僕は本番前の渋谷クアトロの楽屋でどきどきしている。やなドキドキではなく、たとえば、これから好きな娘に超自信あるプレゼント(事前にその娘の好きなものをめっちゃ調べて、じっくり考えて選んだような。そういや俺20代のころ、当時好きだった女の子がパンダ好きだって言ってたから、考えすぎた結果、電源入れると目が緑色に光りだして手足バタつかせながらランバダの曲を流すパンダの珍妙なぬいぐるみをゲット、わざわざその娘を呼び出してそれ渡そうとしたんだけど当然のように地獄のような重い空気が流れてでもランバダは陽気に鳴り響き続けて汗だくになった記憶を思い出した、死にてえ)を渡す前のような。

 僕が鳴らすのは、青春パンク。いまどきそんなん流行ってねー。でもやっぱ最高なんだな、これが。俺、好きなんだ青春パンクが。いまだに銀杏の爆音で涙出るし全裸でダッシュしたくなるんだ。僕は、初期衝動を消さないことを決めた。一人になったんだもんな、ほんとに好きなことだけやって死ぬことにするわ。

 改めて、本番前のクアトロ。サウンドチェックでギターのカニ君が鬼のフレーズを弾き狂い、スタッフのみんなが「なにこの人…!?」ってなってんのを、他のメンバー全員でニヤニヤしながら見守る。サウンドチェック終わりの楽屋でドラムのタイチが、ステージ登場時に着ける手作りの内田裕也のお面をかぶって、なんかセクシーポーズやら媚を売るようなポーズやらとりまくってんのをみんなで見ながらゲラゲラ笑う。ベースのプリちゃんが本番の衣装に着替えるつってリストバンド取り出したんだけど、それが月刊少年チャンピオンの付録「武装戦線ロゴ入りリストバンド」で、まさかのそれかよ笑!つって、その素晴らしき中2マインドに喝采を送る。スタッフ楽屋からは、なんの話で盛り上がってんのか知らんけど、下品な笑い声が聞こえる。どうせ下ネタやろ。

 なんかね、浮かれてる。みんないい歳こいて、しんどいこと悲しいこといっぱい経験してるくせに、夢なんて叶わねーこと余裕で知ってるくせに、なのにどいつもこいつも、浮かれきってやがる。早くこのとんでもねー音楽をお客さんに見せたいって、性懲りもなく目きらきらさせて、そのときを心待ちにしてやがる。くっそが、これがロックンロールは鳴りやまないってことか。たまんねーな。泣けるな。美しいな。やめらんねーな。青春以外のなにものでもねーな。ただスタッフの中に女子一人もいねーけどな。なんでこうなった。

 僕らがこれから鳴らすのは、光輝く青春パンク。僕らにしか言えない言葉。僕らしか知らない悲しみ。僕らにしか見えない、あの小さな小さな、でも絶対に手放したくない、光。

 忘れらんねえよ、始めますわ。

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