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モヤモヤするあの人

2018.06.07 公開 ツイート

「ふつう」でいることが難しい時代 宮崎智之

古い常識と新しい常識が混在している。誰もが納得する「当たり前」は存在せず、自分にはしっくりこない出来事に遭遇する機会も増えてないだろうか? そんな時代だからこそ生まれたのが、6月8日発売の文庫『モヤモヤするあの人~常識と非常識のあいだ~』だ。

大文字の「社会」を語るよりも野心的な試み

「ふつう」でいることが難しい時代になっている。ひと昔前までの常識が通じない社会になりつつあるのだ。

かつては、よい大学を出て、大手企業に就職し、郊外に一軒家を建てる……というライフコースを歩むことが幸せであり、女性は25歳までに結婚しなければ売れ残りだ、と信じられていた(=クリスマスケーキ理論)。今の時代にそんなことを考えている人は、ほとんど絶滅危惧種だが、つい最近まで本当に「ふつう」だったのだから驚きだ。

とにかく、現在は時代の変化が激しい。ビジネスでも生活でも恋愛でも結婚でも、今までの常識がまったく通用しなくなっている。古い価値観と新しい価値観との間で板挟みにあい、身動きが取れなくなっている人も多い。そんな時代だからこそ、まるで煙突から湧き出る煙のように、あらゆる日常の場面で「モヤモヤ」が立ち上がっている。

デートでは男がおごるべきなのか、それとも割り勘にするべきなのか。インターネットの普及によって在宅勤務が可能になったのに、大雪が降っても定時に出社しなければいけないのは、どうしてなのか。最近、スーツにリュックのビジネスマンを見ることが多いが、その姿で営業先に行くことは失礼に当たるのか。SNSで嫌いな上司から友達申請が来た場合、部下はどう対応すればいいのだろうか。

こうした判断がわかれる微妙な問題については、あなたの「ふつう」が相手の「ふつう」だとは必ずしも限らない。誰かの常識が、誰かの非常識となり、結果、モヤモヤが心の煙突から次から次へと湧き出てくる。

インターネット、とりわけSNSの普及がモヤモヤを増幅させていることも問題だ。「SNSで嫌いな上司から友達申請」などということは、昭和の時代では起こり得ないことだった。価値観の衝突が、SNSによって可視化されるという状況も、人々のストレスに拍車をかけている。

ほかにも本書には、SNSに顔写真を無断投稿するのはハラスメントなのか、メールの文末に「iPhoneから送信」をつけたままだと、相手をイラつかせるのか、といったモヤモヤを収録している。テクノロジーの進化により、それまで存在すらしなかったマナーが次から次へと出てきて、ささいなマナーでも、それに反すると「炎上」することもある。

そんな取るに足らないことについて書くことに、なんの意味があるのかと疑問に思う読者もいるかもしれない。しかし、日常で感じるささいな違和感を言語化することこそが、現代社会を考えるうえで重要なことだと筆者は思っている。

そして、なによりも「そのモヤモヤがささいなことであればあるほど、他人に話しにくい」ということこそが、本書を記した一番大きな理由である。「そんなこと、誰も気にしていないのではないか」「悪口に聞こえてしまうのではないか」。そうした躊躇によって、現代人は多くのモヤモヤを抱えている。

本書は気楽な気持ちですらすら読んでもらえるよう心がけて書いているので、あまり難しいことは言いたくないが、取るに足らない(しかし、放置しておくとフラストレーションが溜まる)モヤモヤをすくい上げることによって、より現実の解像度が上がり、現代社会を深く洞察できるようになる、ということを、本書を通して証明していきたい。それは、大文字の「社会」や「政治」を語ることよりも、むしろ野心的な試みであると筆者は思っている。

そんなふうに考えれば、「悪口」も言ってみるものだと思えるようになるのではないか。だから、みんなで思いっ切りモヤモヤを語り合おう。「あの人に、私はモヤモヤしているんだ!」ということを、大声で叫ぼう。モヤモヤをモヤモヤのままにしておかず、日々の生活で抱える違和感を堂々と表明してみよう。本書はそんな本である。

