フランス語の教師をはじめておよそ30年になる中条省平さん。フランス語に挫折してしまったあなたのために、「フランス語の大体が頭に入り、フランス語を恐れる気持ちが消える」ことを目指して書かれた『世界一簡単なフランス語の本』から、フランス語の形容詞についてご紹介します。

「グランプリ」は「グラン・プリ」
(大きな賞)──形容詞の男性・女性

 さて、名詞と冠詞における男性・女性問題はこれで片がつきました。

 しかし、男性・女性の区別に関しては、もうひとつ、明確にしなければならない問題があります。それは形容詞です。

 例を出しましょう。日本語でもよく知られた「グランプリ」という言葉。これは grand prix というフランス語です。意味は grand が「大きい」、prixが「賞」ということです。つまり、「大賞」です。

(写真:iStock.com/BrianAJackson)


 grand という形容詞は英語にもありますが、フランス語は語尾の単独の子音を読まないので「グラン」という発音になります。prix も英語にprize (プライズ、賞)という似た形の単語がありますね。語源は同じラテン語です。フランス語の prix の場合、語尾の単独の子音は読まないので「プリ」と発音されます。

「グランプリ」の grand が形容詞で、prixは男性名詞です。そして、フランス語では、男性名詞に付く形容詞は男性形、女性名詞に付く形容詞は女性形になります。

 したがって、grand は男性形なのですが、形容詞の女性形はどうなるかというと、男性形が基本で、男性形に e を付けるというのが原則になります。つまり、grand という形容詞の男性形と女性形は、

 grand (グラン)

 grande (グランドゥ)

 なぜ発音が変わるかというと、語尾の単独の子音は読みませんが、女性形になって e が付いたので、子音を読むことになります。しかし、同時に、語尾の e は読まないという原則があるので、「グランデ」ではなく「グランドゥ」ということになります。

 女性名詞の table に 形容詞のgrand が付く場合、形容詞は女性形になって、grande table「グランドゥ・タブル」(大きなテーブル)という形になり、どれでもいい不特定の大きなテーブルなら une grande table (ユヌ・グランドゥ・タブル)となりますし、特定の「あの大きなテーブル」であれば、la grande table (ラ・グランドゥ・タブル)ということになります。これらを複数にすると、不定冠詞が付けば des grandes tables (デ・グランドゥ・タブル)となり、定冠詞が付けば les grandes tables (レ・グランドゥ・タブル)となります。

 ただし、des grandes tablesのように形容詞が名詞の前に来る場合、不定冠詞複数の des (デ)は de (ドゥ)に変わるという文法上の例外措置が出てきます。形容詞の位置の問題は次にやりましょう。

「ボージョレ・ヌーヴォー」は
「新しいボージョレ」
──たいがいの形容詞は後ろに付く

 例えば、フランスのワインのなかでも、とくに有名な「ボージョレ・ヌーヴォー」というものがあります。11月の半ばくらいにその年の新酒が解禁となり、フランスでも年中行事のひとつとして定着し、カフェや自宅でその年の新酒を飲んで、「今年のボージョレ・ヌーヴォーはなかなかいいね」などというのが習いになっています。

(写真:iStock.com/nschatzi)


 これはブルゴーニュワインの一種で、主にボージョレ地方(フランス中央部のアルプス寄り)で造られるので、「ボージョレ」と呼ばれます。綴りは beaujolais で、発音の規則どおり、eau は「オ」(33ページ)、ai は「エ」(31ページ)で、語尾の単独の s は読まないので、正確な発音は「ボジョレ」です。

 で、「ヌーヴォー」は「新しい」という意味の形容詞で、この場合は「新酒」のことを指しています。綴りはnouveau です。ou は「ウ」と発音するので(26ページ)、この発音も正しくは「ヌヴォ」であって、音は伸びません。

 

 ところで、この「ボジョレ・ヌヴォ」の場合、名詞+形容詞という順番になっていますが、さっきやった grand prix(グラン・プリ)の場合は、形容詞+名詞の順になっていました。これはいったいどういうわけか?

 フランス語では、英語と違って、形容詞はだいたい名詞のあとに付きます。つまり、beaujolais nouveau の順番が普通です。

 ところが、grand のように、短くてよく使う形容詞は名詞の前に来ることが多いのです。

 grand(大きい)の反対語のpetit(小さい)や、bon(良い)、mauvais(悪い)、beau(美しい)といった形容詞が、名詞の前に来ます。

 発音はすべて原則どおりですから、順に「プティ」「ボン」「モヴェ」「ボ」となります。ほかにも名詞の前に来る形容詞はいくつかありますが、出てきたら憶えることにしましょう。

(Pont Valentré:iStock.com/jenifoto)


 さきほど、形容詞の女性形は、基本となる男性形に e を付けるのが原則だといいました。いま挙げたpetit、bon、mauvais、beauはすべて基本の男性形です。

 それでは女性形はというと、最初の petit(小さい)は e が付いてt を読むようになる(ただし、語尾のe は発音しないので、「テ」ではなく「トゥ」となる)から、発音は原則どおり「プティトゥ」となります。

 しかし、bon(良い)は、女性形になるとき n を重ねるという例外の処置をおこなって bonne となります。でも、発音は原則どおり、重なった子音は1音扱いで、語尾のe は読まないので、「ボヌ」となります。

 mauvais(悪い)の女性形は、原則どおりe が付いて mauvaise となりますが、発音はちょっと注意が必要です。第1章「フランス語は、読めれば、できる」でいったように、s は母音に挟まれると「ズ」の音に濁り、さらに語尾がすこし伸びて「モヴェーズ」となります。

 

 ちょっと面倒なのは、beau(美しい)で、女性形はがらりと変わってbelle となります。発音は原則どおり「ベル」となります。

 ジャン・コクトーの映画やディズニーのアニメで有名な『美女と野獣』のヒロインは「ベル」という名で呼ばれていますが、このフランス語の綴りは Belle で、これは beau の女性形、つまり「美女」という意味なのです。

 また、形容詞のなかには、例えば facile(ファスィル、「簡単な」の意)とか difficile(ディフィスィル、「難しい」の意)のように、語尾が e で終わるものもあります。こういう場合は、男性形と女性形の区別がなく、そのまま両方に使います。

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「ヌーヴェル・ヴァーグ」は新しい波。同じ「新しい」なのに形も語順も変わるのは何故? 形容詞の不思議について、さらに詳しく知りたい方は幻冬舎新書『世界一簡単なフランス語の本』をご覧ください。

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中条省平『世界一簡単なフランス語の本』

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