日本の神話には「ワニ」というのがたくさん出てくるけれど、それは私たちが図鑑で見る「ワニ」でなくて、あの凶暴な海の生き物だっていうことは、知ってる人は知ってますが。
しかし、食べたことないので、食べてみたいなー。
という気持ちにさせる、今回のエッセイです!

 ワニ

 最近、とあるスマホゲームにハマっている。『Hungry Shark』というアプリで、サメを操作して海を冒険しながら、アイテムを集めたり敵を倒したりするゲームである。敵を食べれば食べるほど大きく成長していくので、せっせとサメ育成に精を出している。

 なんでも熱しやすく冷めやすい体質の僕は、すぐに新しいモノに手を出す。しかしすぐに飽きて辞めてしまうのだ。それでも、極端にドハマりしてしまうゲームや趣味に出逢うことがある。すると今度は昼夜問わずとことん時間を費やしてしまう悪い癖があるのだ。

 前回ハマったスマホゲームは、画面をタップして魚を育成して、自分だけの水族館を作るゲームだった。その前は釣りのゲーム。旅をすれば沖縄の海で泳ぎ、漫画を読めば『ONE PEICE』で海賊と共にロマンを追いかけてきた。自分では気付いていなかったが、自分は“物凄く海が好き”なのではないか……。そういえば好きな色は青。お寿司も大好物である。そうか、そうだったのか……!!

 しかし僕はミュージシャンだ。「ゲームになんてハマってないで、曲作りでもしろ!」といつも自分を奮い立たせている。立ち止まっている場合ではない。時間の無駄遣いはせず、歌を歌い、冒険していかなければ。この原稿を書き終えたら、またせっせと可愛い人食いホウジロザメと共に大海原に旅立とうという所存である。

iStock:AndreyMakurin

 * * * *

「香川くん、今夜はパスタとワニを食べよう」

 広島県は三次市に住む友人の家に遊びに行った夜に、友人が当たり前の顔で僕に言った。

 ワニって、あのクロコダイル的な……!? そんな珍しい食材が手に入ったのかと感心していたら、どうやら違った。三次で「ワニ」といえば「サメ」のことを指すらしい。広島県中でも三次市や庄原市などの備北地域では、ワニ料理は長い歴史とともに愛されている郷土料理なのだ。

 しかし三次には、海なんて何処にもない。川にサメがいるんだろうかと思いきや、主にメジロザメや、シュモクザメ、オナガザメ等、いわゆる“人食いザメ”と呼ばれるようなバリバリの海のサメだというのである。ちなみに僕の地元は瀬戸内海に面しているが、牡蠣や海鮮料理はあってもワニ料理お目にかかったことはない。島根あたりの日本海産のサメなのだろうか。とにかく、山のど真ん中で新鮮なサメが食べられるなんて、贅沢だ。

 早速出してもらったのは「ワニのお刺身」だった。綺麗なピンク色をした刺身で、肉厚に切ってある。甘めの醤油と、おろしニンニク、おろし生姜をたっぷりと入れて付けて食べるのが地元流なんだとか。サメ肉はアンモニアが多く含まれており、臭いを打ち消すためにこうした食べ方をするらしい。

 さっそくいただいてみると、思ったよりクセもなく、すごく美味である。マグロの赤身に似た食感と、白身魚のようなあっさりとした風味もあり、ニンニクや生姜との相性も抜群だ。

 ぺろりと一皿食べてしまった。知らなかったのでバクバク食べてしまい申し訳なかったが、お値段もずいぶんするようで、ちょっとしたマグロを食べるよりも高級品だったようだ。地元では、昔からお正月やお祝い事など、特別な日にだけ食べられるご馳走なのである。つまり三次に住む友人からすると、ワニ料理は最大級のおもてなしなのだ。ありがとう! ごちそうさま!!

「子どもの頃は、ワニは大人だけが食べられる高級品で、滅多に食べれんかったんよ」

 友人は日本酒を“冷や”で飲みながら語る。初めてワニを自分で買って食べたときに「あー、俺大人になったなぁ」って実感したんだとか。同じ県内に暮らしながらまったく自分にはない価値観を持つ友人が、すごくおもしろかった。

 それにしてもワニ料理、すごく旨い。日本酒にも非常に合う。あまり全国に知られていないが、これはもっともっと、広島の名物料理として全国に宣伝するべきではなかろうか。

「ワニ~!? そんなゲテモノ……」と思ってしまったそこのあなた! 是非とも一度騙されたと思って食べてみていただきたい。比べるのもおかしいが、熊本で「馬刺し」を食べたいと思っているのなら、広島にきて「ワニの刺身」も食べてほしい。広島でしか食べられない珍味として、もっと定着しても良いのではないかと思う。辛いモノが苦手な僕からしたら、辛子蓮根の方がよっぽどハードルが高い。(※いつも辛子少なめで美味しく頂いてます!)

 しかし何故サメをワニと呼ぶのだろうか。どちらかというと、「ワニ」と言う方がなんだか美味しくなさそうだ。ネーミングでちょっと損しているのではないか。むしろ旨い料理だからこそ、あまり広まってしまわないようにわざと隠語を使って、こっそりと食べられていたのかも!? 編集さんにこの話をしたら、「昔話の『因幡の白うさぎ』に出てくる「ワニ」も、あれはサメだって言われてますよ! ウサちゃん、あんなかわいい体で、よくサメなんか騙そうとしましたよねー。やられて当然ですよねー」と教えてくれた。どうやら『古事記』にもワニが登場するらしく、どうやら日本のこのあたりの方言みたいだ。

 それにしても、自分の住む広島県内でさえこんな発見があるということは、同じように、全国各地には僕の知らない郷土料理がまだまだあるんだろう。そう思うとなんだかワクワクする。

 スマホの中のホウジロサメのように、各地の名産をバクバク捕食しながら冒険を続けていきたい。

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