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 ひとり暮らしの生活に飽きた私は、15年来の仕事仲間で男友達でもあるアイドルオタクのEさんとひょんなきっかけから実験的同居生活を始めることになりました。

 数年前からチャオベッラチンクエッティというアイドルグループに嵌まっているEさんは、ライブやイベント、グッズ、2ショットチェキ等々に全財産を注ぎ込む勢いで、これ以上嵌まるとヤバい、いったん距離を置こうと、東京を離れ沖縄の久米島に渡り、リゾートバイトに勤しんでいました。

 しかし、まさかのグループ解散発表により、解散までの残りの数ヶ月を近くで見届けたいというEさん。そこで私が一時的なルームシェアを提案したのでした。

 うちは2DKの作りで、これまでは一部屋をリビングとして使っていました。フィギュアスケートオタク(通称、スケオタ)を自認する私は、大画面のテレビとブルーレイデッキとオーディオコンポを装備し、本棚にはフィギュアスケート関連本と雑誌をずらりと並べ、好きな時に寝転んで推しの映像を鑑賞したり、推しの写真を眺めたり、推しがプログラムで使った曲を流したり……と完璧なくつろぎ仕様のリビングとなっておりました。

 あまりに快適で一度入ったらくつろぎすぎて仕事に戻れない感もありましたので、このリビングをEさんの部屋として明け渡すのがちょうどいいと思いました。

 見る頻度が高いものだけ自分の部屋に置いて、残りは泣く泣く押し入れに仕舞う私。

 ほどなくEさんが久米島から越してきました。運び込まれた段ボールから出て来るのは必要最小限の着替えと膨大な数のアイドルグッズ。CD、DVD、Tシャツ、サイリウム、2ショットチェキ、参加したバスツアーでメンバーと一緒に撮った記念写真、卓上カレンダー、そして、推しのマイクロファイバータオル…これはタオルとしては使わず飾って楽しむものだそうで、カーテンを閉めた状態の窓に洗濯バサミで留めて飾られました。

 2面に窓があって日当りのいいことが売りの部屋なのに、その窓を塞ぐかたちで推しのマイクロファイバータオルを飾って満足げなEさん。オタクって、なぜだか窓を塞ぎたがりますよね。

 これらはほんのまだ一部でこれから推しの等身大抱き枕も届くらしいです。Eさん曰く、せっかくお金を出してグッズを買っているのだから少しでも目に触れる場所に置いておきたい、推しのグッズに囲まれて過ごしたいというオタク心理があるらしく、部屋はみるみるアイドルグッズに囲まれた空間となっていきました。

 そうして私のスケオタ部屋は、1日ですっかりアイドルオタ部屋と様変わりしたのでした。これは、この先アイドルオタクの部屋が舞台の脚本を書く時の参考になるぞとすかさず写メる私。

 そうやって始まったスケオタとアイドルオタの実験的同居生活ですが、お互いオタクの気持ちはわかるので、オタクライフを尊重し合えます。

 推しのライブへ通うEさんと、推しのアイスショーへ通う私。帰ってきたらそれぞれの推しがいかに素晴しいかということを語り合うも、それぞれ相手の話は聞いておらず、満足して眠くなったら各々の部屋で眠る。

 ひとり暮らしに慣れ過ぎた私には、こういう人との生活が新鮮で楽しく感じられました。

 ところでEさんは几帳面なタイプで、こまめに掃除もするし、進んでゴミ捨てもしてくれるし、同居人としては言うことなしでした。

 それに、壊れたまま何年も放置していた網戸を直してくれたり、洗濯機の裏に落ちてずっと取れなかったものを洗濯機を移動して取ってくれたりと、男手がいると助かるわ〜と実感できたりもしました。

 遡ること15年前、撮影の買い出しでEさんが運転する車で大型スーパーに行った時、私のプライベートの買い物にもニコニコ付き合い、重い荷物もサッと運んでくれるEさんに、こういう人と結婚したほうが幸せなのではないだろうか?と思ったこともあったのでした。

 しかし若い私は、人の買い物には1秒たりとも付き合えない、1秒でも待つとイライラする、重い荷物は持たない彼氏のことが好きなのでした。
 そしてその後も、生活にだらしないか、女にだらしない男と主に付き合ってきて今に至ります。

 しかしここへ来て、Eさんみたいなタイプの男との色恋関係ない同居生活というのは、家でおならが自由にできないこと以外はそんなに苦になることはなく、生活のパートナーとしては、もしかしてEさんみたいなタイプがちょうどいいのでは?と、自分の中で新しい扉が開いたような気もしてきたのでした。

 ひとり暮らしの中で常に脳裏をよぎる“孤独死”という不安も、Eさんと暮らしていたら解消されるのではないかと、そんなところまで一気に希望が膨らんだのでした。

 そして、同居生活を始めて2週間ほど経ったある日、Eさんが言いました。
「今日不動産屋行って、いい部屋見つけたから、来週引っ越します」

 え!いったい何が起こったんすか…!?

 聞いてみるとEさん曰く、「部屋を作っていく中で…間借りしている状態だと、どうしても(オタ)部屋を完成に近づける意欲が削がれてきて、それが新しい部屋を借りる意欲に繋がった。ライブから帰ってきたらすぐにYouTubeを立ち上げて好きなPVを流しながら着替えたいし、生活全てのBGMにPVを流したい。8月2日の解散まで、残された時間を身も心も環境も完璧な状態でチャオベラに捧げたい!」とのこと。

 なるほど…。

 私もかなりのスケオタの自覚があったのですが、さすがに生活全てのBGMに推しの映像を流すとか、部屋じゅう推しに囲まれて生活したいとかまでは思ったことなかったし、それについ最近推しのスケーターにまた引退宣言をされてショックを受けたところですが、推しが引退するまでの数ヶ月を、身も心も環境も完璧な状態で捧げたい!とまでは思いませんでした。

 負けた…!
 アイドルオタク、侮るべからず。

 謎の敗北感に打ち拉がれると同時に、オタクとして完成しすぎると他者を必要としなくなるのだなあ、それってどうなんだろう?でもそういう幸せのかたちもあってもいいよなと、しみじみと思うのでした。

 そうして私は再び、猫のびーちゃんと亀のカメキチとの同居生活に戻ることになりました。

 それでも私は、人間との関わりを諦めません。これからもどんどん関わっていきたいと思っています。

 ちなみに私はEさんを男として意識することはありませんでしたが、オス猫のびーちゃんは、Eさんをしっかりオスとして認識し、何か変な種類のオスがおれの縄張りを脅かしに来たぞ!と言わんばかりに、Eさんを陰で威嚇していたそうです。びーちゃん、侮るべからず。

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