、ただ無表情で推しが出なかったガチャ画面を見つめて息を引き取っているだけなのだ。
「叫び」などというのは「余裕」でしかないのである。

おそらくそんな姿を見ても客は全く楽しくないので、すぐさま画面がアリの巣の断面図に差し替えられる、という放送事故になってしまう。

Youtubeのガチャ動画実況の人は、結果に対し一喜一憂して見せているが、あれはあくまで「人が見ている前提」だからであり、彼らだって、プライベートで回す時はクスリでもやっていない限り、そんなに騒ぎながら回してないだろう。

だが私も客から金をとってエンタメとしてガチャを回すなら、推しが出たら叫び、出なかったら叫ぶという、エンドレス室伏状態でなければいけないのだ。
しかし、私にそんな芸達者なことが出来るだろうか、いつも通り、推しが出なければ静か、推しが出ても静か(死んでいるから)な気がしてならない。

だが、その心配は杞憂であった。
何故なら「イベントで回すガチャは自腹」ということが判明したからである。
よってこのガチャはあくまで、俺の俺による俺のためのガチャだ、客は俺がガチャを回している近くに、何故か有料で座っている連中にしか過ぎない。

なんだお前ら、見世物じゃねえぞ、散れ。

壇上でこういう怒り方をしてしまう可能性があるが、ご了承いただきたい、何故ならこのガチャはビジネスではなく、まして遊びでもない。

いつでも命懸(マジ)、それが俺のガチャだ。

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