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 電通やNHK、ワタミなど、有名大企業で過労死が頻発しており、2017年度には1年間で190人が過労や職場のハラスメントが原因で亡くなったまたは自死した(含未遂)と国が認定している。国が把握していない数を含めると、その何十倍にもなるだろう。

 ところで、こういった問題が起こったときには会社が親身になって遺族をサポートし、場合によっては補償してくれると思っている人もいるのではないか。

 しかし、断言しよう。それは全くの幻想に過ぎないと。むしろ、長時間労働を命じたりハラスメントを放置したりして過労死や過労自死に追い込んだという責任追及を回避するために、会社はありとあらゆる手を使って遺族を妨害してくる。

 社内に箝口令を敷いて、亡くなった人についてまともに話さない、というのはどの会社もやっている常套手段。他にもいろいろな手口を使って真相を追求しようとする遺族を邪魔してくるのだ。

 いくつかのパターンを紹介しよう。

手口1:会社が手続きを進めない

 そもそも押さえておくべきは、仕事が原因で亡くなったとしても、死亡届の提出と同時に過労死に対する補償が下りるわけではないということだ。国から補償を受けるには、国に対して労災申請を行い、過労死であると認められなければならない。ここに第一のハードルがある。

 まず、会社側の手口としては、労災申請をさせなければ「勝ち」なのだ。そのため、遺族が会社に問い合わせてものらりくらりとかわし、労災に必要な書類の提出を拒否してくることは日常茶飯事だ。労災の手続きを会社に依頼したのに、2,3年間ずっと放置されていた、という話は珍しくない。時間を掛けることで諦めるように仕向ける、という戦略はブラック企業では普通に行われる。

手口2:会社による証拠隠滅作戦

 労災や過労死の裁判で一番重要なのは、証拠の存在だ。特に、タイムカードや日報など労働時間を示す証拠があるかないかで結果が変わってくる。これを集められるかが第二のハードルだ。そこで会社側は、過労死だったとしても証拠を出さなければいい、と考えて文字通りあらゆる手段を使って証拠隠蔽を図る。

 特に単身赴任で会社の寮に住んでいるケースは要注意だ。会社の寮だと、合鍵を会社がもっており家族が到着する前に部屋の中にある証拠が隠滅される可能性がある。「まさか、そんなことを」と驚かれるかもしれないが、筆者は実際に何回も同じような話を過労死の遺族から耳にしている。

 最もよくあるパターンは、本人が使っていたはずの社内のデスクがきれいに掃除されているケース。また社内用携帯電話を隠し、労働時間や仕事内容に関する書類を一切合切シュレッダーにかける、パソコンをアンインストールして証拠隠滅を図るといった行為はマニュアル化されているのかと思うくらい頻繁に起こっている。ひどいケースでは、連絡を受けた遺族が到着すると会社の寮にあった本人の私用携帯電話が真っ二つに折られていた。

手口3:亡くなった本人を責める

 なんとか証拠が見つかり手続きを進められたとしても、第三のハードルは、会社による本人への誹謗中傷に耐えるというプロセスだ。これは、裁判で会社を訴えた際に、会社側から100%なされる主張である。とにかく会社側は亡くなった原因が仕事以外のなにかだ、と裁判官に思わせれば「勝ち」なので、屁理屈だろうが遺族を傷つけようがお構いなしだ。

 一番多いのは、亡くなったのは本人個人の病気や性格に原因があるという主張だ。「肥満体質で高血圧だったので突然死した」や、「うつ病になって自死したのはもともと心が弱かったから」は、テンプレがあるかのように毎回主張される。

 さらには、嘘までついて仕事以外の理由を主張してくる。死人に口なしとはまさにこのことだ。「愛人がいて夫婦関係で悩んでいるようだった」と家族関係に触れる主張も珍しくない。他にも「深夜にゲームをしていた」や「休みの日に徹夜でワールドカップの試合を見ていた」ために自分で睡眠時間を削っていたことが疲労蓄積の原因だ、というとんでもない主張や、「タバコを吸っていた」と喫煙歴が原因だと主張してみたり、「脂っこいものが好きで食生活が原因」とあたかも全ての食事を把握していたかのような意味不明な主張もある。

手口4:「彼は出勤していたが働いていなかった」!?

 これは、なにかしらの形で長時間労働がある程度証明されてしまった場合に会社がよく使う手口だ。必死の思いで遺族が証拠を集めて、タイムカードや日報に9時~22時と記載があるにもかかわらず、「出退勤は自由なので、勝手に会社に来ていた」というのは序の口で、「会社にいたが、ずっと携帯をいじっていた」という社内にいたが仕事をしていないパターン、挙句の果てには、「商品の搬送中に助手席に座っていたので、その時間は休憩」という、ありえない屁理屈まで使ってくる。ちなみにこれらは実際に交渉や裁判で出てきた会社側の主張であり、私が脚色しているわけではない。

 

 ここまで、会社側のひどい手口をいくつか紹介してきた。これらの戦略は、明らかに屁理屈のレベルで法的にはあまり意味をなさないが、遺族をつらい思いにさせて会社への責任追及を諦めさせる、という狙いがある。実際、大切な人を亡くした直後に、その人が一生懸命働いていた会社から誹謗中傷されるつらさは計り知れない。ただこれらは悪質で、ときには違法だ。こういったときに一人で思い悩むのではなく、ぜひ私たちのような労働問題の専門家に相談してほしい。

 

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