渋谷の雑踏からギャルがいなくなった。ギャル男はもっとどこにもいない。数年前は金キラのライオンの雄、雌のように逆立てた黄金色の毛がタクシーの黒い排気ガスで揺れながら、鱗粉をこぼすように街に彩りを落としていたような気がするが、何に移り変わったのだろうか。相変わらずこの街は衣替えが早い。

妖怪大戦争のよう、街を飛び交う人や物の情報量が飛散していて、前後左右から飛び出してくる個性に、地方出身を引きずるわたしの心は火を吹いて爆発しそうになる。

そんなことを思いながら、共にBODY ODDという企画をしてるDJの鎌田とコーヒーを片手に渋谷を歩き、映画館に向かう。

ユーロスペースで上映している三宅唱監督の「きみの鳥はうたえる」

三宅さんにはBODY ODDのMVを撮ってもらった。その縁でOMSBやHi' Specといった面々も映画に出演しているようだった。

こんなことを書くとまぁ、感想に色眼鏡がかかりそうなものだが、当然かかってはいただろう。ただそんなものが何の意味をもたないほど自然にわたしは、役者の目線に心を運ばれていた。無声映画であっても成立するほど目線や行間は多くを語り、役者のその瞳の色は明確な言語化を凛と否定していた。

丁寧な反逆。

大したことが起きるわけでもないそのストーリーの中で、ゆらめきながら膨らんでいく興味や、だらしなさが甘さにすり替わる時の桃色、酸味のある閉塞感、ゆるやかに下降していく無臭の絶望。

いかに簡潔にカテゴライズしていくかが屋台骨になりつつある2018年で、一つ一つが丁寧に反抗していた。

彼氏、彼女、旦那や友人、知人、バンドメンバーや仕事仲間、他者との関係性をカテゴリーするワードはいくらでもあるけど、そのカテゴライズが回収できないゆらめきがいくつもある。

例えばそれが恋人と固定されたカテゴリーであっても、当然、関係は日々変わり続けている。知っては満たされ、マンネリになっては飽きたり、でもなんだかんだ安心したり、そんなゆるやかな変化は大きな流れの中で不要なものとして省かれつつある。そしてそのために用意された言葉はあまりに少ない。

簡潔に答えにたどり着き、その答えの向こう側でさらに皆急いでいる。そのゲームに自然な形で参加させられている。それはわたしも例外ではないかもしれない。

少し気になってビートルズからとられたであろうAnd Your Bird Can Singの和訳を検索してみた。

近くにありながら見落としている答え、くしゃくしゃにしてゴミ箱の底に押し込まれた感覚、その横で精子をくるんだティシュにまじってた愛。走るのに必死でコップからこぼしてしまった大切な時間、その水を不意に浴びて育ってた花。

そして、うすうす皆気づいてるはずだ。すべてが最後の最後にたどり着く答えは案外、真っ黒な水面のようなもので、すべてを重ねた後の黒色はもう上塗りのきかない完璧な黒かもしれないが、ひどくつまらない。

寄り道がしたいんだ。もっと答えを先延ばしにしてわからないままの旅をどうやって楽しむか、そんな未完成でいる勉強を日々しているように思う。

そういう意味ではいい表現はすべて不良の匂いがあるし、この映画は当然そういった類のものだった。

余談だが、わたしは膀胱が非常に小さく2時間の映画でトイレにたたなかったことが一度もない。見たことも触れたこともないが、きっとその我慢してる時の股間の震えからわたしの膀胱は柿くらいの大きさなのではと推測している。

劇場初心者ではないので、始まる前には絞り出すように元気よく放尿するのだが、決まって映画の半分くらいで一度は立ち上がってしまう。そのトイレに行ってる間の空白の1分間を、映画のストーリーにとってどうでもよさげなところにもっていくというのもセンスなのだが、それでもやはり劇場で見てきた本数×1分となると、その見逃したフィルムだけをつなぎ合わせて映画が一本できてしまいそうだ。センスがなまじっかいいものだから、きっと無意味めなシーンの総集にはなるが一度は見てみたい。

映画がおわり、外に出ると音楽を担当していたHi'Specと三宅さんが駐車場のブロック塀に座っていた。映画の世界から現実に切り替わるのに一瞬のバグが生じるが、バカ話をして三歩歩くと、そんなフィルムの向こう側の人感は渋谷の空に、タバコの煙のように吸い込まれていった。

それから朝まで居酒屋で飲んだんだ。それはここでは書けないくだらない内容でとてもよかった。

外に出ると夕焼けなのでは? と見間違うような赤い空がしっかりと東側の空の位置にあったのは台風のせいだろうか? いよいよこの世界の仕組みも壊れてきたようだと感じた。

朦朧としながら井の頭線に向かって歩き出す。

カラスがゴミを漁り、誰にも愛されていないミッキーが路地から路地へ移動している。道路脇で首を直角に追ってヘタレ混んでるおっさん。化粧が、剥げたメッキのように崩れかけてる女の目尻。やたら元気な外人グループのふくらはぎと下品なタトゥ。循環するタクシーのバックミラーにぶら下がってる交通安全祈願の紫のお守り。鈴の小さな音。

とっくにもう始発は出ていた。鈍行に揺られながら朝まで遊びつくした死体だらけの車窓から焼け焦げる東の空を見ながら、こんな風に綺麗に世界が終わるのならそれも悪くはないかもしれない、そう思った。

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