ベトナム戦争における象徴的な報道写真「ナパーム弾の少女」をFacebookが、よりにもよって“児童ポルノ”に認定して削除してしまった、これは米国ネット企業による情報統制にもつながる大問題だ――という警笛を鳴らそうとして、ドワンゴの有料ブロマガに力いっぱい記事を書いたら、その記事に使用した「ナパーム弾の少女」の写真が、今度はAppleから“児童ポルノ”に認定されて削除させられてしまったという度外れて理不尽な展開。

 この時は、「ドワンゴだって、巨大企業Appleに逆らえなくて気の毒なんだから」と同情する気持ちがあったが、第二の検閲事件は2か月後、2018年4月に起きた。

セクハラ財務次官の発言をそのまま引用したら…

 2018年4月、『週刊新潮』に「ろくでもない財務事務次官のセクハラ音源」と題した記事が掲載され、テレビはどこもかしこも福田前事務次官の「キスしていい? おっぱい触っていい? 手縛っていい? 縛られていい?」という音声一色になっていた。

『週刊新潮』2018年4月19日号

 

 この話題をブロマガの中で取り上げた私は、福田前事務次官の発言を記事からそのまま引用して次のように紹介した。

「キスしていい」は当たり前、「ホテル行こう」と言われた記者もいて、「最近、どのくらい前に(セックスを)いたしたんですか?」「おっぱい触っていい?」「キスする?」「キスしたいんですけど」「ああキスしたい」「おっぱい触らせて」など、数々のセクハラ発言を、森友問題や消費税の話のあいだにほぼ接続語代わりに用いる人らしい。

 そうそうこの音声くり返し聞いたよな~なんて眺める人も多いだろう。

 ピンクの文字が記事からの引用だ。特別に工夫したわけでも創作したわけでもなく、ただ『週刊新潮』に掲載されていたものをつなぎ、テレビでもネットニュースなどでも100万回くりかえされた数多くの原稿と同じく紹介しただけだ。

 ところが、ここにドワンゴの検閲が入った。
 担当者から届いたメールは以下の通り。

 

(略)
 記事内で「セックス」というワードを記載頂いてるかと存じますが、こちらの記事表現がございますと、「niconico ch」というニコニコチャンネル専用のアプリでは検索時に御社チャンネルが検出されないようになってしまいます為、お知らせのご連絡をさせて頂きました。
 理由といたしまして、各アプリケーションプラットフォーマー(apple storeやgoogle appなど)の審査において、公序良俗等の面でアプリ提供基準を満たさないとして、「niconico ch」アプリ自体が該当プラットフォーム上で提供不可、利用不可になる恐れがあるためのとのことでございます。
(略)
 つきましては、該当の文言を伏字にして頂くか、削除して頂く等の対応をお願いできると有難いのですが、御対応頂くことは可能でしょうか。

 

 なんと、「セックス」というたった一単語が「公序良俗」に反するとして、伏字か削除を要請されたのだ。私は言いたい。

 どこの中2じゃい!

 まるではじめて買った国語辞典で、「セックス」と引いて「う、うわあ、見てはいけない言葉を見てしまってるよ~う」とドギマギしている少年のようなウブすぎる反応。しかも、「セ●クス」にしろ「セッ●ス」にしろ、伏字のほうがはるかにエロさが増すじゃろが!

 さらに、メール引用箇所の第二段落をよくよく読解すると、今回の伏字・削除依頼は、前回の「ナパーム弾の少女」の時とは違って、Apple社からの直接の指示ではなく、「apple storeやgoogle appで、うちのアプリが利用不可になっては困るので」という、自社都合の事前自主検閲なのだ。

 Facebook、Appleにつづいて、Google、やっぱりお前もかーい! という叫びすら、もはや空転してしまい、むなしい。

 ドワンゴは、スマホアプリを利用したいからという自社の都合のために、AppleとGoogleという強者だけにかしずいて、「表現の自由」など平気で狭めてしまえる感覚しか持ち合わせていないのだ。

表現の自由をナメるとどうなるか?

 表現の自由は、ただ表現する人間だけに影響するものではない。

 規制を受けるとなると、表現する側は次第に禁止語句には触れなくなる。言葉ひとつが使われなくなるだけでなく、自主規制がどんどん広がって、やがて、その話題に近づくことすらなくなっていく。そこから、物事のディテールを知る機会や、多角的な視点を持つ機会が、知らぬうちに失われてゆくのだ。

 性的な表現が一律NGとなれば、「恋愛」や「青春」を描くことにも影響が出るし、もっと波及して、「性」がダメなら「殺人」を描写する推理小説や、ミステリードラマだってダメだとされる可能性が出てきてしまう。そうなると、性被害や殺人・傷害事件、戦争被害を訴えるための言葉の表現も……そんないびつな未来と地続きになっている怖さを孕んでいるのだ。

