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片想い探偵

2018.08.28 公開 ツイート

1話 事件編 無料試し読み

【須藤凜々花さん激推し本】
目の前で「推し」が殺人犯に!!!! 辻堂ゆめ


「この本を知らない人は、損をしています!」と須藤さん

タレント・須藤凜々花さんが激推ししてくださっている『片想い探偵 追掛日菜子』
一度好きになったら相手をとことん調べつくす主人公・日菜子のストーキング能力に、驚愕する読者が続出しています。その日菜子のエキセントリックな行動&発言は、「さわり」だけでも十分伝わるのでは…!ということで、今回冒頭部分の無料公開に踏み切りました。
プロローグと、1~5話それぞれの冒頭部分を、1日おきに公開していきます。

〈あらすじ〉
追掛日菜子は、舞台俳優・力士・総理大臣などを好きになっては、相手の情報を調べ上げ追っかけるストーキング体質。しかしなぜか好きになった相手は、殺人容疑をかけられたり、脅迫されたりと毎回事件に巻き込まれてしまう。今こそ、日菜子の本領発揮! 次々と事件の糸口を見つけ出すがーー。前代未聞、法律ギリギリアウト(?)の女子高生探偵、降臨。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 インターネット上の無数の噂を調べ上げ、本人たちの発言の断片から全体像を推測し、完璧な行動計画を立てる。

 それには、様々な技術と根気が必要だった。

 推しが何時に小屋入りをして、どういうスケジュールで動き、何時頃に撤収するのか。

 関係者入り口はどこか。

 千秋楽後に打ち上げはあるのか。

 どのような手段で、都内のどこにある自宅へと帰るのか。

 出待ちがいいのか。

 入り待ちがいいのか。

 尾行がいいのか。

 それとも、別の場所での待ち伏せがいいのか。

 計画段階で見当違いのことをすると、すべてが無駄骨になってしまう。洞察力と推理力、忍耐力、そして実行力が不可欠だった。──それと、多少のお金も。

 手帳を閉じようとして、ふと、背後に気配を感じた。

 はっとして振り返る。そこには、兄が腕を組んで仁王立ちしていた。

「え、見た? 見てないよね?」

 日菜子は慌てて手帳を閉じ、鞄の中に放り込んだ。

 大学二年生で、講義にもろくに出ていない兄は、ふらりと消えたかと思えば突然部屋に現れる。まさに神出鬼没だ。おまけに、背が低くてひょろひょろしているせいか、身体が軽くて足音がしない。毎回、まんまと背後に忍び寄られてしまうのだった。

「お前、ホントさぁ」

 はーあ、と兄の口から長いため息が漏れる。いつもどおり、ねちねちとした兄の説教が始まった。

「好きなアイドルを追っかけるのはいいけど、待ち伏せとか尾行はやめろよ。そんなことしたら、正真正銘のストーカーだからな」

「優也くんはアイドルじゃないよ。舞台俳優」

「俺の話の要点はそこじゃない」

「大丈夫。心配しないで」

 日菜子は椅子の背に手をかけてくるりと後ろを向き、真剣な目で兄を見上げた。

「尾行なんかしないよ。優也くんが出てる舞台をクラスの友達と見に行って、ご飯食べながら軽くお喋りして帰ってくるだけ。本当にそれだけだから」

「へえ、そっか」

「だからあっち行ってて」

「おかしいな。じゃあ、さっきのは何だったんだろう──『鞠花や沙紀と行きたいのは、山々だけどさぁ』」

「わ、盗み聞き!」

「あの記述も不可解だな──『二十一時~ 大平昴を尾行』」

「やっぱ読んでたんじゃん!」

「スマホにも、その大平昴とやらのツイッタープロフィールが表示されてるし」

 兄が机の上に置いてあった日菜子のスマートフォンを指差した。慌てて手を伸ばし、勢いよく裏返す。「おいおい、壊れるぞ」と兄が呆れたように言った。

「お前、来週定期テストじゃなかったっけ? 勉強してる?」

「……してる」

「毎日ツイッターとインスタグラムとブログとホームページを欠かさずチェックして、ファン同士の交流掲示板を覗いて、延々とイケメンが出てる動画を見て、関連する漫画を読んだりアニメを見たりしてるようにしか見えないけどな」

「え、なんで知ってるの」

「で、土日は、追っかけに邁進するか、資金を貯めるためにまとめてバイトするかのどっちかだろ」

「把握されすぎてて怖い!」

「お前ってさ、ホント小学生の頃から変わってないよな」

 兄は力なく首を振り、こめかみに手を当てた。

「お前が小三、俺が小六のときだったかな。俺の友達を好きになっては、昼休みに俺らのクラスがドッジボールしてるのを遊具の陰からこっそり観察したり、ラブレターを下駄箱に入れるかどうか迷って校舎の入り口でうろうろしたりしてた。廊下に貼り出された修学旅行の写真を抜き取ろうとして先生にこっぴどく怒られたこともあったな。ああ、あと、俺の友達が上履きを新しくしたときに、古いのを譲ってほしいって俺に頼み込んできたんだよ。あれはさすがにドン引きだった」

