今回のテーマは「JJ(熟女)と苦手分野」。

私は苦手なものがとても多い。パソコンも機械も運動も掃除も書類も出勤もていねいな暮らしも苦手で、かろうじて得意と言えるのは、文章を書くこととセックスぐらいだ。
一番古い職業は作家と娼婦らしいので、「自分は古代人だ」と思うようにしている。

古代人なので、Wi-Fiの意味もうっすらとしかわかっていない。私がゲームにハマったことがないのは、操作がわからないからだ。ゲームの記憶はファミコンで止まっているし、それもスーパーマリオが限界だった。

以前、夫のミニファミコンでスーパーマリオをプレイしたら、一面をクリアするのに8機のマリオを失うというコンスコン状態だった。このガンダムネタがわかる人は年寄りだろう。
一方の夫は1機のマリオで亀の親分を倒していた。それを見て「ゲームが上手でかっこいい」と惚れ直した。

苦手が多いことのプラス面は「俺にできないことを平然とやってのけるッ!」とすぐに痺れて憧れる点だ。

私はパソコンに不具合が生じると、すぐさまNECのコールセンターに電話するのだが、先日も解決方法を教えてくれたオペレーターの男性に恋に落ちた。「パソコンが動かない=原稿を書けない=死」なので、簡単に吊り橋効果が発動するのだ。

女友達と屋久島で登山した時は、出発して5分で死を意識した。平地を歩くのも苦手な人間が山道を歩けるわけがない。

もののけ姫のような景色の中を、スメアゴルのように四つん這いで進む私。「二度と生きて帰れぬかもしれぬ」と八甲田山のような表情でいると、男性ガイドさんに「最悪、僕がおぶって帰りますよ!」と言われて恋に落ちた。そして下山した瞬間、正気に戻った。

また、寂しがりやで1人暮らしが苦手だったため「伴侶はいねが~!!」とナマハゲパワーが発動した。もし1人暮らしが得意だったら、夫と結婚していないと思う。

このように苦手にもプラスはあるし、得意と苦手は表裏一体だ。なので、今こそジョースター卿の教えを実践しよう。「なに、ダイエットが続かない?逆に考えるんだ。『痩せるのが苦手じゃなく、太るのが得意なのさ』と」

太っている方が飢饉に強いし、肉のクッションのおかげで衝撃にも強い。ハート様というお手本もいる。食べても太れない体質の女友達が「椅子に座ると尾てい骨があたって痛い」と嘆いていたが、私は尾てい骨の存在を意識したことがない。

プラスに注目することを「ポジティブシンキング(笑)」と揶揄する声もあるが、こんなしょっぱい世の中で、自分ぐらい自分に甘くしないとメンがもたない。 

「多様性を認めよう」と言いつつ、現代日本は品質管理社会で「この大根は太すぎる」「このカボチャは形が悪い」と規格外は排除される。
女性は特に完璧を求められがちだ。「母として妻として働く女として活躍しろ」とスーパーウーマンを要求される。

ケイト・ブランシェット先輩が来日した際「母親と女優業の両立は大変ですか?」と質問されて「私がショーン・ペンやダニエル・デイ・ルイスなら、そのような質問はしないですよね。父親の場合、両立は大変か?とは聞かれないと思います」と答えていた。

日本の女優で堂々とそう言える人は少ないし、言ったら炎上しそうだ。どんなに活躍している女優でも「毎朝5時に起きて子どものお弁当を作ってます」と良妻賢母アピールしないと「母親失格」の烙印を押されてしまう。

広告会社時代、私は毎朝8時半に起きて10時に出社していたが、それでも死にそうだった。人は無理を続けると死ぬ。死にたくなければ「自分は完璧超人にはなれない、ベンキマンでいい」と認めた方がいい。ちなみにベンキマンもインカ帝国出身の古代人だ。

