「歳を重ねて、びっくりするほどおしゃれが自由に、楽しくなった」
そう語る、第一線を走り続けたファッションエッセイスト・光野桃さん。新刊、『白いシャツは、白髪になるまで待って』には、毎日使えるおしゃれのヒントを詰め込みました。一部を抜粋してご紹介します。

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肌が震えるほどの
質感を味わう

 デザインより質感優先。似合うものがわからなくなったら、そう発想を切り替える。まず、肌が震えるほどの心地よい質感を体験してみよう。
 たとえば、真夏以外はカシミアを着る。その下には、オーガニックコットンのタンクトップやインナーTシャツ。暑くなったら、さっぱりと、肌にまといつかない目のつんだ麻。秋から冬は上等のウールで手編みされたソックス──。質のいい物は安価ではないけれど、数はいらない。各シーズン、二枚でいい。
 好きな素材の大判ストールが見つかったら、一年中使おう。肩に巻くだけではなく、ただ手に持つだけでアクセントになるし、手肌に心地よさをいつも感じていられる。カシミアのストールなら外出するときだけではもったいない。ベッドに持ち込み、なめらかな肌触りの中に裸で巻き込まれる瞬間の解放感を味わっても、罰はあたらないだろう。

 

デニムを死ぬまで着る

 歳を重ねたひとのデニムとして、ピシッと張りのある生地とデザインを選びたい。たとえば、ハイウエストでややワイドなシルエットのもの。脚と生地の間にゆとりがあり、足の形を感じさせないもの。ダメージや褪せた色は避け、こっくりと濃いインディゴブルーを、いつも新品のような感じで着る。
 ワイドパンツを穿くときは、コートと合わせると着こなしやすい。気になるヒップやウエストがカバーされるし、コートの裾から覗くパンツの分量が少なめだから失敗がない。そして、縦のシルエットを自然につくることができる。
 トレンチコートや麻のスプリングコートとデニムは相性がいい。スタンダードなコートの「真面目」さを、ホッと息抜きさせてくれる。だから、質のいいアウターと組み合わせてこそ生きるわけで、若い頃のカジュアルなデニムとは役割が違う。もはや「難しいおしゃれ」の範疇に入るのだと思う。
 着こなしが難しくても流行に左右されても、デニムはやっぱり手放せない。いくつまで着るかと問われたら、死ぬまで、と答えたい。デニムが似合う条件は、健やかであること。
 身も心も、死ぬまでデニムでおしゃれ筋を鍛えよう。

 気に入った質感を肌に覚えさせ、肌が深く息づくのを感じてみる。軽く、優しく、やわらかい。そんな質感の快楽こそ、いまわたしたちに必要な、おしゃれの醍醐味なのだ。

刊行を記念して、6月2日に日比谷コテージでトーク&サインイベントを行います。整理券に限りがありますので、ご予約はお早めに!

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光野桃『白いシャツは、白髪になるまで待って』

できないことを許し、できることを楽しみ尽くす。
第一線を走り続けたファッションエッセイストによる、年齢を重ねてからの、毎日使える「おしゃれ」のヒント80。