「うーん、そうだっけ」

「しかも、好きになる相手がぽんぽん変わるときた。せっかく会話する機会や一緒に遊ぶ機会を作ってあげようとしてるのに、次の週には別の奴を追っかけてるんだもんな。相手がその気になった瞬間に興味をなくすお前の性格、まじでどうにかしたほうがいいぞ。そんなだから未だに彼氏いない歴イコール年齢なんじゃないか」

「まだ十七年だもん。お兄ちゃんは二十年」

「今までにしてきた恋の数に比べて成就した経験がなさすぎるって言ってるんだ」

「うーん、成就って必要?」

「ああもう、お前は昔から極端すぎるんだよ。片想い専門というか、片想い至上主義というか──毎回、変わり身が早すぎる。『女心は秋の空』って言葉を、俺は小六にしてしみじみ実感したよ」

「早い段階で人生経験を積めてよかったね」

「それをお前が言うな」

「とりあえず、お兄ちゃん、冷蔵庫の中にシュークリームがあるから、それ食べてきなよ。お兄ちゃんが食べないなら、お母さんが二つ食べようかなとか言ってたよ」

「え、まじで」兄の動きがぴたりと止まった。眼鏡の奥の目がキラリと光る。「日菜の高校の近くの美味しいとこ?」

「うん。帰りに買ってきたんだ。ほら、早く早く」

 ひらひらと手を振って急かすと、兄は「ナイス」と指を鳴らし、すぐさま部屋を出ていった。階段を駆け下りていく音が遠くなっていって、すぐに消える。

 兄は、甘いものに目がない。

 日菜子はそっと息を吐き出して、机へと向き直った。鞄に放り込んだ手帳を取り出し、もう一度、土日のスケジュールを書き出したページを開く。

 須田優也に会うための綿密な計画づくりを、邪魔者が去って元どおりに静かになった共有部屋で、日菜子は鼻歌を歌いながら続行した。

 五月十九日土曜日、午前八時。

 関係者入り口の周りには、二十名ほどのファンが集まっていた。その隅のほうで、日菜子はじっと待機していた。

 今日は朝四時半に起きた。シャワーを浴びて、服を着て、念入りにメイクをして、全身鏡の前でじっくりファッションチェックをしてから、家族が寝静まっている家を出た。電車に三十分ほど揺られて都内に繰り出し、会場近くの美容室でヘアセットをしてもらうこと一時間。ここに到着したのは、つい十五分前のことだ。

 入り待ちの場所取りを優先するか、ヘアセットを優先するかというのは、日菜子にとって永遠の命題だった。誰よりもいい場所で推しに会いたいという切実な恋心と、『推しに会うときは完璧な状態でいなくてはならない』という日菜子の信条は、この「朝の入り待ち問題」において毎回ぶつかり合う。美容師並みのクオリティでセルフヘアセットができるようになる、というのが唯一の解決策なのだろうけれど、さすがにそれは無理だ。鏡に映る部分はともかくとして、自分の後頭部を納得のいくように仕上げようとしたら、何時間かかるか分かったものではない。

 そういうわけで、列の隅っこという控えめなポジションで、日菜子は一人小さくなっていた。他のファンは、ほとんどが二人組か三人組だ。ぺちゃくちゃと他愛もないお喋りをしている。

 日菜子の隣に立っているのは、二十代半ばくらいの女性二人組だった。舞台『白球王子』のグッズである白いバンダナを揃って手首につけているあたり、何度も公演を見に来ている猛者なのだろう。

 こういう社会人を見ると、心から羨ましくなる。自分の稼いだお金でチケットを取りまくった挙句に「破産」と騒ぎ、そのくせ「全(部)通(うこと)不可避」と言って地方公演にも必ず遠征し、DVDやグッズが出ると「永遠に楽しめるから実質タダ」と迷いなく購入し、推しが無料コンテンツを出すと「振り込めない詐欺。お布施ができない」とジタバタする。

 そんな自由で大人な彼女たちに、日菜子は常々憧れていた。スーパーの試食販売員やクリスマスやバレンタインのケーキ売りといった派遣バイトでちまちまと稼ぐしかない女子高生には到底できない芸当だ。

「今回の舞台、めっちゃクオリティ高いよね。あれ、思い出しちゃった。『青春ゴール』」

 革ジャンに白いミニスカートという攻めた服装の女性が喋りだした。その隣にいるデニムジャケットの女性が大きく頷いている。日菜子はぴくりと反応し、目の前の女性二人組の会話に聞き耳を立てた。

「確かに似てるかも。でも、『白球王子』のほうが、『青春ゴール』より話がシリアスなだけあって、感動するよね。『青春ゴール』のジュンジュンも良かったけど、『白球王子』の優也は、なんかもう天才だなって感じ」

