5月1日、快晴。本日、ベース梅津の脱退ワンマン。

 待ち合わせの場所に機材車が停まっている。運転席に座っているマネージャーに挨拶して、助手席に乗り込む。少し遅れて梅津君がやってくる。おはよー。うん、おはよー。今日晴れたねー。そうだねー。スカッといい演奏やれそうだねー。そうだねー。なんて会話をしながら、機材車はZeppの楽屋口に到着。車を降りて楽屋に向かうと、先に入っていたマシータさんとヒロキ君が弁当食ってる。あ、ここだけの話していい?マシータさん、あの日左手が乖離骨折してたんだ。1週間前ぐらいに怪我しちゃって、でもあの人、大丈夫、絶対やるって、はなっから言ってた。言ってくれた。そんでみんなで話し合って、この4人でやろうって決めた。決めたんだ。

 ゲストで演奏してくれるおとぎ話の有馬君と牛尾君、爆弾ジョニー安田が楽屋にやってくる。おつかれー。おつかれー。そういやさー、あのバンドの新曲聴いた?あー、あれでしょー。など。

 ステージでのサウンドチェックが始まる。ツアーを一緒に回ったスタッフチームが、いつものように音と楽器と照明を整えていく。俺は別に悲しいわけでもなくかといってテンションばり高いわけでもなく、やるべきこととして、自分の声とギターのチェックをしていく。淡々と。みんなもそんな感じ。今日の雲ひとつない空みたいに、ただ抜けていく空みたいに。澄んだ気持ちで。それぞれがそれぞれの仕事を進めていく。サウンドチェック終了。俺は個室にこもって、今日のライブのことを思う。セットリストを見返す。うん、いいね。この4人でやりたい曲ぜんぶ入ってる。そんで、寝る。ライブ前は寝ないと駄目なんだ。20分寝ると、脳みそに貯まって沈殿したきたねー血液が全部すっきり流れる感じがあるんだ。で、寝れなかった。なぜなら、あ、そろそろ入眠するぞーって時に突然個室のドアが開いて「柴ちゃんおつかれ!」って古くからの友達が入ってきたから(笑)。なんだよーって一瞬思ったけど、まっいいかってなる。なんか今日は全てが「これでいいのだ」って感じなんだよな。なんでか知らんけど。レットイットビーって感じなんだよ。人間に変えられることなんてそんなないんだよ。誠実に生きるだけ。って感じ。そんな感じ。

 開演時間が迫ってきました。いつものように4人でひとつの部屋に集まって、出番ですよ!の声を待つ。あ、やばい。泣いてしまいそうだ。これで最後になるのか。なんだよそれ。涙が出そうだ。止まれ。てかなんで突然くるんだ。今日俺ぜんぜん大丈夫だったじゃんか。俺は、いま泣いちゃ駄目だって思った。なんでだろう。越えようとしてたのかな。今日を。今日の悲しみを。ぜんぜん大丈夫だぜって。余裕だぜって。ぎりぎりのところで涙を止める。みんなに、後悔しないようにやろうぜ、みたいなことを言って、みんなで「よっしゃ!」って掛け声あげて、俺は今日もいつものプロレス入場だから、マネージャーとふたり、フロア後方に向かう。涙を食い止めながら。振り切るように。スタンバイ位置に到着。客電が落ちる。あ、心が開放された。なんにも思わなくなった。SEのワタリドリが爆音で流れ出す。いつものように、何百回もやってきたように、「フロアの後ろから失礼します!」つってフロア後方の柵に立つ。ああ、何も思わない。ただ、やりたい。大声出したい。誰かの手を触りたい。歌いたい。演奏したい。笑わかしたい。汗かきたい。たい。たい。やりまくりたい。そうか、そうだったよな。ロックンロールは泣いてる心を救う音楽だったんだ。

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