「今はスマホアプリがないとね」なんていう利益優先の熱に浮かされ、漫然と流れに乗って、無自覚に、簡単に、表現の自由を切り捨ててしまう姿勢は、すごく危ない。

「たかがスマホアプリじゃないか」と言ってのける勇気と冷静さを持ち合わせていて欲しいと切に願う。

 しかし、ドワンゴ、第三の検閲事件が起きるのだった。

伊藤詩織さんを擁護した漫画のコマが「公序良俗に反する」

 第三の事件は、つい最近、2018年7月11日に起きた。

 ブロマガのコンテンツのひとつに、小林よしのり氏の漫画『おぼっちゃまくん』の一場面に読者がセリフを入れ、一コマ漫画を作る大喜利企画「しゃべらせてクリ!」というコーナーがある。毎週、たくさんの応募がある人気コンテンツだ。

 この週のお題は、これだった。

(C)こばやしよしのり

 

 28点が掲載され、そのうちの一点が以下の作品だった。

(C)こばやしよしのり

 

 読者からの投稿作品。伊藤詩織さんを擁護し、国家権力やそれになびく社会に対する憤りが表現されている。

 おぼっちゃまくんを、日本の国家権力、あるいは寝言のように「正々堂々」と言いまくる最高権力者に見立て、権力者に非常に近い記者からのレイプ被害と、警察によるあからさまな“事件もみ消し”を告発したジャーナリストの伊藤詩織さんへの仕打ちを批判した作品だ。

 これがドワンゴの検閲の目に留まり、しかも今回は、伏字や削除の要請ではなく、「niconico利用規約第5項」に定められた「禁止事項」に抵触する要素が含まれているとして、いきなり、小林よしのりチャンネルと「Niconico ch」アプリとの連携を解除すると通告して来た。

 しかし、この一コマ漫画のなにが「禁止事項」に抵触しているのか?

 ドワンゴのニコニコチャンネルサポートによると、「ニコニコ活動ガイドライン第3項及び第4項に掲げる行為又はこれらの行為に準じる行為」があったとし、具体的には、「公序良俗に反する」「性的な内容」を含んだものがあるという。

 公序良俗に反する性的な内容? ドワンゴの指摘した理由はこうだった。

 理由: 記事中の画像にてNGワード「レイプ」使用

 つまり、この一コマ漫画が、勇気を振り絞って自身のレイプ被害を告発する伊藤詩織さんを擁護する内容であることも、逮捕状まで発付されていた記者の扱いが、警視庁上部からの鶴の一声で「逮捕中止、もみ消し」へとひっくり返されたことも、ドワンゴはすべて完全無視して、「レイプという性的な単語を使ったから、公序良俗に反してNG! 契約解除!」と一方的に制裁を発動したのだ。

伊藤詩織さん著『Black Box』表紙(文藝春秋)

 ちなみに、伊藤詩織さんの著書『Black Box』は、帯に「レイプ被害にあったジャーナリストが世に問う、法と捜査、社会の現状」という文章が入っている。

 ドワンゴの制裁基準に則れば、この文章も「性的な内容を含む、公序良俗に反する内容」ということになり、そして、伊藤詩織さんの書籍は、丸ごと公序良俗に反する禁止書籍という扱いを受けるということだ!

 まったく、あり得ない。ちゃんちゃらおかしい。

 よしりん企画では、激怒したスタッフがすぐさまブログに一連の内容と、今後はアプリからの表示がなされないことを読者に報告。すると翌日、このスタッフブログを読んではじめて事態を知ったというドワンゴの担当者より謝罪の電話とメールがあり、アプリの契約は元の状態にもどされることになった。

 いわく、ドワンゴは、「ニコニコチャンネルサポート」という部署で、Apple社から指摘を受ける前に、「自主的に」「安全に配慮した」記事の検閲を行っているという。

「安全に配慮した」結果が、なぜ「レイプ」という単語の排除になるのか、まったく理解できず、こんな検閲は危険極まりないと思うし、また、そもそもApple社がなにを「不適切」と判断するのか、その基準が公開されていないというので、驚いた。

 ドワンゴは、闇のヴェールに包まれたAppleをただただ忖度して、「自社の安全に配慮した、過剰な検閲」を行っているわけだ。

 今回は、この検閲部署が、ブロマガ担当者を通すことなく、いきなり制裁決定を通告したようで、担当者は非常に恐縮した様子だった。メールにはこう書かれていた。

「自主的な検閲が機械的且つ、必要以上に厳しい基準で運用されている可能性があり、運用の見直しを検討させていただくことになりました」

 まったくそう思う。

 そう思うが、まだまだ私は知りたいことがある。

 そこで、7月18日、ドワンゴ担当者にメールで直接取材の依頼と、8項目の質問状を送った。

 一体いつから自主検閲を行うようになったのか、そのきっかけや経過ドワンゴはなにに困っているのかを知りたいし、検閲の手順や人員制裁決定を行う人間の責任レベル議論は行われたのか、行われたのならばその発言内容を公開してほしい。

 7月18日夜、ドワンゴ担当者から、「いったん社内にて担当部署の確認を行っております」という返事があった。

 その後、現在まで、確認のお返事をお待ちしている。

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