この間、作家の佐々木典士さんと対談をするイベントがあった。

 佐々木さんは数年前にミニマリストが流行になったときにその第一人者として話題になった人だ。二冊目の著書として『ぼくたちは習慣で、できている』という習慣に関する本(運動する習慣を作るとか、お酒を飲む習慣を辞めるとか、そういう話)を出したのでその発売記念イベントだったのだけど、「ミニマリストとして見られるのはもう飽きてるんだけど、やっぱりみんなからミニマリストの人と捉えられてしまって面倒臭いんですよね」という話を聞けたのが面白かった。僕も全く同じようなことを思っていたからだ。

 僕はもともと、会社を辞めてニートになって、ブログで「働きたくない」ということを語っていたら名前が売れた感じなのだけど、現在はニートとか労働について語ることをあまりしていない。それは、物書きの仕事である程度収入がある状態になったからもあるけれど、それ以上に大きな理由として「飽きたから」というのがある。同じことを何回も何回も、何年も何年も話していると飽きるのだ。

 だけど、人というのは一番最初の印象で記憶されるもので、その最初の印象はなかなか上書きされない。多くの人にとっては僕は「なんかすごいニートの人」くらいで記憶されているし、初対面の人に会ったときなんかもそれが通じやすいから、「ニートの人ですよね!」って言われたら「まあそんな感じです、働くのだるいですよね」みたいにいちいち訂正せずに流してしまったりするのだけど。

 自分だって、あまりよく知らない人に対しては曖昧な過去のイメージで相手を把握しているからしかたない。一瞬だけ売れた一発屋の芸人やアーティストの人は、一生「あの○○の人ね」と言われ続けるのだろう。昔のヒット曲を何十年もずっと歌い続ける歌手の人を見ると、求められている仕事を果たし続けている、偉い、プロだ、と思う。自分にはそれができない。

 最近でも働くこと(働かないこと)について語ってくださいという仕事がときどき来るのだけど、すっかり飽きてしまったので大体断ってしまっている。そういうのを全部受けたほうが得なのかもしれない、もったいないかも、とか思ったりするけれど、そんな他人に求められることをきちんとできるようならそもそも会社を辞めてないよな、とも思う。

 最近読んだ竹熊健太郎さんの『フリーランス、40歳の壁』という本にも同じような話が書いてあった。竹熊さんによると、フリーランスとして生き残るコツは、「自分の二番煎じができること」らしい。何かの仕事がヒットして話題になると、それと同じようなことをやってくれ、というオファーがたくさんやってくる。そういうときに、「こういうのはもう飽きた、もっと別のことをやりたいんだ」と言って断らずに、需要に応えた仕事をできる人がフリーランスとして生き残れるらしい。竹熊さんはそういう自分の二番煎じが全くできなくて失敗したらしく、その反省が実体験とともに語られていて面白いのだけど、自分も竹熊さんと同じタイプだなと思う。自分のやりたいことと他人に必要とされることは違うのだけど、やりたいことしかやりたくないし、同じことを何度も繰り返すのはだるいんだ。これはもう性分なのだろう。こんなのでこの先やっていけるのだろうか。

 佐々木さんと、「自分の書いた本について語るのは面倒臭い」という話をしたのも面白かった。

 本というのは出版するまでに執筆期間が一年や二年かかるものだ。さらに、本が出る前にはゲラの校正で何度も全体を読み返しているので、本が出る時点では著書はその内容について考えたり語ったりするのにすっかり飽きてしまっていたりする。だけど、本が出て一ヶ月か二ヶ月くらいは、本を宣伝して売るために、取材を受けたりラジオに出たりトークイベントをしたりして、本の内容についてたくさん話したりしないといけないのだ。

「書いたことを何度も喋るのって面倒臭いですよね」

「喋るのが面倒だから本を書いているわけで、本を読んでくれって言いたい」

 そんなことを出版記念のトークイベントで話していたら、その場にいた出版社の人たちが微妙な表情をしていた気がするけれど。結局そのトークイベントでは新しく出た本の内容についてはほとんど話さなかったので楽しかった。まあトークイベントって大体、話の内容というよりも、その著者というのが生でどんな雰囲気をしているのか見てみたい、という理由で来る人が多いのでまあ良いのだろう。

 本は時間を超えて旅をするものなので、数年前に出した本を最近読んだという人に会って感想を聞いたりすることもある。本の中にいるのは数年前の自分で今の自分とは違うんですよ。そんな気持ちにもなるけれど、そういうことを言ってもしかたないから、とりあえず「ありがとうございます」って微笑んでおくのだけど。

 そして最近は今までやってきたことや書いてきたことに飽きてきているのだけど、その代わりに新しく何をやればいいかは全く思いつかないままでいる。しばらく何もせず寝て過ごすかなあ。

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pha『ひきこもらない』

家を出て街に遊ぶ。
お金と仕事と家族がなくても、人生は続く。
東京のすみっこに猫2匹と住まう京大卒、元ニートの生き方。

世間で普通とされる暮らし方にうまく嵌まれない。
例えば会社に勤めること、家族を持つこと、近所、親戚付き合いをこなすこと。同じ家に何年も住み続けること。メールや郵便を溜めこまずに処理すること。特定のパートナーと何年も関係を続けること。
睡眠薬なしで毎晩同じ時間に眠って毎朝同じ時間に起きること。
だから既存の生き方や暮らし方は参考にならない。誰も知らない新しいやり方を探さないといけない。自分がその時いる場所によって考えることは変わるから、もっといろんな場所に行っていろんなものを見ないといけない。