今月、西日本を襲った豪雨。
広島で生まれ育った香川さんが、広島県人として、エンターテインメントを担う一人として、メッセージを送ります。

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 雨

 青々とした空と、灼熱の太陽が、アスファルトをジリジリ焦がす。遠い山の向こうには、分厚い入道雲が浮かび、それを喜ぶようにセミがしきりに鳴いている。すっかり梅雨が明けて、季節は夏になった。今年は暑くなりそうだ。
 梅雨の終わりに十分過ぎるほどの雨を降らせた台風や梅雨前線は、何処へいったのだろう。「観測史上最大」といわれた大雨は、僕が住む広島県にも大きな爪痕を残した。言うまでもないが、西日本豪雨災害の被害は、本当に甚大だ。
 幸いなことに、僕の実家や、妻と住んでいる場所は、大雨こそ降ったが、特に土砂災害や洪水などはなく、家族はみな元気である。いろんな方に心配していただき、メールや電話もたくさんもらったが、この通り無傷なので、どうか安心していただきたい。ご心配ありがとうございました。
 当時、僕は関東ツアーのため、東京のホテルにいた。凄まじい大雨のニュースを見て、警報まで出ていたし、家族が心配でしょうがなかった。僕の実家の裏にはちょっとした山があり、いつ土砂崩れを起きてもおかしくない。
 父に電話すると「大丈夫よ。うちの裏山は城山(もともと城が建っていた山)じゃけぇ」と言ってて、思い切り油断している様子だった。父曰く、城を建てる山は頑丈なんだとか。実際、崩れはしなかったが、やはり避難くらいはした方が良かったのではないか。次はもっと説得しようと思っている。
 県内では、数え切れない場所で土砂崩れが起きた。高台にある小学校では、グラウンドごと崩れたところもあったそうだ。けが人などの直接的な被害は、うちの地元にはなかったものの、大雨の猛威は凄まじいものだったようだ。
 高速道路も、中国道、山陽道ともに土砂崩れで分断され、しばらくは通行止めとなった。
 僕らは車でツアーを回っていたため、どうやって家に帰れば良いのか悩んだ。車は乗り捨て、唯一動いている新幹線に乗るべきなのかと迷っていたところ、中国道が全開通したという知らせを受けた。遠回りになるが、ちゃんと帰れる。きっと、夜通し土砂の撤去作業をしてくれた作業員の方々がいるのだ。本当に感謝である。
 写真だけ見たところでは、土石流に飲まれた道を復旧させるのには数ヶ月はかかりそうに思えた。しかし実際は、1週間でほとんどのメイン道路は開通。滞ってしまっていた物流も流れ、不足していた物資も届きはじめた。日本の復興していく力強さを、これほどまで身近で実感したことはない。
 本当に感動した。今だって、寝る間も惜しんで、作業してくれている方々いる。救助のために走り回ってくださる方がいる。多くの皆さんに頭が下がる。
 この原稿を書いている7月15日現在も、行方不明になったままの人が大勢いる。1秒でも早く1人でも多くの命が見つかってほしい。ただ祈るばかりである。

 * * * *

 我々、エンターテイメントの世界で仕事をしている人間は、災害が起きると非常に脆い。
 実際、この時期に開催が予定されていたイベントや祭りごとは、ほとんどが中止・延期となった。7月9日に予定されていた僕の「マツダスタジアム試合前国歌斉唱」も、試合ごと中止。個人的には残念という気持ちがあるが、来場者の安全が大事だし、何よりも今は、復興に全力を注ぐべきである。僕の身の回りのアーティストの中にも、ライブ会場が避難所になっていたり、演者の中に被災したメンバーがいたりで、公演中止を余儀なくされたりしていた。
 そしてこの、“やむをえない公演中止”が続くと、こんどは、公演可能な地域までもが“自粛の為に中止”となってくる。東日本大震災の際に日本中を覆った「自粛ムード」というやつである。
 賛否両論あるが、僕は、自粛反対派である。自粛したところで何が生まれるのだろう。
 被災した人を救うためにボランティア活動へ行く人のことは、もちろん素晴らしいと思うし、尊敬もしている。しかし、だからといって、行かない人が悪いわけじゃない。ボランティアに行かず、ライブを楽しむのはいけないことなのだろうか。旅行へ行くことは不謹慎なのだろうか。みんながみんなそんな風に自粛して、楽しいことを我慢することで、復興のスピードは変わるものなのだろうか。
 東日本大震災のときに、旅行会社や、老舗旅館、ライブハウス、イベンターが経営難に追われ、どんどん倒産してしまった。災害による“エンターテインメント経済”の二次被害が、このさきどこまで拡大してしまうのだろうか。
 ある所では、今年予定していた「花火大会」が、自粛のため中止になるかもしれないという噂も聞いた。花火大会を取りやめて、その予算を全額被災地に寄付するのかもしれないが、それによって、1年間準備してきた花火会社や花火職人の方の経営に、支障は出ないのだろうか。1度休んでも、また来年、何事もなかったかのように花火を打ち上げられるのものなのだろうか。
 大きな災害のあとは、何もかもが予定通りとはいかない。しかし、何もかもを「自粛」という、形のない大きなもので覆い隠して、経済そのものの循環を止めてしまうことに僕は疑問を感じている。復興に向けてできるかぎりのことをしながら、たった1度しかない今年の夏も、楽しい想い出をたくさん作りたいし、作って欲しい。地元の子ども達にも、同じ事を願う。夏祭りや、花火大会は、夏休みの子ども達にとってかけがえのない想い出になるはずだ。お金の無駄遣いなんかじゃない。むしろ、お金は回り回って、被災地にも必ず届くと信じている。
 こんなときに「笑顔になる」ことは「不謹慎」なのだろうか。僕はこんなときだからこそ、笑って乗り越えていきたい。

 1日も早い復興へ向けて、今こそ広島の魂を見せてやろうじゃないか。僕もひとりのアーティストいや、広島人として自分にできることをしたい。

 西日本豪雨災害によって亡くなられた方のご冥福と、今も避難所で暮らす被災者の皆さまが一日も早く安心できる生活に戻れますように、そして、たくさんの幸に恵まれますように、お祈りしております。

 広島は負けんけぇね!!!がんばろう!!!

2018.7.15 香川裕光

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