「ジュンジュンだって、今回の公演に出てるけどね」

「まあね。でも、悪役だから」

「私は悪役のジュンジュンもけっこう好きだけど」

「そう? 私はやっぱ優也派だなあ」

 デニムジャケットの女性の言葉に、日菜子はうんうんと何度も頷いた。

『青春ゴール』というのは、去年の十月までやっていた、サッカー漫画が原作の二・五次元舞台だ。その舞台で主演を務めていたのが、現在二十二歳のジュンジュンこと一ノ宮潤。今回の『白球王子』にも出演していて、元エース・銀杏拓哉を演じている。須田優也演じる主人公の紅葉裕太に何かと食ってかかる悪役だけれど、それはそれで、一部の熱狂的ファンからの支持を受けていた。

 ──そういえば、一ノ宮潤くんの写真を部屋中に貼ってたこともあったなあ。

 そんなことを思い出した。でも、もう何か月も前の話だ。過去のことは過去のこと。今の日菜子は、須田優也の魅力にどっぷり浸かっている。

 突如、周りのファンたちがどよめいた。

 日菜子はぴんと背筋を伸ばし、駐車場に入ってきた黒い車を凝視した。

 少し離れたところに停車した車から出てきたのは、背の高い男性と、小柄な男性だった。草野京太郎と、須田優也。同じ事務所の二人だ。

「優也くん!」

 日菜子は懸命に叫びながら、スマートフォンを掲げた。右手の親指でシャッターを押し続けながら、空いている左手で目の前を通過していく須田優也に向かって手を振る。

「優也くん! こっち向いて、優也くん!」

 推しの名を呼び捨てにしないのは、日菜子なりの誠意というか、モットーだ。

 草野京太郎と須田優也は、ファンに対して軽く手を振りながら通り過ぎていった。互いに何やら楽しそうに会話をしては、笑顔を見せている。普段はクールにしている須田優也が見せた屈託のない笑顔に、日菜子は胸を射貫かれた。

 ──ああ、やばい。

 スマートフォンを持つ手が震え、彼の名前を呼ぶ声はかすれた。推しが近くにいるだけで、緊張して全身が熱くなってくる。

 草野と優也の姿が見えなくなった後も、日菜子は呆然とその場に突っ立っていた。レスも認知ももらえなかったけれど、姿を間近で見られただけで、今にも天に召されそうな心地になる。

 直後、また一部のファンが騒ぎ始めた。他の俳優が次々と到着しているようだった。基本的に、日菜子は須田優也以外の俳優に興味はない。ただ、同じ一年生部員役の赤羽創が目の前を通ったときは、ほんの少し胸がときめいた。脇役ではあるけれど、やっぱり、一年生役の俳優は小柄で可愛い外見の男子が多い。赤羽創もそのうちの一人だった。

 ファンたちの歓声が落ち着いた頃、日菜子はショルダーバッグから手帳を取り出し、今日の詳細スケジュールのページを開いた。

「次は、グッズ販売の開始時間まで待機、っと」

 メモの内容を読み上げ、踵を返して最寄り駅の方向へと向かう。

 待機場所は決めてあった。駅に戻る途中の路地をちょっと入ったところにある、ベーカリーカフェ。五日前に須田優也がツイッターに上げていた、美味しそうな焼き立てメロンパンを売っている店だ。グルメサイトで会場周辺のパン屋さん情報をしらみつぶしに調べていった結果、ここだと確信したのだった。

 夜公演しかなかった五日前の月曜ならともかく、今日は昼公演もあるのだから、出演俳優陣が外に昼食を食べに出る可能性はとてつもなく低い。だけど、どうせ待機するなら、少しでも可能性のある場所で待ち伏せしたかった。推しと同じものを味わえるというのもまた一興だ。

 彼と同じ席に座って、彼の見ていた景色を前にすれば、きっと妄想も捗ることだろう。

 メロンパンを美味しそうにほおばる推しの姿を脳内に思い描きながら、日菜子は目的のベーカリーカフェへと急いだ。

『白球王子』は、甲子園を目指す高校生の一年間の奮闘を描いた野球漫画だった。

 ピッチャーとして中学校の全国大会を制覇した主人公の紅葉裕太(須田優也)が、鳴り物入りで高校の野球部に入部するところから話は始まる。部長の桜雅之(草野京太郎)は紅葉に肩入れするが、紅葉にエースの座を奪われた三年生の銀杏拓哉(一ノ宮潤)にとっては面白くなく、トラブルは絶えない。そんな中で、彼らはなんとか甲子園出場に漕ぎつける。

 部員は一丸となって優勝を目指す。しかし、負けたら引退という試合が続いているにもかかわらずろくにマウンドに立たせてもらえない銀杏がとうとう業を煮やし、一年生エースの紅葉にナイフで怪け我がをさせようと企たくらむ。襲われた紅葉は凶器を奪って反撃しようとするが、タイミング悪く止めに入った桜部長の脇腹にナイフが刺さってしまい──。