誰もが、モヤモヤしながら生きている。本書を読み終わるころには、少しでもあなたが抱えているモヤモヤがスッキリすることを祈りたい。

*   *   *

……詳しくは、『モヤモヤするあの人』をご覧ください。

宮崎智之『モヤモヤするあの人 常識と非常識のあいだ』

どうにもしっくりこない人がいる。スーツ姿にリュックで出社するあの人、職場でノンアルコールビールを飲むあの人、恋人を「相方」と呼ぶあの人、休日に仕事メールを送ってくるあの人、彼氏じゃないのに“彼氏面”するあの人……。古い常識と新しい常識が入り混じる時代の「ふつう」とは? スッキリとタメになる、現代を生き抜くための必読書。

(目次)

パートI
◆アリか? ナシか? モヤモヤする新常識
スーツにリュックは失礼なのか?
職場でノンアルコールビールを飲むのは非常識なのか?
ビジネスシーンでのマスク着用は不自然なのか?
大雪でも定時に出社する人は社畜なのか?
災害時に笑顔の写真は不謹慎なのか?
「タバコ休憩」は、非喫煙者にとって不公平なのか?
「つながらない権利」の賛否 休日の仕事メールにも返信すべきか?
嫌いな上司からのSNSでの友達申請は承認すべきか?
SNSに顔写真を無断投稿するのはハラスメントなのか?
「iPhoneから送信」署名はなぜ嫌われるのか?
「ハンズフリー通話」はなぜ違和感があるのか?
焼き鳥の串外しは無粋な行為か?
エスカレーターの“片側空け”は間違いか?
男は女におごらなくてはいけないのか?
恋人を「相方」と呼ぶのは芸人みたいじゃないか?

◆僕のモヤモヤ記1 前歯がないブルース

パートII
◆あの人は、なぜあなたをモヤモヤさせるのか?
彼氏じゃないのに“彼氏面”する男たち
女子がドン引きするモテテクを使う男たち
駅のホームで抱き合い、海藻のように揺れているカップル
「結婚式でフラッシュモブ」したがるサプライズ好きの人たち
クリスマスにハマらなくなった恋人たち
男たちを翻弄し組織を壊すサークルクラッシャーな女たち
周囲からウザがられる「意識高い系」の人たち
ビジネスシーンに蔓延するカタカナ語を使う人たち
子どもの泣き声にイラつく人たち
電車で高齢者に席を譲らない人たち
電車で化粧をする女たち
ライブやフェスで“熱唱する観客”たち
“読者モデル”と同じになった顔出しライター
SNSにリア充投稿する人たち
あなたはハロウィンで仮装できる人ですか?

◆僕のモヤモヤ記2 救急車に乗った僕はアゴが少し伸びていた

関連書籍

宮崎智之『モヤモヤするあの人 常識と非常識のあいだ』

どうにもしっくりこない人がいる。スーツ姿にリュックで出社するあの人、職場でノンアルコールビールを飲むあの人、恋人を「相方」と呼ぶあの人、休日に仕事メールを送ってくるあの人、彼氏じゃないのに〝彼氏面〟するあの人……。古い常識と新しい常識が入り混じる時代の「ふつう」とは? スッキリとタメになる、現代を生き抜くための必読書。

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モヤモヤするあの人

文庫「モヤモヤするあの人」の発売を記念したコラム

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宮崎智之

フリーライター。1982年生まれ。東京都出身。地域紙記者、編集プロダクションなどを経てフリーに。日常生活の違和感を綴ったエッセイを、雑誌、Webメディアなどに寄稿している。著書に『モヤモヤするあの人 常識と非常識のあいだ』(幻冬舎文庫)、共著『吉田健一ふたたび』(冨山房インターナショナル)など。
Twitter: @miyazakid

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