若い頃から中島みゆきが好きだった。それも初期の中島みゆき、ギター一本抱えて暗い感じで女の哀しさを歌っているようなやつが。

 僕が若者だった90年代後半でも既に、中島みゆきはそんなに若者が聴くものじゃないという感じはあって、「若いのにそんな古くて暗いの聴いてるの(笑)」みたいに見られることがあったけど、「わかってないな、これがいいんだよ」とか思っていた。

 それから20年ほど経って、まだ僕は同じように中島みゆきを聴き続けている。これだけずっと聴いてるのならもう死ぬまで聴き続けているんじゃないだろうかと思う。

 そのこと自体はいいんだけど、気になるのは、同じことを続けているにもかかわらず、周りからどう見られるかが変わってしまっているということだ。昔は中島みゆきを聴くことで、「若者なのに渋いものを聴いてる」という風に自分をちょっと特別視できる部分があった。だけど今となっては「単におっさんがおっさんぽい音楽を聴いているだけ」と見られてしまうのだ。「いや、この中島みゆきのアルバムは僕が生まれる前に出たものだし、それをわざわざ遡って聴いてるんだ」とか言い訳をしても、今の若者から見たらどうでもいいことだろう。

 他にも、90年代には周りの音楽好きな人が60年代や70年代くらいの音楽、例えばはっぴいえんどとかヴェルヴェット・アンダーグラウンドとかを聴いていたので、自分も聴くようになって今でも聴いているのだけど、それも今の若者から見るとただのおっさん趣味に過ぎないだろう。今の若い人たちにとっては70年代も90年代も等しくおっさんカルチャーに過ぎないのだ。

 普段インターネット繋がりで人と会っているせいか、自分の周りには20代くらいの若者が多い。僕はもうすぐ40歳になるので、自分が若者でないということをいい加減認めなければいけない、と思う。だけど、若者たちに、新しいものについていけない老害だと思われたくない、年齢のわりに若いと思われていたい、という気持ちがあって、若者がいる場面ではいつも聴いている中島みゆきを止めて、なんかお洒落なヒップホップとかを無理して流してしまう自分がいる。

 もっと今風のものを吸収して今の流れについていかないといけない。ラインですら最近まで使っていなかったのだけど(電話番号に紐付いているのと一台のスマホにしかインストールできないのが不自由で嫌いだった)、みんな使うので仕方なく使うようになった。使ってみるとやっぱり便利なものだと思う。だけど、若者とラインをするとき、どんなスタンプを使ったらいいのかがわからない。何が今の流行りなんだろう。おっさんぽくないと思われるにはどうしたらいいのか。いらすとやを使っておけばいいんだろうか。

 顔文字とかも、自分は10年以上前の2ちゃんねる時代の顔文字くらいしか入力できないのだけど、若者からはときどき、泣いてるか笑ってるかもわからない、どこの国の文字なのかもわからない異常に複雑な顔文字が送られてきて、それを見ると自分が時代遅れであるような気がしてきてしまう。こんなのどうやって入力するかもわからない……。

 メッセージの中で「わらい」を表現するやりかた一つとっても、「(笑)」の人と「笑」の人と「w」の人とがいて、どれが一番適切なのかわからない。こないだネットで読んだ漫画では、「w」を使っていた人が「単芝やめろ!」とディスられていたので使うのをやめようと思ったのだけど、「(笑)」は古い感じがすると言う人もいるし、かっこ抜きの「笑」は中年ぽいという人もいるし、もう何を使ったらいいのかわからない。若者はみんな「わらい」を使わず文章に柔らかさを付与するテクニックを身につけているのだろうか。

 しかしやはり年をとると新しいものを吸収するスピードが落ちてくるなと思う。インスタはギリギリわかるけどインスタのストーリーとなるとついていけてない。ユーチューバーもあまり分かっていないうちにバーチャルユーチューバーが流行りつつある。ネットを見ているとどんどん新しいアプリや流行が登場してきてついていけなくて、もう時代は自分たちのものじゃないんだなということを実感させられる。

 思えば若い頃は、理由もなく自分が世界の中心なような気がしていた。なんて傲慢だったのだろうと思うけれど、でも若さというのはそういうものなのだろう。もう若くなくなってしまったこれからは、できるだけ若者の邪魔にならないようにひっそりと生きていこうと思う。何千回も聴いた中島みゆきのアルバムをリピート再生しながら。

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pha『ひきこもらない』

家を出て街に遊ぶ。
お金と仕事と家族がなくても、人生は続く。
東京のすみっこに猫2匹と住まう京大卒、元ニートの生き方。

世間で普通とされる暮らし方にうまく嵌まれない。
例えば会社に勤めること、家族を持つこと、近所、親戚付き合いをこなすこと。同じ家に何年も住み続けること。メールや郵便を溜めこまずに処理すること。特定のパートナーと何年も関係を続けること。
睡眠薬なしで毎晩同じ時間に眠って毎朝同じ時間に起きること。
だから既存の生き方や暮らし方は参考にならない。誰も知らない新しいやり方を探さないといけない。自分がその時いる場所によって考えることは変わるから、もっといろんな場所に行っていろんなものを見ないといけない。