 青春スポーツ漫画にしては、なかなかシリアスな展開だ。漫画を読んで泣き、アニメを見て泣き、DVDを見て泣き、そして今日は観劇して泣くだろう。紅葉裕太が桜部長に怪我をさせるシーンなど、想像しただけで目が潤む。

 午後五時の開場とともに、日菜子は会場入りした。最前列の指定席へと進み、胸を高鳴らせながら腰を下ろす。

 先ほどまで居座っていたベーカリーカフェでの待ち伏せは、やはり空振りに終わった。

 だけど──ここからが、今日の大一番だ。

 開演までの時間を、日菜子は左後方を気にしながら過ごした。スズランテープで仕切られているだけの関係者席がそこにある。今日の終演後の計画が成功するかどうかは、まずはここに目的の人物が現れるかどうかにかかっていた。

 関係者席に人が座るたびに、手元のスマートフォンに表示した顔写真と見比べていく。一時間の猶予が残されていたのが、三十分になり、十五分になった。目的の人物らしき男性はなかなか姿を現さなかった。

 ──絶対、来るはず。

 日菜子は片手でスカートをぎゅっとつかみ、祈りながら待った。

 あと五分で開演という時間になり、だんだん不安になってきた頃、その人物はようやく姿を現した。

「よかった……」

 大平昴の明るい茶髪と日に焼けた肌を確認した瞬間、日菜子は思わず声に出して呟いた。

 やはり、須田優也が大平昴に向けて発信していた『合流するの楽しみにしてる!』という言葉は、観劇終了後の集まりに演者側が遅れて参加することを指していたようだ。

 それを証拠に、大平昴が座った席の周りには、彼の知り合いらしき役者が二人座っていた。楽しげに言葉を交わしている彼らを横目に、日菜子は満足感に浸りながらステージのほうへと向き直った。

 まもなく、会場が暗くなり、音楽が流れ始めた。

 幕が開き、左手にグローブをはめた須田優也が姿を現した瞬間から、日菜子は舞台の世界に引き込まれていった。

 入部。練習。日差し。汗。

 称える声。不満の声。擁護する声。非難する声。

 野球の練習や試合を通して、須田優也演じる主人公の感情がひしひしと伝わってくる。後半に入って間もなく、悪役の一ノ宮潤に対して反撃しようとした須田優也が、止めに入った部長役の草野京太郎を誤って刺してしまうシーンがやってきた。ステージに転がった草野に須田優也が泣きながらすがりつく演技を見て、日菜子も号泣した。

 メイクが落ちないように目元に当てたハンカチを外すことができないまま、『白球王子』の舞台はエンディングへと向かっていった。

 カーテンコールでは、手が痛くなるほど拍手を続けた。最後に出てきた須田優也が、主人公を支え続けた部長役の草野京太郎と楽しそうにハイタッチをしたときは、感動のあまりよろけそうになった。出演者たちが一人ずつ舞台袖へと捌けていった後、会場の照明が点ついた。同時に、日菜子はぱっと後ろを振り向いた。

 周りの観客が帰る準備を始めるなか、気を緩めずに関係者席の様子を窺う。

 タイミングを見計らって、日菜子は退場の列へと急いだ。ちょうど移動し始めていた大平昴一行の後ろにつける。「どこの店行く?」「どうしよう」という会話が、前方から聞こえてきた。

 ──完っ璧!

 笑みがこぼれそうになり、日菜子は慌てて両手で顔を隠した。上手くいったという実感があった。兄に怒られながらも計画を完成させた甲斐があったというものだ。

 ──あとは、優也くんの『合流』を待つだけ。

 そっと右手を顔から外し、こぶしを作って小さくガッツポーズをした。これこそが単騎参戦の醍醐味だ。もっとも楽しみにしていた瞬間まで、あともう少しの辛抱だった。

 午後九時四十分。

 大きなサングラスをかけて真っ赤な口紅を塗った日菜子は、お洒落な居酒屋の店内でちびちびとオレンジジュースを飲んでいた。年齢確認をされないように変装グッズを持ってきたのは正解だった。案内される前にカツカツと歩いていって席に座ってしまった日菜子のことを、兄と同じくらいの歳に見える店員がしばらくのあいだ不思議そうな目で見つめていたけれど、すぐにドリンクメニューを持ってきてくれた。なんとか怪しまれずに済んだらしい。

 カラン、と音がして、入り口のガラス戸が開いた。

 日菜子はそっと顔を上げ、横目で入り口の様子を窺った。はっと息を吞み、慌てて口元を押さえる。

 そこには、たいそう豪華なメンバーが顔を揃えていた。

 元エース・銀杏拓哉役の、一ノ宮潤。

 一年生部員・朝顔陽介役の、赤羽創。

 部長・桜雅之役の、草野京太郎。

 そして──主人公・紅葉裕太役の、須田優也。

 それぞれマスクをしたり眼鏡をかけたりと多少の変装はしていたものの、さっきまで舞台を見ていた日菜子にとって判別の障害になるものではなかった。彼ら四人はこちらに近づいてきて、日菜子が陣取っている席の隣のテーブルへと合流した。既に一時間半飲んでいてできあがっている大平昴ら三名に四人が加わり、七名での宴会が始まった。

