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適切な愛国ソングを模索せよ

「愛国のなにが悪い」「愛国なんて全部ダメだ」。平成最後の夏に、そんな水掛け論もいよいよ終わりつつある。

RADWIMPSの「HINOMARU」騒動をめぐり、中立的な識者から「適切な愛国ソングを模索するべきだ」との声が少なからずあがった(※1)。もっともなことだと思われる。
イギリスの「ルール・ブリタニア」、アメリカの「ゴッド・ブレス・アメリカ」、中国の「歌唱祖国」、フランスの「進発の歌」――。

世界には無数の愛国ソングが存在し、スポーツの大会などで歌われたり、演奏されたりしている。その参加者は、イベントでは熱狂するものの、やがて日常に戻っていく。もちろん、かれらすべてが排外主義者や超国家主義者なわけではない。

音楽に詳しい者はこのことをよく知っているから、「愛国歌はなにがなんでも絶対にダメ」などと教条主義的なことはいわないのである。

「日本だけダメ」は「日本スゴイ」と大差なし

じっさい「なぜ日本人だけ愛国ソングがダメなのか」と訊かれても答えられない。「過去に侵略戦争を行った」といっても、「中国だってチベットを侵略したじゃないか」「欧米列強の植民地支配はどうだ」などと反論されて万事休すである。

いや、それでもなお「日本だけは絶対にダメ」というのだろうか。日本は特別であり、なにがなんでも絶対に許されないのだと。ここまでくるともはや日本特殊論であって、肯定・否定の違いはあっても、「日本は神の国」や「日本スゴイ」のたぐいと大差ない。

日本は、世界に数多ある国民国家のひとつにすぎない。だからこそ、愛国ソングを完全に否定することができない。これは議論のスタート地点である。

愛国歌の絶対禁止は軍歌「海ゆかば」の復活につながる?

にもかかわらず、「日本だけは絶対にダメ」と強弁すればどうなるか。かえって「海ゆかば」のような、戦前・戦中の軍歌の復活を招きかねない。

繰り返すが、スポーツ大会のときに、愛国ソングを消費することは多くの国でみられることだ。なのに、そこに「右翼! ナショナリスト!」との批判をしつこく投げかければ、不必要な被害者意識が植え付けられてしまう。そしてそこに右派がつけ入るのである。

「今回は災難だったね。あれは頭のおかしい左翼の攻撃なんだ。自分の国を愛してなにが悪いのか。そうだろう。……じつは、左翼に封印されていたこんな歌がある。さあ、これを一緒に歌って愛国心を謳歌しようではないか」と。

軍歌の復活は、保守界隈の宿望である。森友学園の軍歌についても、かつては好意的に受け止められていた。去年度の正論大賞(フジサンケイグループ主催)の受賞者は、「海ゆかば」を称賛してやまない新保祐司だった(かれの主張のひとつは、戦後「封印」された「海ゆかば」の復活だ)。2016年には、雑誌『正論』主催の講演会で、自衛官が「海ゆかば」を歌ったこともあった。この手の動きは着々と広がっている。

しかし、「天皇のために死のう」という歌が、現代日本にふさわしいとは到底思えない。愛国ソングの存在がやむをえないのならば、せめて、大日本帝国への愛国ではなく、現代日本への愛国が模索されなければならない。

愛国ソングに関しては、国際試合などに合わせて、戦前的なモティーフをちりばめただけの粗悪品がしばしば出回る。戦後的な愛国ソングの模索は、こうしたものの予防にもなるだろう。

愛国ソング制御論の可能性

もちろん、これはたんなる愛国ソングの肯定ではない。「愛国のなにが悪い」「愛国無罪」では、危険な排外主義などにつながる恐れがあるからだ。そこで、本論では「愛国ソング制御論」を提案したい。

あまり肯定できたものではないが、完全に禁止すると地下化して、かえってさまざまな問題を引き起こす。そのため、必要悪としてその存在を認めたうえで、どのように制御・運用していくか考える。このような事例は少なくない。たとえば、アルコールなどがそうだ。

愛国ソングもこれと同様に考えられる。完全な否定は、反動で戦前の亡霊を呼び起こしかねない。そのため、愛国ソングの存在自体は認めたうえで、穏当なものを模索していく――。肯定論でも否定論でもなく、制御論と名付けたゆえんである。

念のために付け加えておけば、これは、一時的に愛国ソングを消費したいひとびとに適切なものを提供し、愛国心を発散させ、その悪影響を抑える試みだ。愛国ソングが気に入らないものは、もとより歌わず、無視しておけばよい。

かつて、「愛国」を叩いておけば、とりあえず丸く収まる時代もあった。だが、いまやその破綻が明らかになりつつある。そこで、暴発を防ぐ安全装置として、穏当な愛国ソングを用意しておく。そんな柔軟な立場があってもいいのではないだろうか。

平成最後の夏に、「愛国」を考えるときのヒントになれば幸いである。


<註>
※1 たとえば、つぎの記事を参照されたい。
増田聡「『愛国ソング』30年史を振り返る〜長渕剛からRADWIMPSまで」
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/56365
増田聡「ゆずと椎名林檎に学ぶべき『愛国ソング』の作法」
http://gendai.ismedia.jp/articles/56379
柴那典「野田洋次郎が『日本の歌』を作った理由〜ジャーナリストが騒動を総括」
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/56575

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