ヘイトサイトに自社広告が!

 2016年9月、AbemaTVに開設されていた桜井誠・在特会前会長による排外主義的な言説が際立つ動画番組に、「スポンサー」として家庭用品メーカー・ユニリーバのブランド広告が流れるという出来事があった。番組を見ていた視聴者から同社に対して問い合わせがあり、釈明に追われるまでに発展し、ニュースになった。

 

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ユニリーバ・ジャパンによる動画サイトのスポンサーについての釈明

 

 ユニリーバは、排外主義的な言説にはまったく賛同しておらず、みずからスポンサーを買って出たわけではなかった。それどころか、Abema TVとは直接の広告取引は行っておらず、まったくあずかり知らぬところで勝手に同番組に広告が表示されてしまったようだ。

 これは、AbemaTVが契約している広告代理店の動画広告のネットワークから、自動的に広告が配信されてしまったことによる現象だ。自動配信広告は、「30代女性」「20代男性」など、その動画の閲覧者の属性によって機械的に“最適”な広告が選ばれて表示されるようになっている。排外主義的な動画番組を見ている人々の属性と、ユニリーバの商品を買う顧客の属性がたまたまリンクしてしまったのだ。

 朴順梨・北原みのり著『奥さまは愛国』(2014年・河出書房新社)に詳しく描かれているが、在特会などの愛国ヘイト活動家には、実は「普通の主婦」が大勢いるという。家事の合間にSNSに没頭し、前回お届けした時間に余裕ができたがためにネトウヨになってしまった定年前の男性のように、リテラシー能力のないままネットの極右言論に出会うなどし、「愛国思想」にはまってしまうようだ。

 ユニリーバは、シャンプーや家庭用洗剤、ボディソープなどのブランドを持つ企業。「普通の主婦」という属性が一致してしまい、機械的に広告が配信された可能性がある。

 しかし、ヘイト番組に広告が出稿されるなど、大企業としてとてつもない恥だし、イメージの毀損にしかならない。ユニリーバは、同番組をはじめとし、政治的な番組への広告配信をしないよう、広告代理店に求めたと発表している。

 この手の出来事は枚挙にいとまがない。最近では、このような大企業からのクレーム(ネットユーザーから企業への通報が発端になる場合もあるようだ)によって、ヘイトスピーチや差別を助長するサイトには広告が配信されないような動きが進みつつある。

 

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まとめサイト「保守速報」は、現在広告配信が停止されている状態

 

 ネトウヨ御用達サイトのひとつとして知られ、差別的な表現にあふれていたまとめサイト「保守速報」は、2018年1月時点では、トップページの上部に設置されたバナー広告枠に、自動的にいろいろな企業の広告が配信されていたが、現在は配信が停止されて白枠になっている。

「保守速報」は、在日朝鮮人のフリーライター李信恵さんに対して「朝鮮の工作員」「頭おかしい」「日本から叩き出せ」などの言葉が羅列された45本の記事を掲載したとして、李さんから2200万円の損害賠償を求める訴訟を起こされ、話題になっていた。

 2017年11月16日、大阪地裁は、憲法13条に由来する人格権を侵害したと結論づけ、サイトを運営する男性に対して200万円の支払いを命じる判決を言い渡した。控訴されたが、2018年6月28日、大阪高裁は損害賠償200万円を命じる地裁判決を支持、控訴は棄却された。

 しかし、海外サイトとなると、事情がまた違う。

 たとえば、トランプ大統領の元側近で「影の大統領」と言われた元主席戦略官、スティーブン・バノン氏が会長をつとめた有名な極右排外主義サイト「ブライトバート・ニュース・ネットワーク」を覗いてみると……。

 

 

 テキサスで発見された移民の遺体写真が多数紹介された記事に、印刷業者やアーティストの広告が表示されてしまっている(2018年7月10日現在)。

 自社サイトのPV数さえ伸びればよいと、数字で割り切っているならばどこに広告を出そうが自由なのだが、死体写真と並んでいては、消費者としては決して良いイメージは持たない。

 しかも、多くの企業は、自社広告がどこでどのように表示されているのかを把握していない。2017年末までは、この極右排外主義サイトに、トヨタ自動車、日本航空、村田製作所、キヤノンなど日本の大企業の広告が表示されていた。外部から指摘されて出稿を取り下げたようだが、「指摘を受けるまで気づかなかった」(トヨタ)という。

 また、過激派組織の資金源としてネット広告が使われていると、メディアが大きくとりあげたこともある。これは昨年、英タイムズ紙で紹介されたものだ。

 

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英タイムズ紙2017年2月9日の記事”How adbvertisers end up on extremist websites”より

 

 画像左上は、イスラム国の宣伝動画にメルセデスベンツの広告が表示されていたもの。ほかにも過激派サイトに有名ブランドの広告が出るなどしていた。

 記事によると、Youtube動画に表示される広告では、動画が1000回再生されるたびに7.6ドルの広告収入が発生し、この仕組みによって過激派組織が何万ポンドもの資金を得ていたという。

 イスラム国などが、一時期世界中を震撼させる過激な殺人映像を多数公開していたが、ああいったものは、人々に恐怖を与え、組織を誇示し、同志を募ることが目的でありながら、世界中の人々が驚愕して動画を再生しまくることによって得られる“巨額の広告料”がなによりも重要な目的だったのだろうと、今は思う。

 こういった現象から、広告を引き上げる企業が相次ぎ、Youtubeは対策に乗り出しはじめているが、日本でもこういった無尽蔵なPV数至上主義の広告について、もっと問題意識を高めるべきだろう。

 ヘイトやフェイクの温床として、資金源になり、大きく育て上げているのは、ネット広告の仕組みによって、責任をとらずにカネだけ儲けている広告代理店のモラルの欠如だとも言える。

 広告代理店は、出稿先のサイトについて信用格付けを行ったり、せめて、ヘイト・フェイク判定を行ってブラックリストを強化し、共有する仕組みがあっても良いのではないかと思う。

 問題が起きても、矢面に立つのは広告を出した企業であって、儲かっているはずの広告代理店が社会から批判されたり謝罪に追い込まれることはないというのが実情だ。

 

※この連載は、毎月11日、26日更新予定です。

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