Filip Warulik/iStock

 

 まずは純粋に敬意を表したい。私だってそこまでひねくれているわけではないのだから。勝間さんほどのパブリックフィギュアであっても、こういう非常にデリケートな告白は、緊張したに違いない。ただ、その後に相次ぐ賛辞のまぶしさに、私の気持ちは少しだけ引いていく。

 さて、はじめにここだけはきちんとしておきたいのだけど、私はLGBTQも自由に生きられる社会がいいと心から思っている。LGBTQって最後にQをつけてるのがうっすらと意識の高さを表しているでしょ? 最近は、LGBTという言葉が、逆にそこに含まれないセクシャリティを排除しているように見えるという理由で、最後に色々なものを包含するクイア(queer)のQつける。「奇妙な」を意味するこの言葉は、ネガティブな意味で使われはじめたが、「奇妙でいいじゃん、楽しいじゃん」とゲイサークルが面白がって、今では「普通」とはされないセクシャリティをくくる言葉になったそうだ。

 さて、私が違和感を覚えたのは、「私はLGBTQを応援してます」的なメッセージを、勝間さんを個人的に知る人々がみんなに向かって発する必要が果たしてあるのかというところだ。個別に賛辞を贈るっていうのじゃ、足りないのかな? 誰もさほど反対しないであろう意見を、あえて世間に向かってばらまくことは、それでもやっぱり必要なのかな?

 

 大上段に振りかざされた正義で本当は何と闘っているの?

 確かに、アメリカにおいては、近年、ゲイの権利に関する運動とその成果が著しい。その金字塔ともいえるのが、同性婚を高らかに宣言した2015年の連邦最高裁の判決だ。この争いの背景にあるのは宗教問題であろう。全体的に日本よりもずっと信心深いアメリカの中でも、特に一部のキリスト教徒は私たちの感覚だと狂信的ですらある。彼らにとって、同性愛は、神の説く自然に反するものとして激しい憎悪の対象となってきた。警察が個人の家にまで押し入って、性交渉にいそしむ男二人を逮捕する国ですよ。ほっといてほしいよね? ゲイの権利が持ち上げられるようになった昨今でも、つい何日か前には、宗教上の理由からゲイカップルには絶対にウェディングケーキを売りたくないと言った店主の自由が最高裁によって認められた。つまり、神の国アメリカでは、一部の狂信的なキリスト教徒が、明確にLGBTQの「敵」として存在している。だから、彼らは闘い続ける必要がある。

 翻って日本のこの手の問題に関する扱いはどうだろう。「おネエ系」にカミングアウトさせようとするテレビ番組を観ると、デリカシーの欠如から一歩進んで、そこはかとない悪意すら感じてしまう。確かに、多数派から外れるものを、からかい、ときには嘲笑って生きにくい世の中にしてしまったという反省はある。

 だが、日本の場合の差別の空気感というのは、信仰を背景とした特定の勢力による暴力的な憎しみというアメリカの状況とはちょっと違う気がする。だって、アメリカは、中絶を提供する医師を殺す人が存在し、それに賛同する宗教の指導者が存在する超過激な国ですよ? 逆に、あいまいな日本の私たちの場合、闘わなきゃいけないのは、一部の過激な勢力という「明確な相手」ではなく、むしろ、「全体に漂う曖昧な悪意」ではないか。くっきりとした輪郭を持たない対象と、私たちは対峙する必要がある。

 でもだからといって、カミングアウトについて公にポジティブなメッセージを送り続ければ、日本のこの問題は解決するのだろうか。自分たちが「正義」と思うメッセージをキラキラと世の中に送り出し、その眩さで世界を照らしまくったら、地上にあふれる光は人の心の中の差別意識を折伏(しゃくぶく)するわけ? その正義のドヤ顔は逆に差別を闇に潜らせるだけだろう。

 ねぇ、その大上段まで振り上げた正義で、本当はいったい何と闘っているの?

 

 全体主義と同調圧力

 つまり、日本の問題点というのは、マジョリティ側にいたい集団が、自分と違う意見を排除することにあるのではないか。しかもたちの悪いことに、そこに正義の看板がかかると、その同調圧力は強度の抑圧をはらむ。多数が思う「正義」から外れた人を吊るし上げることで、まわりとの一体感を味わおうとする。「俺らって正しいよね? 庶民の敵を成敗するのは正義だよね?」的連帯感。仲間外れを作ることで、まとまろうとする女子グループ的な心境は、社会の中に広がっている。こうした空気感の中で、少数意見なるものは全体主義の大うねりに飲まれていく。

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