10日間ほど休みがとれたので、車でひとり、三陸の旅に出ることにしました。
 宮城県や岩手県の海岸沿いには、まだいったことのない街があります。
 これまで訪れた三陸の街は、海は美しく、食べ物はおいしく、人はほがらかでたくましくてユニーク。どこも大好きになりました。まだまだおもしろいことがある予感。
 方向音痴の私にとって、国道45号線という強い味方もあります。仙台から八戸まで、海岸沿いにずっとつながっている一本道。ここさえ走っていれば迷うことはないので安心です。

 相棒は、まっきいろのミツバチみたいな軽自動車。四駆で細い山道もぐいぐい走り、フルフラットにしてねっころぶこともできる、ちっこいけれど頼れるヤツです。宿はとったけれど、何かあったらと念のために寝袋やピクニックセットも積み込んで、いざ、出発。ブーン。

 最初の目的地は、気仙沼です。
 まずはどこにいこうかなと地図をなぞっていたら、「ん。」と指が止まった場所。サンマ、サメ、サンドウィッチマン……。個性的で元気なイメージがあります。よし、いってみよう、と、下調べもそこそこに宿だけおさえました。

 東京からブーンブーンと約6時間。
 運転の疲れを考えて、初日の予定は移動のみにしました。ゲストハウス「架け橋」にチェックイン。
 ここは、ボランティアをきっかけに移住したみなさんが、気仙沼を「第二の故郷にしよう」とつくったゲストハウスです。民家を改修し、昼は絵本カフェ、夜は居酒屋にもなります。移住者と旅人と地域の方々をむすぶ、まさに架け橋。
 泊まるお部屋は、男女別のドミトリー。カーテン付きの2段ベッドに、自分でシーツを敷いて枕カバーをかけて、夕食までしばし休息。ふー。

 土曜のこの日は、掘りごたつのある広い居間が、居酒屋になります。
 近所に住むおじいちゃん軍団、地元の青年たち、東京からやってきた20代の男の子3人組、気仙沼に移住した外国人の青年らが、わらわらと集まってきました。多いときは30人にもなるのだとか。
 近所のおじいちゃん軍団は、ゲストハウスをつくるのを手伝ったそうです。お酒と気仙沼弁があわさって、半分くらいは外国語を聞いているうような気分ですが、ごきげんなのはわかります。

 私は地元の青年たちから「明日なにを食べるべきか」を聞き込み。

 旬はなんといってもホヤだな。海のパイナップル、ホヤ。気仙沼はサンマやサメのイメージが強いけれど、実はカツオの水揚げ日本一。震災の年だって一番だったんだよ。「気仙沼ホルモン」も食べてほしいなぁ。今しか食べられない珍しいものといえば「モウカノホシ」。あはは、なんだか全然わかんないでしょう。モウカザメの心臓のこと。それを生で食べるの。昔は酢味噌で食べていたけど、最近の流行りは、ごま油と塩で。レバ刺しにそっくりでうまいよー。

 やっぱり地元の人に聞くにかぎるわ! と興奮しながらメモしていたのに、最終的な結論は、「明日は日曜で、ほとんどの店は休みだけど!」。がびーん。

 若者たちはまだまだ盛り上がるなか、私はおじいちゃん軍団とともに撤退。大家族で育ったせいか、ホテルよりも、ちょっと騒がしいくらいの方がよく眠れます。朝までぐっすり。

 翌日は、朝から気仙沼駅にある観光案内所へいき、「はじめて気仙沼に来たんですが、どこにいけばいいでしょう」というざっくりした質問を。
 観光地をいろいろと教えてもらってから、震災時のお話も伺いました。
 気仙沼は、津波のあと重油が海に流れ出し、三日三晩燃え続けました。その女性の家は、高台にあって無事だったのですが、爆音と爆風で家がずっと揺れていたそうです。
 娘さんとふたり、停電で真っ暗な夜をすごしました。「女の人はとにかくライトが大事よ!」。暗いのが心細くて、怖くて、とても危険だったそうです。それから「乾電池はすぐなくなる!」。はいっ、ストックします、友達に伝えます。

 いってらっしゃーい! と送り出してもらい、港方面へ。
 お話をたくさん聞いてガイドマップももらったので、まずは計画を練ろうと、通りすがりにあったカフェに入りました。そしたらそこはなんと、渡辺謙さんがつくったお店「 K-port 」。
 カウンターには、直筆のメッセージが。ハズキルーペをかけなくても読める立派な文字です。世界のKEN WATANABEが愛飲という玄米茶をありがたくいただきながら、じゃらん熟読。

 午前中は、港まわりをぷらりとすることに。
「海の市」には、お土産やさんやレストランや観光案内所、サメと気仙沼について学べる「シャークミュージアム」もあり、たっぷり楽しめます。
 近くにある漁師のコンビニ「酒のサイシン」は、長期間海に出る漁師さんのためのお店。お酒や食料品のほか、衣類や手袋やギョサンなど、個性的な品揃えです。目を惹かれたのは、赤や黄色のゴム長靴。ふつうにかわいいとはこのことだ。迷って迷って買わなかったけれど、ちょっと後悔しています。

 午後は、気仙沼の地形が見渡せる「安波山(あんばさん)」に登りました。
 五合目までは車でいけて、そこから山頂までは歩いて20分ほど。この山、短いルートなのに、見どころが満載なのです。
 登り口にいる二匹の龍は、よく見ると貝殻やタイルやお茶碗のカケラで装飾されています。全国グッドトイレ10にも選ばれたという海の見えるトイレ。星の形のテラス。全国の都道府県から送られた木々。その木にゆかりの歌碑。山頂には、遠洋漁業のお父さんたちが世界各地から持ち帰ったお宝が。
 ね。おなかいっぱいでしょう。安波山が地元のみなさんに愛されていることがひしひしと伝わってきました。

 本日の宿泊も気仙沼。夜を楽しもうと繁華街のビジネスホテルをとったのに、もののみごとに日曜休み。飲食街、しーん。モウカノホシもマボロシにおわりました。
 今度は日曜以外にきて、思うぞんぶん飲み歩きたいと思います。

*きょうのごはん* 回転寿司にて。サンマのつみれ汁、生カツオ、ブリ、海老三昧。好きなものだけぴぴっとさくっと。

*きょうの昭和* 観光案内所で「海の子ホヤぼーや」のおみくじをひかせてもらいました。大吉のなかでも「気持ちの良い大吉」。やったね。

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山田マチ『ひとり暮しの手帖』

これは、ひとり暮しの山田の手帖です。

実家をはなれて、およそ20年。
これまでも、きっとこれからも、ひとり暮し。
ここには、ひとり暮しのいろいろなことを書きつけます。
このなかのどれかひとつくらいは、あなたの心に届くかもしれない。
いや、ぜんぜん届かないかもしれない。
そんなふうな、
これは、ひとり暮しの山田の手帖です。