みんなどんなツラをして推しを見ている?

大体が見合い写真や遺影には使わないほうがいい顔をしていると思うが、そのすべてが「幸せの絶頂」という表情をしているわけではない。

中には、まるで目の前で動物が解体されているかの如き渋い表情で成り行きを見守っているものさえいる。

心配なのだ、推しのことが。

私は、幼少期よりオタ活は二次元キメ打ちで、三次元の推しがいたことはないが、二次元と三次元には両者良い点もあれば悪い点もある。

三次元の辛いところは、実在しているだけにガチ恋した時キツイとか、引退、解散、熱愛、結婚ならまだしも、クスリ他でお縄になることすらある、という点だろうか。
もちろん二次元でもそういう展開がないことはないが、さすがにイケメンキャラが淫行でパクられる、というのは、作者の方がおクスリをやっていない限りはない。

逆に私が三次元を羨ましく思うのは「ライブ中突然死なない」と言う点である。
前に「壇上で結婚宣言」というそれに匹敵する惨劇が起ったことは記憶に新しいが、それでも未だに「ライブ中、突然乱入してきた巨人に推しが食われた」というような事件は起こっていないはずだ。

二次元では、推しが不倫してたなど、しょっぱい現実は起りにくいが、逆に「どんな非現実なことが推しに起こってもおかしくない」のである。

マンガ版デビルマンのミキちゃんが推しだったという御仁もいらっしゃることだろう、その心情は察するにあまりある。
では、そんな人が死ぬような陰惨な世界観のキャラクターじゃなければ大丈夫、かというとそうでもない。
「屈辱的な扱い」というのもある。
恋愛漫画では、本命とどうにも上手くいかない主人公が、とりあえず自分に好意をよせてくれているキャラとつきあうという展開がよくあるが、その「とりあえず」が推しということだってあるのである。
三次元なら、ライブ中推しがメンバーに「お前のマイクねーから!」をやられた、などということはないだろう。

もうすでに、原作を履修済のアニメなら先の展開がわかっているが安心かと言うとそれも甘い。
「推しがまさかのカット」という事態もあるのだ。
つまり、推しを見ている時、否、まだ出ていなくても出番があるとわかっている時は一瞬たりとも気が抜けない。

よって私は、目の前で親のセックスが展開されているが如き顔で「Fate/Grand Order」の新イベント「ぐだぐだ帝都聖杯奇譚」を始めた次第である。

このイベントに私の最推しキャラ「土方歳三」が出ることは事前情報でわかっている、しかし「どんな形で出てくるか」はわからない。
もしかして敵として出てくるかもしれない、だがそれでも「カッコ悪く描かれている時空が存在しない」でおなじみの土方歳三だ、そんなに無下な描写はされないだろう。

よって一番危惧するとしたら「感想も言えないほど出番が少ない」だ。
推しが尊すぎて死ぬ準備など最初から出来ている、故に「死ねない」のが一番堪える。この日のためにあつらえた白装束もパジャマにするしかない。

それに、推しが少しでも死んだり、負けたり、ダサい扱いを受けるのが許せない、などと言ったら、非の打ちどころのない完璧キャラしか愛せない、ということになってしまう、だがそんなキャラが果たして魅力的だろうか。
あの日本を抱いた男、コナンの安室透さんだって、赤井秀一氏のことになるとちょっとトチ狂うところがあると言うではないか、それが欠点かと言うと「だが、それがいい」だったりするだろう。

推しに何が起ろうと「それ込みで愛する」か、どうしても受け入れ難い時は「それは目をつぶる」「脳内補完でなんとかする」が出来なければ「己の意にそぐわない展開は全部許せない」ということになってしまう。そうなるともうお他人様が作った話など嗜むことが出来ない。

これは推しだけではない、リアル人づきあいだって自分の理想を押し付けると上手くいかない。

よって私はこの「ぐだぐだ帝都聖杯奇譚」で土方さんがどう書かれようと、スロー再生が必要なほど出番が一瞬だろうが「それ込み」で行く、と心に誓った。

以上がイベント前に書いた私の遺書である。
今は新しくあつらえた白装束をまとい、棺桶の中でほほ笑んでいる。

「ぐだぐだ帝都聖杯奇譚」の土方さんは「全く非の打ちどころがなかった」

 

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