それに、苦手分野がある方が「年をとってよかった」と感じる機会も多い。
体育が2だった私は「小学生が長縄でギネスに挑戦!」みたいなテレビ番組を見ると、いまだに胃が痛くなる。大人は会社で長縄を飛ばなくていいし、オフィスに鉄棒や跳び箱もない。 

「逆上がりができるまで帰るな」など、小学校は漆黒のブラック企業だった。教師は「がんばれ!やればできる!」と修造カレンダーみたいなことを言っていたが、がんばってもできないことは当然ある。

美大出身で絵の仕事をしている女友達は「小学校の計算ドリルでつまずいて、数学のテストは0点だった。でも絵は必ず特選がもらえたし、美術だけは得意だった」と語る。
また「授業中にじっとしているのも苦手で、いつも落書きをしていた。絵だけは集中して何時間でも描けたので、それが今の仕事につながっている」とも。

我が夫もいまだに分数の割り算ができなくて『おもひでぽろぽろ』のタエコと同レベルだが、恐竜の絵とかはすごく上手い。また、何も見ずにアルマジロとか正確に描く。

そんな夫は金勘定ができないし、片付けが苦手でしょっちゅう物をなくす。そんなふうに得意と苦手があってデコボコしているのが人間だろう。みんな違って、みんなブス。とカレー沢先生も言っている。

私の担当編集さんたちは皆優秀だが、聞いてみると意外と苦手なものが多い。

当連載の担当H嬢は「苦手なものが多すぎて、生きているのが不思議です。特にお金関係が苦手で、貯金も財テクもできません。今はテーブルの上のかごにお金を入れて貯めてます」と言っていて、タンス貯金ですらないし、空き巣に優しすぎる。

また「友達が株とかやってると聞くと『めっちゃ大人だ…!』とびっくりします。私はいまだにビットコインかピットコインかもわかってなくて、もごもごと話してます」とのこと。
私も「たぶんビだよな?」とググってみたら「ビ」で合っていた。かしこだと思っていた彼女が案外アホの子だと知って、より親しみを覚えた。

人は得意なものより苦手なものの話をする方が仲良くなれるし、「人類皆兄弟」という気分になる。

連載中のTOFUFUの担当アサシン嬢は「狂犬」と呼ばれる御仁だが「注射が苦手でいまだにガチ泣きます」とおっしゃる。
「針が迫ってくると、自動的に腕を引っ込めちゃうんですよ。なので私を押さえつける人と注射する人の2名が必要です。これぐらい注射が苦手なので、鼻筋の整形(ヒアルロン酸の注入)を諦めました。結果的に節約できてよかったです!」と、いかなる時も前向きだ。

アラサーのバリキャリ女子も「服を畳んだり掛けたりするのが苦手すぎて、いっそ捨ててしまえと思い、服を10着に減らしました。食器を洗うのも苦手すぎるので、今は皿2枚とコップ1つを所有するのみ。結果的に断捨離ができて、流行りのミニマリストになりました」とポジティブに語っていた。

私もカスカスのマスカラとかカピカピのスティックのりとか捨てて、シンプルに暮らしたい。昔から掃除や片付けが苦手なことがコンプレックスだったが、ピカピカの部屋に暮らす女友達いわく「私は潔癖症だから、それはそれでキツいよ」。

友人「電車の手すりも歯医者のスリッパも気持ち悪いし、一番キツいのは股間。子どもの頃、自転車や一輪車を友達に貸すのがイヤで、うっかり乗られた後はアルコール消毒してた」
アル「じゃあ股間をメインに使うセックスはどうなの?」
友人「だからセックスも苦手。体を舐められたりクンニされるのも気持ち悪いし、顔射なんてされたらショック死すると思う」

死因は顔射。コナンくんでも推理は難しいだろう。私も顔射するような男とはやりたくないが、もし手違いで顔に精液がかかっても「拭けばいいさ」とへっちゃらだ。セックスが得意=不潔が得意なのかもしれない。

