なんだか最近ちょっと精神的に不安定になっていて、それはあまりの猛暑で冷房の効いた部屋にひきこもり続けていたからかもしれないのだけど、そんなときつい自分は揚げ物ばかり食べてしまう癖がある。揚げ物を食べると落ち着くとか元気になるという思い込みが自分の中にあるらしい。本当に効いているのかはよくわからないのだけど。

 緊張したときなんかもそうだ。例えば何か人前で喋るイベントがあるとき、やばい、怖い、こんなテンションでは何も喋れない、もっとシャキッとしなきゃとか焦って、開演前に会場の近くのコンビニに寄って、鶏の揚げたのを買って、コンビニの前で立ったまま一気にむしゃむしゃと食べてしまう。そうするとちょっと落ち着くような気がする。そして唇を揚げ物の油でテカテカさせたまま会場に向かうのだ。

 食事に何も食べたいものが思いつかないときも、ついカツ丼なんかを食べてしまう。食欲がなくても揚げ物なら食べられるような気がする。近所のかつやは行くたびに100円引きのクーポン券をくれるので、しょっちゅう行っていると毎回100円引きで食べられるからお得だ、行けば行くほど得をする、とか思ってしまって行くのだけど、食べたあとに胃がもたれて後悔することも多い。

 揚げ物以外では、精神的に落ち込んでもう何もかもだめだって気分になったとき、コンビニでチョコレートとポテトチップスを大量に買い込んで、一気にむさぼり食うというのをやってしまう。何かジャンクな味のものを口の中で勢い良く噛み砕いている間は心が落ち着くからだ。そして食べすぎて胃が苦しくなると、胃に神経が集中してその分だけ精神が楽になる感じがするのだ。それは軽い自傷行為のようなものなのかもしれない。

 暴食が一通り終わるとハッと我に返って、またやってしまった、とか思って、お菓子の袋をクリップで止めて部屋の一番遠くに放り投げる。そして胃の苦しさを少しでも和らげようと粉の胃薬を飲む。そんなもの飲むなら最初から食べなきゃいいのだけど。体に悪いものを食べた罪悪感を紛らわせるためにマルチビタミンの錠剤と水溶性食物繊維を麦茶に溶かしたやつを飲んだりもする。ビタミンと食物繊維を摂っておけば、それは実質野菜を食べてるのと同じことになるんじゃないだろうか。ならないんだろうか。どうなんだろう。

 僕が揚げ物やポテチを食べまくるような緊張や不安や手持ち無沙汰に襲われたとき、世間ではお酒を飲む人が多いみたいだけど、僕はそれはないんだよな。お酒が飲めないわけじゃないのだけど、飲んでハイになるとか楽しくなるというイメージが自分の中にあまりない。多少気分がゆるんだりはするけど、内臓が重くだるくなるというのを強く感じるので、二杯か三杯でいつもやめてしまう。

 そのせいかお酒の名前や飲み方を全然覚えられなくて、ちょっとそのことにコンプレックスもある。だって、同じ嗜好品としても、僕みたいに「セブンイレブンの鳥の揚げ物はどれを買うのが正解なのか」とか「からあげくんはジューシーさは少ないけどさっぱりしてるし食べやすいから一周回ってありだな」とかそんなことを考えているよりも、「この日本酒はちょっと特殊な製法で作っているんだ」とか「チリ産のワインはこういうテイストだよね」とか語っているほうが大人っぽくて格好いいと思うのだ。ずるい。結局人はみんな何かに依存していて、その対象が違うだけなのに。

 人が何に依存するか、それはもともとの遺伝的な体質や、あるいは今までにどんな経験をしたかということによって決まるに過ぎない。揚げ物に依存する人も、酒に依存する人も、仕事に依存する人も、どちらが心が強くてどちらが心が弱いというものではない。何かの拍子に脳の中にどれかの報酬系が作られてしまっただけだ。建設的なものにたまたま依存している人は幸運だ。例えば運動をすることとか、お金を計算することとか、勉強をすることとか。

 自分が揚げ物を食べることじゃなくて走ることや仕事をすることに依存していたらもっとまともっぽい人間になれたのかもしれないと思う。だけどその場合、酒やタバコなんかに依存してしまうのはただのダメ人間だ、自分はそんなダメ人間じゃない、とか考えるような融通の利かない人間になってしまっていたかもしれない。非生産的なものにハマってきたから、他の非生産的なものにハマっている人に寛容になれる部分がある。自分の持っている歪みもまた自分だと思うから、自分のだめな部分もそんなに嫌いじゃない。何にも全く依存していない人間はどうせいないのだし。

 しかしまあ、何事も健康を害するようになってはよくないというのはある。僕もちょっとお腹が出てきてしまっているので、揚げ物の代わりに生野菜とかで心が落ち着くようになりたい気持ちはある……。

 そういえば友人が昔こんなことを話していた。

「深夜にポテトチップス食うとうまいじゃん」

「うまいね」

「でも太るからやめたいんだけど、あのうまさっていうのはさ、結局塩分が旨いんじゃないかって気がするのね」

「ふむ、そうかも」

「だから俺はあるときからポテチ食いたくなったら塩をちょっと舐めるようにしている」

「塩だけ?」

「うん、意外といいよ。ハーブソルトとかいろんな種類のうまい塩を揃えておくと特に。うちにはいつも10種類くらいの塩を常備してる」

 うーん、本当にそうなのかなあ。塩分以外に油分も結構大事な感じがするけど。じゃあ、オリーブオイルと塩を舐めればいいのだろうか。からあげやポテトチップスを食べるよりは健康にいいのかもしれない。今度ちょっとやってみようかな。

「でも」と僕は言った。

「夜中に塩とか油舐めてるのってなんか妖怪ぽくない?」

「確かに……」

この記事をシェア
この連載のすべての記事を見る

★がついた記事は無料会員限定

pha『ひきこもらない』

家を出て街に遊ぶ。
お金と仕事と家族がなくても、人生は続く。
東京のすみっこに猫2匹と住まう京大卒、元ニートの生き方。

世間で普通とされる暮らし方にうまく嵌まれない。
例えば会社に勤めること、家族を持つこと、近所、親戚付き合いをこなすこと。同じ家に何年も住み続けること。メールや郵便を溜めこまずに処理すること。特定のパートナーと何年も関係を続けること。
睡眠薬なしで毎晩同じ時間に眠って毎朝同じ時間に起きること。
だから既存の生き方や暮らし方は参考にならない。誰も知らない新しいやり方を探さないといけない。自分がその時いる場所によって考えることは変わるから、もっといろんな場所に行っていろんなものを見ないといけない。