待ち合わせをするたびに言われることがある。

「あれ、こんなに早く来るとは思いませんでした」

 それは僕が普段から、「だるい」とか「面倒臭い」とか「外出たくない」とかしょっちゅう言っているからだと思う。予定に遅れてきたり、突然ドタキャンしたり来なくなるというのも普通にある、みたいなイメージなのだろう。

 実際は逆なのだ。予定があると僕はまず遅れない。それどころか早めに着き過ぎてしまうことが多い。

 予定が入っていると、前日からちゃんと時間を確認して、どの電車に乗れば良いかも乗換案内で検索してスケジュールに登録しておく。そうやっておかないと不安で怖くなってしまう。

 そして当日は、予定が入っていると朝からずっとその日は落ち着かない。何をしていても「何時には出ないといけないな……」ということを考えてしまう。予定を忘れないように、家を出る時間の30分前にアラームを鳴らすようにしているのだけど、アラームを鳴らさなくても1時間前くらいからずっとそわそわしてしまうので、アラームは結局不要であることが多い。そして出なきゃいけない時間の30分前には既に出かける準備が整ってしまい、そうなってしまうとなんだか家にいても何も手につかなくて、結局早めに家を出てしまうことになる。

 途中でコンビニに寄ったり本屋に寄ったりしたくなるかもしれないから時間に余裕を持って出るのはいいことだ、とか思うのだけど、寄り道をしても落ち着かなくてそんなに時間を潰せなくて、待ち合わせの30分前くらいに到着してしまうことが多い。カフェとかだったら早めに入って待っていてもよいけれど、家や会社を訪問する場合はあんまり早く着きすぎるのも迷惑だよなと思って、しかしカフェなどに入って潰すのには微妙な時間だったりして、意味もなくそのあたりをしばらく歩き回ったりする。

 こんな風に、予定があると過剰に事前に意識しすぎてしまって疲れてしまうから、「予定は苦手」とか「出かけたくない」とか言って、できるだけ予定を入れないようにしている。予定が守れないから苦手なのではなく、予定を守りすぎてしまうので苦手なのだ。

 それは働くことなどについても同じかもしれない。僕が「会社に勤めるのは苦手だ」とか言うと、「会社員は楽ですよ」とか「適当にやればいいんですよ」とか言う人がいるけれど、多分その「適当」が苦手なのだ。何かをしなきゃいけないという立場になると、「きっちりやらなければいけない」と一人で気に病んで、過剰に頑張りすぎてしんどくなってしまうから、最初から全てを放り出してしまう。それが僕の癖なのだ。なんかもうちょっと融通が利かないものかと思うのだけど。

 予定に早く着きすぎるなんて、やる気満々みたいで恥ずかしい。遅れていくほうがカッコイイと思う。もっと全てがどうでもよくて、何でも渋々やっているみたいな態度でいたい。

 こないだも、渋谷で知らない人ばかりの飲み会があったのだけど、またいつもの癖で30分くらい前に着きすぎてしまった。そんなアウェイな会合で早く着きすぎてしまいたくない。それに遅れていったほうが僕の世間的なイメージに合っていていいよな。しかたないので街を歩き回っていたのだけど、渋谷の街はどこに行っても人が多くて落ち着かなくて、別に見たくもない服屋に入って服を見たりして、なんとなく衝動的に短パンを買ってしまったのだけど、あとで家に帰って履いてみると生地が薄っぺらくてすぐ破れそうであまり好きな感じじゃなかった。時間があるようでないような、判断力が落ちているときに焦って買い物をするとそんな風になる。

 服屋で服を買い、本屋で本を見て、あとは全く目的地とは違うエリアまで歩いて行ったり、わざと知らない道に入って道に迷ってみたり、自販機で水を買って道端に座り混んでスマホでネットを見たり、などをしているうちになんとか時間は無駄に過ぎて、予定の20分遅れくらいで着くことができた。居酒屋に着くともう僕以外は全員揃っている。

「おお、道迷いませんでしたか」

「今日はお忙しいところすみません」

「来ないかと思いましたよ」

「ちゃんと着けてよかった」

 などと集まっている人たちが親切に声をかけてくれる。

 別に忙しいわけでもなく道に迷ったわけでもなく、ただ早く着きすぎてしまうけど早く着きすぎるのが嫌だという自分のわけのわからない内面が悪いんだよな。本当に申し訳ない。別に着いてみればみんないい人で居心地の悪い場所ではなかったりするのに、何をやってるんだろう。そんなことを考えながら、僕は曖昧に微笑んで、「遅れてすみません」などと言うのだ。

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pha『ひきこもらない』

家を出て街に遊ぶ。
お金と仕事と家族がなくても、人生は続く。
東京のすみっこに猫2匹と住まう京大卒、元ニートの生き方。

世間で普通とされる暮らし方にうまく嵌まれない。
例えば会社に勤めること、家族を持つこと、近所、親戚付き合いをこなすこと。同じ家に何年も住み続けること。メールや郵便を溜めこまずに処理すること。特定のパートナーと何年も関係を続けること。
睡眠薬なしで毎晩同じ時間に眠って毎朝同じ時間に起きること。
だから既存の生き方や暮らし方は参考にならない。誰も知らない新しいやり方を探さないといけない。自分がその時いる場所によって考えることは変わるから、もっといろんな場所に行っていろんなものを見ないといけない。