発売中の小説アンソロジー『未来製作所』は、未来のモビリティやものづくりをテーマにした5人の作家(太田忠司、北野勇作、小狐裕介、田丸雅智、松崎有理)によるショートショート小説集です。想像を超える新しい世界を小説でつくるには、今の技術を可能なかぎり知りたいということで、執筆前に株式会社デンソーに潜入取材を刊行!
その様子を5回に分けてレポートします。 第2回は、交通事故をゼロにできるかもしれない、いま話題の「自動運転」について。

取材・文 塚本佳子

渋滞・事故を減らせる自動運転

『未来製作所』に収録されている太田忠司さんの「ラプラスの兄妹」は、両親の交通事故死をきっかけに、妹は学者に、兄は政治の道に進み、「交通事故ゼロの世界」を二人で目指すストーリーです。そのための手段として「自動運転」がひとつの鍵になっています。

「自動運転」と聞いて、「運転手がいなくても、目的地まで勝手に連れて行ってくれる車」を思い描く人は多いと思いますが、残念ながら、現時点ではそこまでの実用化には至っていません。

段階を踏みながら少しずつ自動運転化は進められていますが、例えば、前走車との間隔が詰まりすぎたり、障害物を察知したりすると、自動でブレーキがかかったり(衝突被害軽減ブレーキ)、アクセルを踏まなくても、設定した速度を維持しながら走れたりする(クールズコントロール)機能は、完全な自動運転に向けた一歩です。

「自動運転には、5段階のレベルがあります。ドライバーを必要としない、完全な自動運転はレベル5。 (上記のような)運転サポートをしてくれる自動運転は『運転者支援:レベル1』、『部分的自動運転:レベル2』といいます。

レベル2まではすでに実用化されていますが、それ以上になると車の性能だけでなく、法の整備や社会的な受容性が必要になってくるため、ハードルが一気に上がります」と説明するのは、株式会社デンソー・広報・渉外部企画課長の岩田さん(部署は取材当時)。

世界中の自動車メーカーがレベル5を目指して、自動運転の開発に力を注いでいますが、そもそも、自動運転のメリットとはなんなのでしょうか?

メリットはさまざまですが、ポイントは交通事故を減らせること。運転者の負荷をなくし、渋滞や事故のない未来をつくるためには、自動運転の技術が必要なのです。

クルマの運転がオリンピック競技になる?!

「交通事故は運転手の判断ミス、操作ミスによって起こるケースがほとんどですが、速度オーバーや脇見運転、居眠り運転などはその最たるもの。昨今ではお年寄りによる交通事故が増えています。さらなる高齢化社会に向けて、お年寄りを危険から守り、かつ行動範囲を広げ、安全に楽しく生活するためにも自動運転は必須だと思います」

自動運転によって得られるたくさんのメリットの一方で、「自動運転によって楽しみが奪われると感じる人もいるでしょうね」と危惧するのは作家の北野勇作さん。

              


「自動運転になればラクだし安全かもしれませんが、自分で運転したい人もいるんじゃないかなあ(笑)。かつてオートマ車が出てきた時、『ギアチェンジがないなんてつまらない。そんな車に乗れるか!』と、僕も含めてみんなが言っていたけど、今そんなことを言う人はいません。もしかしたら、街中を自分で運転するなんて、なんて野蛮なことをしていたんだと言われる時代がやってくるかもしれない。近い未来、すべてが自動運転化されたら、運転はスポーツになるんじゃないですかね。運転がオリンピック種目になる時代がくるかも」

北野さんによる運転の醍醐味にうなずく人もいる中で、岩田さんは自動運転化への課題を語ります。


「完全に自動化しない限り交通事故はなくならないと思うんです。例えば、運転したい時は自分で運転するモードも選べるという半自動的なシステムだと、結局運転手の判断で思いのままに走れてしまう。ですから、自動運転の実用化を目指す過程として、まずは自動運転専用車線をつくって分離するなどが現実的な考えかもしれません。法整備や社会的な受容性が必要になってくるから一気には難しいです」

単純に車の性能をあげるだけでは事故は減らないので、現在は、全自動運転でしか走れないモデル都市をつくって実験するレベルまでいっているそうです。

前回の「空飛ぶ車」よりは現実的とはいえ、完全な自動運転の社会にするためには、まだまだ試行錯誤が必要。これからクルマ好き、運転したい人の未来はどうなっていくのでしょうか?

太田さんの『ラプラスの兄妹』でも、実験都市がつくられますが、現実社会と同じく、そう簡単には進みません。そこで起きた事件とは? 
ぜひ本書でお楽しみください。
 

 

書籍関連情報

『未来製作所』

小さな憧れがたくさん叶う世界へ

思い出がよみがえる家電、世界一優秀なペット、ロボットスーツで無限に移動……。5分で胸が高鳴ってくる、ショートショートアンソロジー

この記事をシェア
この連載のすべての記事を見る

★がついた記事は無料会員限定