お母さんのことが好きだ。

 ミュージシャンになって、音楽雑誌に自分の幼い頃の写真を載せてもらうことになったとき。ちょうどライブかなんかで実家に帰るタイミングがあったから、お母さんにおすすめの一枚を昔のアルバムから選んでもらうことにした。お母さんは、まだ2歳ぐらいの僕をお母さんが抱きかかえている写真を選んでくれた。そして写真を見つめながら、小さい声でこうつぶやいた。かわいい、って。

 僕が高校受験で、志望校を決めるのに悩んでいたとき。僕は中学の頃、スクールカーストでいう2軍に所属していて、そのことに強烈なコンプレックスを持っていた(それはいまだに消えないけれど)。だから高校は、中学生同士の中でイケてる、と言われているちょっと不良な学校に行きたくて。でもお母さんは、今の学力で狙える限界のところに行きなさい、と言って聞かなかった。僕とお母さんは毎晩大げんかしていた。そしてある夜、僕は一番言ってはいけないことをお母さんに言ってしまった。あまりに愚かで、おぞましいから、ここでは書けない。お母さんは泣いた。お父さんが多分初めて、僕のことをすさまじい声で怒鳴りつけた。僕も泣いた。思い出すだけで、悲しくなる。お母さん、あの時はごめん。大好きだよ。

 中学の頃かな。お母さんが夕食に、鉄火丼を作ってくれた。初めて作ってくれた料理で、お母さんは自信があるみたいだった。でもなんでか分からない、その時はおいしいと思えなくて、今思い返すと自分を死ぬほどぶん殴ってやりたいんだけど、不味いんだよ!とか言って、残して。なんか食卓が変な空気になって、お父さんもお兄ちゃんも鉄火丼を残してしまって。その後僕は部屋に戻って、しばらくたって、なんとなく食卓に戻ってみたら、お母さんが一人で残った鉄火丼を食べていて。おいしいと思うんだけどな、なんて寂しく言わせてしまって。あのときの自分を許せない。あのとき僕が犯した罪は一生消えない。お母さん、ごめんね。今ほんとにあのときの鉄火丼が食べたい。今度帰ったときに作ってね。

 これも中学の頃か。学習塾から帰ったのは午後10時ぐらい。お母さんは食卓でひとり、ぽつんと座って待っていてくれた。お母さんは、冷えてしまったご飯をあっためなおしてくれて、僕がそれを食べて。お母さんは隣に座って、ずっと僕を眺めていた。食卓には、静かな時間が流れていた。お母さん、いま俺、東京でいっつも独りでメシ食ってるじゃんか。あのときどんだけ幸せだったんだろうって、今さらながら思ってるんだよ。

 この1年ぐらい、たまーにあること。自分の人生がわけ分かんなくなって、毎日が退屈で悲しくて希望なんてどこにも見つけらんなくなって、ああ、どうせいつか死ぬんだから、今日終わらせてもいいんじゃないか、なんて馬鹿げた妄想をするときがある。まれにだよ、まれに。でもその後すぐに、そんなことしたら、お母さんが泣いちゃうな、って思うんだ。それは、絶対にいやだ。そんなんなったら、僕は耐えられない。だから僕は生きようって思う。いや、いま俺超元気よ!ほんとたまーにだから。まじです。どうか心配しないでね。

 長生きしてね。いつも笑っていてね。僕の曲をずっと褒めてね。何度でも何度でも、ライブを観に来てね。大好きです。

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