 日菜子は感激に浸りながら、舞台メイクを落として素の状態になった須田優也の姿をじっと見つめた。サングラスには、視線をうやむやにするという機能もある。すぐそばにいる推しを横目で凝視していても、顔の向きさえ気をつけていれば、ほぼバレることはないのだった。

「草野さんまで来てくれたんですか。ホント、お疲れ様です」

 大平昴ら三名がペコペコと頭を下げる。やはり、人気俳優の草野京太郎はこの中でも別格らしい。それなのに個室でもない居酒屋で飲んでいて大丈夫なのだろうかと気になるけれど、彼らと日菜子以外に三組いる客は全員男女のカップルで、それぞれの話に夢中の様子だった。ここまで追いかけてきたファンは、さすがに日菜子しかいないようだ。

 草野京太郎と一ノ宮潤は生ビールを頼み、須田優也と赤羽創はウーロン茶を注文した。

「あれ、赤羽はまだ未成年か」

「そうです」

「須田はもう二十歳じゃなかったっけ」

 草野が首を傾かしげると、優也は「そうなんですけど、明日も公演なんで」と控えめな声で言った。「偉いなあ。草野さんと俺は飲んでるのに」と一ノ宮が優也の背中を叩く。

 ──あっ、忘れてた。

 須田優也の肉声を聞いて、日菜子は慌ててテーブルの上のレコーダーへと手を伸ばした。録音ボタンを押し、彼らからは見えないように上手くメニューをかぶせて隠す。

 去年の誕生日に、両親に買ってもらった高性能のレコーダーだった。雑音が多い場所でも、聞き取りたい音の方向に先端を向けておけば、きちんと目的の音だけを拾ってくれる優れものだ。「英語の授業でネイティブの先生が来たときに録音したいから」という理由で買ってもらったのだけれど、兄は「絶対違うって。非合法な使い方をするやつだって!」と最後まで強硬に反対していた。

 まったく失礼な話だ。優也くんの声を録音してどこかに載せたり売ったりするわけではなく、個人での鑑賞用にするだけなのだから、法律違反にはならないだろう。

 ──まあ、たぶん、グレーゾーンだけど。

 七名で乾杯をしてから、彼らは和気藹々と談笑し始めた。

「今回の舞台って、いつ頃から草野さんの出演が決まってたんですか? キャスト発表されたとき、けっこうびっくりしましたよ」

 大平昴が問いかける。草野は「去年の十一月くらいかな」と天井を見上げながら言った。

「好きな漫画だったから、すぐにOKを出したんだ。小松原さんから直接打診が来てさ。勝手に承諾しちゃったから、マネージャーには後で怒られたけどね」

「へえ! 確かに、草野さんって、小松原さんと仲良いですもんね」

 小松原というのは、おそらく演出家のことだろう。こういう裏話が聞けるのも、追っかけ行為の旨味の一つだ。

「にしても、今回のキャスト発表、ずいぶんと延期されましたよね」

 赤羽創がウーロン茶のグラスを持ち上げながら言った。

「公演が三月からなのに、発表が年明けになってからで、チケット販売開始がその一週間後からって。びっくりしましたよ。何があったんですかね」

「ギリギリだったもんね」優也が同意して、腕を組んだ。「稽古も、結局本格的に始まったのは一月中旬からだったし、大変だったなあ」

「それ、俺が無理言ったからかも」

 赤羽と優也の会話を聞いた草野が、ぼそりと呟いた。「え、そうなんですか?」と一ノ宮が問いかけると、「ちょっと、いろいろとね」と草野は意味ありげな口調で言った。「条件で揉めたりしたんすか」と一ノ宮がさらに尋ねたが、草野は笑うだけで、答えようとはしなかった。

「そういや、君たちにはいつ依頼があったの? 小松原さんがどのタイミングで俺に声かけたのか、いまいちよく分かってないんだよね。あの時点で、構想もキャストもだいぶ固まってたのかな?」

「俺は──」一ノ宮が顎あごに手を当てる。「十二月の頭くらいですかね」

「僕は本当にギリギリで、年末くらいでした」

 優也がそう言うと、「俺もそれくらいですかね」と赤羽が頷いた。

「ってことは、桜部長役の俺を押さえてから、他を決めていったんだな。小松原さんも、有能な人だけど、スケジュール立ては下手だな」草野が大口を開けて笑う。「ま、あの人の演出能力は心から信頼してるけどな」

