大学3年生になった僕は、大学で孤立していた。卒業まで続く語学クラスでは、入学後まもなく開催された第1回クラスコンパに馴染めず(あいつらすぐ女の子を下の名前で呼ぶんだ、ありえねえ)、以降孤立。期待を込めて入った軽音楽サークルでは、なんかお互いを褒め合いまくる雰囲気に馴染めず、孤立。バイトは深夜、百貨店にマネキンを搬入・設置するストイックな肉体仕事でそもそもバイト同士に会話など無く、孤立。なんかもう孤立しすぎて全てがどうでも良くなっていた僕は、大学に、パジャマ×便所サンダル×コンビニのビニール袋に教科書をIN、というホームレスコーデで登校していた。

 その日は、授業までに小一時間ほどあったので、大学の近くの本屋で立ち読みをすることにした。ホームレスコーデでメンズノンノ「夏モテコーデ特集」を読む。ほんほん、ほんほん、ためになる。最近は襟ぐりがびろーんと広い服がモテるのか。家帰ったらTシャツの襟めっちゃ引っ張って伸ばそう。そうしよう。なんてことを考えてたら、僕の身体に異変が起きた。下腹部あたり、鈍くて重い、鉛のような初期衝動が生まれていたのだ。なんですかこのパルスは。そうだ俺は知っている。君の名は。便意。しかしメンズノンノの夏モテ特集がためになりすぎて、読むのをやめることができない。僕は瞬時に脳内でシミュレーションを行い、この特集を読み切ったあと走って大学のトイレに向かう、それで問題ないという結論を下す。しかしこれは簡単な仕事ではない。油断すれば、本屋で粗相という最悪の事態にもなりかねない。集中力を高めながら、夏モテ特集を読み進める。ほんほん、ほんほーん、古着をキレイ目アイテムと組み合わせることが重要なのね、ためになる、実にためになるな〜てか無理、まじもう出る、やばい、僕はメンズノンノを平積みの上に戻し、駆け出す。大学までは走って3分程度、いけるか、いやいくしかねえんだよ、大学で孤立してる柴田が夏モテコーデ読み込んだ結果うんこ漏らしたとかもう救いようねえじゃん漏れる漏れないじゃねえんだよ超えるんだよ、スピードを上げろ、血液を全身の筋肉に送り込め、さあ残るはこの下り坂を駆け抜けるだけ、行け、男を見せろ柴田、自分史上最高の自分を見せてみろよ柴田ピスッ。ピスピスピスッ。ピピピピピッ。出た。ものすごい、出た。そして不思議なことに、一度出たら、なんかもうほんとに、どうでも良くなった。むしろ誇り高い、覇王のような気持ちが僕の中に生まれていた。ピスッ。あっ、また出た。足を止め、天を見上げる。圧倒的な開放感、そして大事を成し遂げたことによる他者への優越感がこみ上げてくる。漏らしましたが?それが何か?その程度のことでこの俺様が動じるとでも?俺はもう走ってトイレに行くような小物のごとき真似はしない。ピスッ。悠々とこの坂を闊歩し、トイレを迎えにいく。誰の命令も聞かない。誰の目も気にしない。俺は俺の道を行くんだ。ピュン。

 僕はピスピス漏らし続けながら、勝利者の表情でゆっくりと大学のトイレに向かった。大人になって初めての、しかし誇り高きお漏らしだった。

 同じ漏らした経験のある同士なら間違いなく分かってもらえると思うけど、漏らすとまじで覇王のような気持ちになるよね。

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