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古い常識と新しい常識が混在する時代の違和感を集め、分析した文庫『モヤモヤするあの人~常識と非常識のあいだ~』が好評です。発売を記念した書き下ろしモヤモヤ第2弾をお届けします。

定義が曖昧な「雰囲気イケメン」という言葉

世の中には漠然とした定義のまま流通し、定着してしまった言葉がある。「雰囲気イケメン」が、その最たる例だ。

雰囲気イケメンという言葉がいつ頃から定着したのかは寡聞にして知らないが、必ずしもイケメンだとは言えないのに、全体的な雰囲気やオーラを含めてカッコイイとされる男性のことを「雰囲気イケメン」と称することに一応はなっている。しかし、その定義は曖昧で、人によってどういう男性のことを雰囲気イケメンと称するかは、バラバラである。

時には、「そうか?」と首をかしげる男性が雰囲気イケメンとされていたり、「俺は雰囲気イケメンだからさ」と根拠を示さずに自称されていたり。雰囲気イケメンという言葉は漠然と、そして恣意的に使用され、その実態が明確にされないまま日常生活に浸透している。

雰囲気イケメンとは、いったいどんな男性たちなのか。以前からその言葉にモヤモヤしていた筆者は今回、その実態を明らかにすべく、女性を対象にウェブアンケートや周辺取材を実施した。世の女性たちが抱く雰囲気イケメンのイメージや、彼らに惹かれる理由を探っていこう。

塩顔、ふわふわヘア…… 雰囲気イケメンの特徴

まず、女性たちから聞き取った、雰囲気イケメンのイメージを列挙していこう

・ 体育会系より文化系
・ 濃い顔より薄い塩顔
・ 日焼け肌より色白
・ 背が高く痩せている(猫背の場合も)
・ お喋りより物静か(女性にがっついていない)
・ 柔軟剤などのいい匂いがする
・ 服はモノトーン中心で過剰にお洒落すぎない(ゆるめの服も似合う)
・ 髪の毛はふわふわかマッシュルーム
・ バンドをやりがち

どうだろうか。なんとなくわかったような気もするが、まだいまいち納得感が足りない。

髪型に関しては、「フワフワかマッシュルームにして、顔がイケメンでないことを誤魔化している」(20代)という意見があった。確かに、前髪で目が隠れている印象もある。

さらに、「クシャクシャな量の多い髪の毛で、モシャっとしている」(30代)という擬音だらけでイメージが掴みにくい回答もあった。こうしたぼんやりした意見が出るのも、雰囲気イケメンが定義しにくい概念だからこそである。おそらく、彼女はいくえみ綾の漫画に出てくる男性たち(いくえみ男子)のようなタイプを指しているのだろうか。

一方で、「横向きのときの、喉仏のラインがきれいだったり、手元のゴツゴツ感がいい塩梅だったりと、顔以外のどこかにイケメンパーツがある」(30代)という声も寄せられている。なるほど、イケメンというと顔のことばかり考えてしまいがちだが、女性たちは他のパーツにも“イケメン”を見出しているということだろう。この場合も、必ずしも顔がイケメンだというわけではないので、雰囲気イケメンということになりそうだ。

雰囲気イケメンの流行を作った? 「バンプの藤くん」

次に、「雰囲気イケメンを、芸能人で例えるなら?」と質問したところ、星野源、坂口健太郎、川谷絵音、綾野剛、松田龍平、竹内涼真など、いま旬の塩顔男子たちがずらっと並んだ。

ゲスの極み乙女。の川谷絵音については、「少し頼りなさげなところが、優しい女性はハマりやすいと思う」(30代)という意見があった。わからなくもない。確かに、デートをテキパキと仕切って、女性をリードするようなイメージは雰囲気イケメンにはない。性格も、いわゆる「正統派イケメン」とは違う、別の魅力を持ち合わせているのが彼らの特徴と言える。

評価が分かれたのは、今、飛ぶ鳥を落とす勢いの菅田将暉だ。「菅田将暉は、普通にイケメン」「雰囲気イケメンというより、雰囲気のあるイケメンだと思う」「お洒落すぎて、雰囲気イケメンとは言えない」という声が挙がった一方、「よく見ると特徴的な顔をしていて正統派イケメンだとは言えないので、雰囲気イケメン」(40代)との意見もあった。