「すごい人っすよね。小松原さんと仕事するのは初めてなんで、俺、嬉しくって」

 一ノ宮の言葉に、「初めて? まじで?」と草野が反応した。

「はい。須田と赤羽もだよな?」

 そうです、と優也と赤羽がそれぞれ頷くと、草野が「意外だなあ。みんな今回が初めてなんだ」と椅子の背にもたれかかった。

「小松原さんは、最高の演出家だよ。能力も、人格も。俺、あの人には一生ついていこうと思ってる」

「本当にいい人ですよね。今回誘ってもらうまでは雲の上の人だとばかり思ってたんですけど、俺みたいな新人にも何かと優しくしてくれて」

 赤羽が嬉しそうに言った。

「俺、見に行きたかった舞台のチケットを小松原さんからもらったんですよ。一ノ宮さんの主演舞台を見に行きたいけど金がないってぼやいてたら、まさかのまさか、コネ使って用意してくれて」

「俺の主演舞台? というと」

「『青春ゴール』です」

「あれ? ホントに?」一ノ宮が腕を組み、首を傾げた。

「めちゃくちゃかっこよかったです。俺、あの舞台を見て、一ノ宮さんに惚れちゃって。なんてまっすぐな演技をする役者なんだろう、って。試合のシーンとか、本物のゲームを見てるみたいで、心から見習いたいと思いました」

「そっか。赤羽が見に来てくれたなんて知らなかったな。そんなに褒められると照れるぜ」

 少し顔が赤くなってきた一ノ宮が、美味しそうに生ビールを一口飲み、「ありがとな」と恥ずかしそうに言った。「でも──」ともごもごと口の中で何かを呟いてから、「まあいいや」と顔を上げる。

「ちょっと俺トイレ行ってくるわ」

 一ノ宮がそのまま立ち上がり、日菜子のすぐそばをすり抜けて店の奥へと歩いていった。ふわりと微香がした。いい匂いの香水だ。一ノ宮を追いかけていた頃の日菜子だったら、この場で卒倒していたかもしれない。

「そういや須田、小松原さんとキャンプ行ったとか言ってなかったっけ」

 大平昴が優也に問いかけた。「ああ、そうだよ」と優也が頷く。

「小松原さんも僕も、趣味がアウトドア系でさ。だから、キャンプ用品や釣り具のことで話が合って」

 ──そうなんだ!

 日菜子はサングラスの下で目をきらめかせた。一見インドア派に見える須田優也の趣味が、キャンプや釣り。そんな情報は、ネット上のどこにも落ちていない。

「ちょうど昨日も、いろいろ情報交換してたんだ。小松原さん愛用のキャンピングカーとか、冬でも絶対に寒くないシュラフとか」

 優也はスマートフォンを取り出し、写真を見せながら説明した。男子たるもの皆ある程度は興味があるのか、「この車いいな」「ダウンの寝袋か、そりゃあったかいだろうな」などとコメントしている。

「あと、おすすめのアウトドアナイフも教えてもらったよ。この間の休みに買いに行ったんだけど、いざ手に入れたらテンションが上がっちゃって。それからずっと鞄の中に入れっぱなし」

「ナイフ持ち歩いてんの? 危ねえ奴だな」草野が冗談めいた口調で言った。「アウトドアナイフって、何に使うんだ?」

「木を切ったり、加工したり、あとは食材を捌いたり──何にでも使えますよ」

 へへ、と須田が恥ずかしそうに笑い、その表情が日菜子の胸を打った。

 一ノ宮潤が戻ってきて、「何の話?」と会話に混ざった。入れ違いに、「俺もトイレ」と赤羽創が立ち上がり、テーブルから離れていった。

「須田の趣味がキャンプ? 専用のナイフも買った? 何それ、イメージと全然違うんだけど」

 帰ってきた一ノ宮が、話の経緯を聞いて驚いた顔をした。

「アウトドアナイフって、折りたたみ式のやつ?」

「ああ、それはフォールディングナイフですね。確かにそれが持ち歩きやすいし一般的なんですけど、僕が買ったのは違うんです。シースナイフって言って、刃の部分を専用の鞘に入れて持ち運ぶタイプで」

「へえ、かっこよ。見せてよ」

 一ノ宮に言われ、優也は椅子の背にかけていたリュックを取って膝の上に置き、その外ポケットから黒い鞘に入ったアウトドアナイフを取り出した。刃をちらっとだけ見せて、すぐに中にしまい込む。「こんなところで出したら不審者扱いされますから。人に見せるのも初めてなんですよ」と弁解する優也は、日菜子の目から見ても可愛らしかった。

 トイレから赤羽が戻ってきてからは、もっぱら明日に控えている千秋楽の話題になった。「千秋楽だけカーテンコールの台詞が違うから、間違えないようにしなきゃ」と一ノ宮がぼやくと、赤羽が「いいなあ。脇役だから、どちらにしろカーテンコールは台詞がないや」と肩を落とす。「ま、下積み期間も後から考えればいい思い出さ」と、そんな赤羽に対してベテランの草野が声をかけた。

