日米の野球ファンを熱狂させていたエンゼルスの大谷翔平が、右ヒジの靭帯損傷で戦列を離れ、球界に激震が走った。

 診断は「グレード2」(中程度)で、右ヒジ内側側副(そくふく)靭帯が部分断裂か伸びた状態だという。とりあえず自分の血小板を使って組織の修復や再生を図る「PRP注射」をし、3週間後の検査でその後の方針を決めるというが、治療の効果と症状の改善がなければ、靭帯再建手術の可能性も高い。

 靭帯再建手術といえば、故フランク・ジョーブ博士が開発したトミー・ジョン手術だが、私は大谷がこの手術を受けることに断固、反対する。

 最近は、「ヒジ痛といえば手術」が球界の流行になっている。松坂大輔(中日)、和田毅(ソフトバンク)、藤川球児(阪神)がアメリカ時代にこの手術を受け、カブスのダルビッシュ有も2015年に経験した。

 私がかねてから選手の手術に反対しているのは、1年半~2年もリハビリに耐えてなお、復活した選手がいないからだ。

「復活」とは、手術前と同じ球威を取り戻し、中4~5日の先発ローテーションを長期間務めることである。だから30歳を超えるベテランは、体にメスを入れるくらいなら引退してコーチになり、自分の故障体験を生かした指導をしたほうがいい。

 大谷も、これから2シーズンも棒に振って手術を受けても、メジャーを唸らせた160km/hの速球が蘇る保証はない。160km/h超のヤンキースの剛球左腕・チャップマンと球速を競えない平凡な投手になったら、二刀流を続けることもできないだろう。

手術より自然治癒力を信じろ

 しかし大谷には、まだ23歳の若さがある。

 ここで彼が知っておかなければならないのは、人間には誰でも生まれつき持っている「自然治癒力」があるということだ。体力のある若いうちは、病気やケガをしても自力で治すことができる。無理や不摂生をしても、なかなか病気にならないのはこのためである。

 大谷のように若ければ、少々の靭帯損傷は自分で治せるはずだ。そしてケガを自力で治すには、正しい生活をすることが条件になる。

「PRP注射」は自分の血液から血小板を含んだ血漿(けっしょう)を取り出して患部に注入し、自己治癒力を高める治療だという。

 自然治癒力で一番大事なのは正しい血だ。正しい血とは弱アルカリ性の血液であり、これを作るには、植物性の食物を中心とした正しい生活習慣と、健全で安定した精神を養うことである。

 報道によると、注射の効果を検査するまで、3週間はノースローで調整するという。これからの調整で大事なのは、時間をかけてゆっくり患部を休ませ、その間に、なぜ昨年10月に続いて2度も靭帯を損傷したのか、原因をしっかり検証し、原因がわかったら正しく修正すること。そのためには、もう一度イチから練習することだ。

日本人投手のケガ続出は練習不足

 最近の大リーグはケガが多い。とくに日本人の先発ローテーション投手4人全員が一時、故障者リストに入ったのは情けない。

 大谷のほか、ヤンキースの田中将大が両モモの張り、カブスのダルビッシュが右上腕三頭筋の腱炎(けんえん)、ドジャースの前田健太も右股関節の張り……。私にいわせれば、みんな練習不足だ。

 大谷も、昨年10月に続いて靭帯を悪化させたのは、前歴のあるヒジが練習不足で劣化したのではないか。人間の体は鍛えれば強くなり、鍛えなければ弱くなる。渡米前のシーズンオフからランニングで下半身を鍛え、キャンプでは投げ込みでしっかり肩を作ったのか。

 開幕後もテレビ中継でエンゼルス戦を見ていると、登板の前日などにときどきピッチングをしていたが、それも30~40球くらいで、実戦なみの全力投球は少なかった。そんな肩慣らしのような練習で、先発登板のときだけ160km/hの全力投球をすれば、いくら若い大谷でも前に痛めたヒジが悲鳴をあげるのは当然だろう。

私が二刀流に反対する理由

 そして気になるのは、やはり二刀流の影響である。

 私は日本ハム時代から、大谷の「二刀流」に反対してきた。恵まれた長身とやわらかい関節。長い腕を生かした長打力と天性の選球眼。顔がよくて、さわやかなインタビューの好感度……。投打がどっちつかずになる二刀流は、日本の宝でもある才能の無駄遣いだと思うからだ。

 しかもこの二刀流生活は、中6日以上の間隔で登板した5年間の日本ハム時代から続いている。ほかの投手が休養~投げ込み~ランニングで調整している間に、DH(指名打者)で打席に立ってきた大谷のヒジは丈夫になるどころか、知らない間に少しずつ劣化していたのではないか。これではさすがの天才も、右腕がパンクしても不思議ではない。

 だが大谷はまだ若い。「自分には自然治癒力がある」と信じて頑張れば、自然に快方に向かうだろう。その間は走り込んで、全力投球を支える下半身を作り直し、元気はつらつ、明るく積極的な気持ちで過ごすこと。

「俺は元気だ、元気になるんだ」という強い気持ちでケガと闘えば、いつかは治る。しかし、手術をしたらおしまいだ。医者が主役ではない、自分が主役だと思え。

 

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