さらに、ある30代の女性は、筆者の取材に対して、こう熱く語った。

「私が雰囲気イケメンと聞いて真っ先に思い出すのが、バンプ(BUMP OF CHICKEN)の藤くん(藤原基央)です。バンプの藤くんこそ、雰囲気イケメンのフォーマットを作った先駆者であり、バンプの藤くんによって、バンドマンに雰囲気イケメン的なテイストが広く流行したのではないかと私は睨んでいます。藤くんこそ、元祖・雰囲気イケメン!」

この話を聞いて今一度「バンプの藤くん」を画像検索してみたが、まさしく雰囲気イケメンの王道(この言葉自体が、矛盾をはらんでいるが)だと言える見た目をしている。

言われてみれば、それまでのロックスターは、B'z の稲葉浩志やMr.Childrenの桜井和寿など、正統派イケメンと呼べるルックスが多かったが、バンプ以降のバンドには、RADWIMPS、クリープハイプ、フジファブリックなど、雰囲気イケメンの要素が入ったバンドマンたちが多くなってきた印象はある(彼らのファンに怒られないために一応付け加えておくが、彼らを正統派イケメンだとする意見も当然ある。評価は人それぞれだ)

見過ごすことができない「高橋一生問題」とは?

そして取材を進めるうちに、雰囲気イケメンという言葉を巡る、ある一面が浮かび上がってきた。それは、俗に「高橋一生問題」とも呼べる女性の心理と深く関係している。

高橋一生といえば、映画「シン・ゴジラ」やドラマ「カルテット」などで評価を高め、今はCMにも引っ張りだこの売れっ子俳優だ。しかし、彼を正統派イケメンと扱うことにかんして、異議を唱える女性が続出しているのである。いったい、どういうことなのか。

「高橋一生はイケメンだけど、イケメンぽくないところがよかった。ちょっと抜けているところがあるし、雰囲気も独特。私服がダサいなんてところも、可愛げがあります。なのに、メディアでイケメンとして扱われはじめて、すごく違和感があるんです」(30代)

「高橋一生は、最近イケメン扱いされているけど、雰囲気イケメンは揶揄ではない、才能だよ、と説明するのに最適なので、イケメン枠に入ってほしくない。女性は必ずしもイケメンを求めてるのではなく、雰囲気でも結構満足してるということも彼で説明がつく」(40代)

男性にしたって、女性に対して完璧な美しさや性格を求めているわけではない。AKB48がその不完全さゆえに、熱狂的に応援してくれるファンを多く獲得しているという指摘は、すでに各方面の論者からなされている。

それと同じで、女性も男性に対して、完璧なイケメン性を求めているというわけではないのだ。メディアは人気者が現れると、すぐにイケメンとして持て囃すが、本当にそれがファンの求めていることなのか。そうしたファンたちが抱く違和感の隙間に、雰囲気イケメンという概念が立ち現れてくる。

「女子って、相手が正統派イケメンじゃないと、なんか『私だけが彼の良さをわかってるんだ』みたいな気持ちになれるんですよね。メジャーなものよりインディーズやコアなものに惹かれる、サブカル系女子の思考回路にもうまい具合に響いてきます」(30代)

教室の片隅にいる、スクールカーストは決して高くないけど、よく観察するとかっこよく見えてくる男の子。そんな存在に、女性は「私だけがわかっている」「私が発見した」といったような特別な感情を抱くのだろうか。そうした感情の受け皿として、雰囲気イケメンという言葉が存在するのかもしれない。

取材を重ねるにつれて、徐々に明確になってきた雰囲気イケメンの概念。しかし、具体像にかんしてはまだまだ考察の余地があり、さらに時代によってもその定義が変化する可能性もある。

あなたは、雰囲気イケメンについて、どのようなイメージを抱いているだろうか。この記事をきっかけにして、より議論が深まることを望みたい。

……さらなるモヤモヤは、『モヤモヤするあの人』をご覧ください。……

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宮崎智之『モヤモヤするあの人 常識と非常識のあいだ』

どうにもしっくりこない人がいる。スーツ姿にリュックで出社するあの人、職場でノンアルコールビールを飲むあの人、恋人を「相方」と呼ぶあの人、休日に仕事メールを送ってくるあの人、彼氏じゃないのに“彼氏面”するあの人……。古い常識と新しい常識が入り混じる時代の「ふつう」とは? スッキリとタメになる、現代を生き抜くための必読書。