本連載+TOFUFU連載に書き下ろしを加えた『カレー沢薫の廃人日記 オタク沼地獄』が発売になりました! そして廃人日記リターンズということで、連載再スタートです。ぜひ書籍をお読み頂いた上で! お楽しみ頂けたら幸いです。

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約8ヶ月ぶりに、FGOのガチャに土方さんが登場した。

その報を聞いた瞬間私は外国人4コマの4コマ目になった。しかし、ケツを浮かせたまま、私はあることに気づいた。

「土方さん、もう宝具5じゃないか」と。

宝具5とは同じキャラクターを5体集めて、強さがマックスになった状態だ、つまりこれ以上出しても特に意味はないのである。
しかし私は、着席しなかった、相変わらず屁の勢いが強すぎた人の姿勢のままだ。

何故ならオタク界には「観賞用、保存用、布教用」という言葉がある。

鑑賞用は普段使いするもの、保存用は手を付けないコレクション目的のもの、そして布教用は、同じ沼に引きずりこむため、人に貸すためのものである。

つまり「オタクは同じものを最低3つは買う」ということわざだ。
ソシャゲ故に「布教用」という概念はないにしても、私が持っているのは言わば「観賞用の土方さん」のみである。

「そろそろ保存用の土方さんが必要な段階ではないか」

ネクストステージ、である。
しかし私には、オタクとしてより先に社会人として「無職」というネクストが迫ってきていた。
このコラムの最初でいかに自分の会社の給与が安いか書いたが、今思うと社会保険完備であれだけもらえるということが、いかにすごいことだったか思い知らされている。

「失ってから気づく」
ありきたりな言葉だが、健康保険も雇用保険も、別れてみないとその価値に気づけないし、気づいたときにはもう遅い、人間とは愚かなものである。

ともかく、そんな私にとって保存用の土方さんはあまりにも贅沢品だ。夏に水着土方さんが来る可能性がゼロでない今は「ステイ」が最善である。
しかし、これだけ土方さん推しを公言している者が、保存用の土方さんの一つも持ってないのはいかがなものか、なんなら「使用用」「観賞用」「保存用」ぐらいは持っていてしかるべきではないか。

そう思い、一瞬「やるか」と立ち上がりかけたが、再度中腰になった、先ほどから脚力が鍛えられている。

先日海外メディアがソシャゲのガチャに対し「プレイヤーのキャラクターへの愛を収益にしている」と批判的な報道をした。

それに関しては私も否定できない。土方歳三への愛のために自分の収入からは考えられない金を短時間で使ってしまったのは事実だ。

そこに後悔はない、しかし「ファンならそのキャラを持っていて当然」「好きなら出るまで回すはず」という圧力で課金させているなら、キャラへの愛を人質に搾取していると言えなくもない。

しかし、圧力をかけているのはソシャゲ運営ではない、他のプレイヤー、そして自分自身である。
この「○○でなければファンじゃない」はガチャ以上に「悪い文明」だ。
自分を追い詰め、他人の熱意に水をぶっかけ、何より大事な推しの足を引っ張る。
「○○ファンなら××であるべき」という条件付けは確実にファンを減らすか、これからファンになろうかという人を排除する。
人気が少ないキャラは当然露出が減るし、ファンが少ないコンテンツは最悪そのものが消滅してしまう、完全に自殺行為だ。

さらに愛を理由に無茶をして、生活が破綻したら意味がない。
「キャラクターへの愛が抑えきれずガチャ破産した人」なんてそれこそ、格好の「ソシャゲ批判材料」でしかないのだ。

推しの為にはまず自分がハッピーでなくてはならない。「推しのおかげで何をやってもダメだった私が今ではこう!」と札束風呂でダブルピースするのが、推しへの貢献だ。

オタクに許される「死因:推し」は「推しの良さみが致死量を越えていたため」のみであり、経済、ましてや「オレがオレこそが真のファンだ」と他人に言いたいが為の虚栄心に殺されてどうする。
他人に言われたわけでもないのに、保存用の土方さんを持っていないこと、今それを出す力がないことを理由に、自分の「好き」を否定してどうする。

そして私は完全に着席し、しばし沈黙のあと立ちあがった。

「ワンチャン!ワンチャン!」

私は一回だけ、保存用の土方さんを狙って10連ガチャを回した。

それは見たこともないような、きれいな爆死だった。

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