 ひとしきり盛り上がった後、午後十一時になる前に、彼らの短い宴会はお開きになった。「明日も頑張ろうな」「おう!」という頼もしい声とともに、俳優陣がぞろぞろと店を出ていく。

 日菜子もテーブルの上のレコーダーを回収し、ショルダーバッグに入れた。オレンジジュース一杯分の会計を済ませ、急いで店を出る。遠くに須田優也らの背中を見つけ、追いかけようと早足で歩きだした直後、バッグの中でスマートフォンが鳴っているのに気がついた。

 バッグを開け、スマートフォンを取り出す。画面に表示されていたのは『お兄ちゃん』という気の抜けた五文字だった。

「もしもし?」

 スマートフォンを耳に当てるやいなや、「今どこ?」という兄の尖とがった声が耳に飛び込んできた。

「ええっと……これから電車」

「これからぁ? お前、本気で補導されるぞ」

 兄が長いため息をついたのが、電話越しにも分かった。

「日菜の帰りが遅そうだから駅まで迎えに行ってくれって、お母さんに言われちゃってさ。だから着く時間が分かったら教えること。十一時半くらい?」

「え。それは、その」

「……まさか、須田優也とやらのストーカーをしてるんじゃないだろうな」

「し、してないよ!」

「だったら早く帰ってきてくれ。俺はもう眠たいんだ。あー、早く寝たい。死ぬほど眠い。布団が俺を呼んでる」

 そんなことを言いつつ、毎回きちんと最寄り駅まで妹を迎えに来てくれる兄は、心根の優しい人間なのだと思う。たぶん、だけど。

「しょうがないなぁ。帰ることにするよ。明日もあるしね」

「あ、お前やっぱり終電まで粘るつもりだっただろ」

「そんなこと言ってないよぉ」

 兄との電話を切り、駅へと向かった。須田優也の姿も、他の俳優たちの姿も、もうどこにも見えなくなっていた。

 翌朝も、朝四時半に起きた。

 もぞもぞとベッドから起き出し、大きく伸びをして、パジャマを脱ぎ始める。今日の服は、暗い会場の中でもきちんと舞台から見えるように、白を基調としたコーディネートだ。真っ白なワンピースを頭からかぶり、デニムのブルゾンを羽織ってから、部屋の真ん中にあるアコーディオンカーテンを勢いよく開ける。

 部屋の反対側にあるベッドでは、兄がすうすうと寝息を立てていた。片脚が布団から突き出していて、両腕は万歳をするような形で頭上に投げ出されている。

 その兄のすぐ横の壁から、十数人もの須田優也がにっこりとこちらに向かって微笑みかけていた。

 部屋中の須田優也に見守られながら、セミロングの髪を梳かし、鏡を取り出してきてメイクを始めた。昨日は大人っぽい緑色のアイシャドウを使ってみたけれど、今日は居酒屋に潜入する必要もなさそうだから、可愛らしいピンク系の色にしてみる。瞼には入念にラメをのせ、睫毛げも丁寧にカーラーで巻いた。チークも、昨日みたいに大人っぽく横長に伸ばすのではなく、頰骨の上に丸くのせてみる。

 あらかた準備が終わったのは、午前六時を過ぎる頃だった。椅子の背にかけてあったショルダーバッグをつかんで急いで部屋を出ようとすると、「朝からうるさいなあ」と部屋の反対側から眠そうな声がかかった。兄がベッドの上に起き上がって、眼鏡をかけているところだった。

「あ、ねえねえお兄ちゃん」

「何?」

「今日の服、どうかな? 優也くんに気に入ってもらえると思う?」

 眠そうに目をこすっていた兄が、「ん?」と顔を上げる。そして、はっとした表情のまま、数秒間硬直した。

「どうしたの? どこか変?」

「あ、いや」兄が歯切れの悪い返答をして、そっぽを向く。「お前さ、いつもそれくらい化粧とか服に気を使えば──なんていうか、いい感じなのにな」

「いい感じって?」

「女子としての平均値を、わりと、というか、けっこう、まあ、超えているだろう……いや、超えているのかもしれない……ってこと」

「えー、そう? 優也くんが目を留めてくれたらいいなぁ」

 素直にはしゃぐと、お決まりの長いため息が返ってきた。

「どうしてお前は、自分の好きなアイドルに会いに行くときしかお洒落をしないんだ」

「アイドルじゃないよ。舞台俳優」

「どっちでもいいよ」

「化粧なんて、いつもいつもできないもん。きちんとやるのは、特別な日だけ」

 はいはい、と兄はやけっぱちな返事をして、ごろりとベッドに寝転がってしまった。やっぱり、まだ眠いらしい。

「じゃ、行ってくるね!」

 日菜子は兄の十倍くらい元気な声を出し、軽い足取りで部屋を出た。

 午前七時からヘアセット。午前八時直前に、関係者入り口到着。十五分ほど待って、入り待ちをしているファンとともに須田優也のお見送り。

 事は昨日とまったく同じスケジュールで進んだ。そして、開場時刻ぴったりに、日菜子は再び、舞台『白球王子』の公演会場へと足を踏み入れた。

 今日の席は、最前列ど真ん中だった。少し左側に寄っていた昨日よりもいい席だ。昨日は終演後の尾行のことで頭がいっぱいだったけれど、今日はもう少し集中して観劇に臨むことにする。開演までの一時間は、昨日の公演を振り返る時間に充てた。