アルテイシアの夜の女子会』にも書いたが、子宮全摘手術で入院した時、5日間シャワーを浴びられなくても平気だった。
逆に広告会社時代、毎日風呂に入って服を着て化粧をするのが、死ぬほど苦痛だった。風呂に入る以外にも、会社員はやらなきゃいけないことが多すぎる。

私はマルチタスク型ではなくシングルタスク型の人間だ。同時進行できるのは、漫画を読みながらウンコをすることぐらいだし、それも漫画に集中するとウンコの存在を忘れる。

そんな人間なので、いまだに客から広告の申込書をもらい忘れる夢とか見て、汗びっしょりで目を覚ます。そして「ベトナム帰還兵かよ…」とつぶやく。トラウマになるぐらい、会社員生活はキツかった。
 
「ずっと家で書いてて煮詰まらない?」と聞かれるが、ひたすら原稿だけ書いてればいい生活の方が楽なのだ。それに出勤は苦手だが引きこもるのは得意なので、2ヶ月カンヅメでシナリオを執筆した時もさほどつらくなかった。その間、眉毛や産毛の処理をしなかったら、山賊みたいな顔になった。

広告会社時代は「仕事のできない自分は欠陥品だ」と劣等感に苦しんだが、人には向き不向きがあるし、適材適所がある。働いて稼ぐのが得意な女性もいれば、家事や育児が得意な男性もいる。それぞれ得意分野で助け合えるのが、みんなが生きやすい社会だろう。

みんなが完璧超人を目指すんじゃなく、ベンキマンがベンキマンのままで生きられる社会を目指すべきだと私は思う。かつ、大切なのは「何でもできるようになること」ではなく「助けを求めること」だと思う。

昔、駅の女子トイレの列に並んでいた時「すみません、限界で…!」と女性が青い顔で駆け込んできた。するとその場にいた全員が「どうぞどうぞ」とダチョウ倶楽部になっていた。
もしその女性が「ウンコが漏れそうです」と助けを求めなければ、悲劇が起こっていただろう。

高齢男性が孤立化しやすいのは、他人に弱みを見せられず、助けを求められないからだと言われている。一人暮らしの高齢者で「2週間、誰とも会話してない」と答えたのは男性が17%、女性が4%と大きな差が見られる。

そこには男のプライドや「男が弱音を吐くな」というジェンダーの刷り込みもあるのだろう。だが年寄りが「べ、べつに寂しくなんかないんだからね!」とツンデレ美少女ぶっても、ドンスベりするだけだ。

ジジイのふり見て我がふり直せ。ババア予備軍のJJたちも「自分で何でもしなきゃ」と気負わず、どんどん助けを求めよう。そのためには「自分は○○ができない、苦手だ」と認めることが必要だ。

といちいち書かなくても、JJは「これでいいのだ」と全肯定の精神が身につくお年頃。

若い頃にさんざん自己否定や自己批判をしてきて飽きているし、バカボンのパパの年齢も超えて、できないことも増えてくる。
「できないこともあるさ、JJだもの」と自分に優しい方が、他人にも優しくできる。かつ、できる人と比べて嫉妬もしなくなる。

やはり加齢にはプラス面がいっぱいあるなあ…と実感する私は、逆上がりができなくて泣いている子どもがいたら「大丈夫、それでいいのだ。大人になって困ることは1つもないぞ」と教えてあげたい。

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アルテイシア『アルテイシアの夜の女子会』

「愛液が出なければローションを使えばいいのに」「朝からフェラしてランチで口から陰毛が現われた! 」とヤリたい放題だった20代。「男なら黙ってトイレットペーパーを食え! 」「ヤリチンほどセックス下手」と男に活を入れていた30代。子宮全摘をしてセックスがどう変わるのか克明にレポートした40代。10年に及ぶエロ遍歴を綴った爆笑コラム集。

BL研究家・金田淳子さんとの対談「夢豚と腐女子が語る、エロスの歴史」、作家・ぱぷりこさんとの対談「アラサー妖怪男女はどんなセックスをしてるのか」も収録。