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2013.12.09

就活エントリーへの条件付けは、アリか、ナシか?

水無田 気流

就活エントリーへの条件付けは、アリか、ナシか?

縁故採用を表明した出版社もある

かつては手書きで送ったものだが

今月1日、2015年卒採用に向け、大学3年生の就活が解禁になった。大学では、3年生の多い講義は、ものの見事に真っ黒になった。茶髪や金髪だった学生たちが一斉に髪を黒く染め、ダークカラーのスーツを着用しているからだ。同じような服装、髪型で、セミナー参加教室前に整列する学生たち。個人的な感慨で恐縮なのだが、この風景を見るたび、私は中原中也の「正午――丸ビル風景」を思い出す。短い詩なので、全文を引用したい。

中原中也も月給取りになるべくNHKの面積を受けたが、「詩生活」しか職歴がなく不採用となった

あゝ十二時のサイレンだ、サイレンだサイレンだ
ぞろぞろぞろぞろ出てくるわ、出てくるわ出てくるわ
月給取の午休〈ひるやす〉み、ぷらりぷらりと手を振つて
あとからあとから出てくるわ、出てくるわ出てくるわ
大きなビルの真ッ黒い、小ッちやな小ッちやな出入口
空はひろびろ薄曇り、薄曇り、埃りも少々立つてゐる
ひよんな眼付で見上げても、眼を落としても……
なんのおのれが桜かな、桜かな桜かな
あゝ十二時のサイレンだ、サイレンだサイレンだ
ぞろぞろぞろぞろ、出てくるわ、出てくるわ出てくるわ
大きいビルの真ッ黒い、小ッちやな小ッちやな出入口
空吹く風にサイレンは、響き響きて消えてゆくかな 

本作の素晴らしさは、そこに描かれた中也の視線の移動である。最初はぞろぞろ出てくる「月給取」の群れを俯瞰(ふかん)的に見下ろしているが、いつのまにか群れの中に立ち入り、埃にまみれ、桜を見上げる。対象との距離感や視線の移動が絶妙な効果を生み出す、中也ならではの書き方である。この視線が、「サイレンだ、サイレンだサイレンだ」とリフレインを用いることにより、音が風景を撹拌(かくはん)していく効果に乗り、日常風景を圧倒的な障壁の外から眺める視点が露わになる。

「一つのメルヘン」等の作品にもみられるように、中也は自分の痕跡を蒸発するように消し去っていく手法を巧みに使う。読み手はこれらの音と視点移動の一連の異常な動きを、すんなり違和感なく読めてしまう点が恐ろしい。生涯、「月給取」にはならなかった中也がこの詩を『文學界』に発表したのは、死ぬ直前、昭和12年のことである。前年に最愛の息子文也を亡くし、本人も気落ちのあまり身体を壊し、療養生活を送っていた中也は、この丸ビル前の昼休み風景をどのような感慨で眺めていたのだろうか。

実は中也自身、「月給取」となるべく、縁故を頼りNHKの面接を受けたことがあるのは有名な話である。しかし、履歴書の職歴のところに「詩生活」とだけ書き、面接担当者に「これでは職歴にならない!」と言われ、逆に「私にこれ以外何があるというのか?」と言い返し、不採用になったのだとか。

もちろん、こんな駄目駄目な面接は、良い子の就活生のみなさんは真似しちゃダメ。絶対。なのだが、メディアとりわけ出版業界を目指す学生諸君には、心してお聴きいただきたい。君らが相手にする物書きという人種には、こんな駄目な人たちが大勢いるのである。駄目な書き手を生かすも殺すも、編集者のみなさまの腕次第。頑張っていただきたいものである。

そういえば、そんな職業への適性を測るためか、昨年は岩波書店が新卒採用に際し、応募条件として同社刊行書籍の「著者の紹介状あるいは社員の紹介があること」を掲げ、物議を醸したことが記憶に新しい。同社は、「応募条件であり、採用条件ではない」と説明。もちろん元からの縁故ではなく、入社希望者は「自ら縁故を見つけてほしい」とのことであった。この成果、どう出たのか気になっている。
 

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