 午後六時──ゆっくりと会場の照明が落とされ、ステージの幕がするすると開いた。

 須田優也が、野球帽をかぶり、真っ白なユニフォームを身に着けて、ステージの上へと走り出てくる。舞台は、須田優也の投球練習のシーンから始まった。見えないボールを真剣な目をして投げ続ける優也は、昨夜居酒屋ではにかみながら趣味の話をしていた二十歳の男性とはまったく違って見えた。日菜子の目に映っているのは、間違いなく、鳴り物入りで高校野球部に入ってきたばかりの十五歳の少年だった。

「この野球部を、乗っ取る覚悟でやれ」

 三年生の部長が一年生の主人公に告げる。漫画原作の名台詞は、舞台でも健在だった。草野京太郎は、時に温かく、時に厳しい目をしながら、まだ幼いところもある主人公を様々な場面で支えていく。

 その絆に割って入ろうとするのが、一ノ宮潤だ。今までは俺が絶対的なエースだったのに、という悔しさ。チームが勝ち上がるために顧問が一年生をマウンドに立たせる決断をしたときの、誰にもぶつけられない想い。一見、主人公を苛め抜く悪役のように描かれているが、元エースのやりきれない気持ちは、観客にも痛いほど伝わってくる。

 先輩たちからのプレッシャーを受け止めて頑張りすぎる須田優也を、赤羽創ら他の一年生が癒す。ストーリー自体はシリアスだけれど、観客を笑わせるような台詞も、こういう脇役のキャラクターがしっかりと言ってくれる。

 そして、また、あの感涙必至のシーンがやってきた。

「俺の三年間をどうしてくれるんだよ!」

 一ノ宮潤が、観客が震えあがるほどの剣幕で吠え、優也に躍りかかる。一ノ宮潤の手には、ナイフが握られている。優也は必死で一ノ宮の攻撃を避けながら、右腕をかばい、左手でナイフを叩き落とそうとする。

 揉み合っている二人が、一瞬、舞台袖へと消える。

 直後、一ノ宮がステージに飛び出してきた。それを追うように、ナイフを手にした優也が現れる。

「俺の野球人生だってまだ終わりじゃない!」

 渾身の力で叫び、頭に血が上った優也がナイフを振り下ろそうとする。

「やめろ!」

 ステージの反対側から全速力で駆けてきた草野京太郎が、優也と一ノ宮の間に割って入った。しかし、ナイフを持つ優也の右腕は止まらなかった。ナイフはそのままの勢いで、ずっぽりと、草野の脇腹に突き刺さった。

 草野が絶叫し、大きな音を立てて倒れた。昨日よりも、迫力が増していた。

 優也がはっと我に返り、草野に駆け寄る。

 ──部長! 部長!

 日菜子の脳内で、先に台詞が再生される。昨日のシーンと、微妙に間合いが違う今日のシーンが重なり合う。

 優也が倒れた部長にすがりついて後悔の言葉を叫び続けるという、昨日日菜子の涙腺が決壊したシーンまで、あと少し──の、はずだった。

 優也はそれ以上叫ばなかった。床に倒れ伏した草野を呆然と見下ろし、「えっ」と小さく声を漏らす。そして、彼は、手元に残ったナイフへと視線を落とした。

 その刃先には、べったりと、赤い液体がついていた。

 ステージの上では、草野京太郎が、腹を押さえてもがき苦しんでいた。白いユニフォームが、みるみるうちに真っ赤に染まっていく。

 ようやく──観客席から、悲鳴が上がった。
 

***

ページを捲る手が止められなくなること間違いなし!(編集部)

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追掛日菜子は舞台俳優・力士・総理大臣などを好きになっては、相手の情報を調べ上げ追っかけるストーキング体質。しかしなぜか好きになった相手は、殺人容疑をかけられたり脅迫されたりと、毎回事件に巻き込まれてしまう。今こそ、日菜子の本領発揮! 次々と事件解決の糸口を見つけ出すが――。前代未聞、法律ギリギリアウト(?)の女子高生探偵、降臨。

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辻堂ゆめ 作家

1992年神奈川県生まれ。東京大学卒。第13回「このミステリーがすごい!」大賞優秀賞を受賞し『いなくなった私へ』でデビュー。他の著作に『コーイチは、高く飛んだ』『あなたのいない記憶』(宝島社)、『悪女の品格』(東京創元社)、『僕と彼女の左手』(中央公論新社)がある。

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