ここに一枚の写真がある。まずは見てほしい。

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出典:坂本旬氏FIJシンポジウム配布資料

 

「『福島原発花』というタイトルで写真共有サイトに掲載されたものです。『何もいう必要はありません。花の生育が原発の影響を受けるとこのようになります』と書かれています。この写真は原発の影響を証明していると思いますか」

 みなさんは、どう思うだろうか。

 これは、2015~16年にかけて、スタンフォード大学の研究グループが調査研究のために米国内の高校生に対して提示したものだ。

 170人のうち8割が「福島第一原発近くの状況を示す強い証拠となる」と回答。そのうち4割は「写真があることが強い証拠だ」と答えたという。

 ところが、この写真はただ単に「ネットに出回っているだけ」のもの。質問では、その「ネットに出回っている写真」の出展も真偽も明らかにされていない。「福島原発花」などというのは完全なるデマなのである。

 同じような花は世界中に咲いている。

(C) Perduejn 米国アイダホ州アイランドパークにて、2010年6月21日撮影

 

 ダリ的世界観に一瞬ギョッとするが、これは植物にはよくある「帯化」と呼ばれる現象で、遺伝的な原因、細菌の感染、花粉の受粉量不足などで生じるものであり、800種以上の植物で起きるという。

 花だけでなく、種子や果実にも起きる。イチゴが2つ3つ合わさって大きな実になっている姿には馴染みがあると思う。あれは「うれしい帯化」だ。

 特に放射能の影響でもなんでもないのである。

 しかし、写真の威力は大きく、「どこで、いつ、だれが撮影した写真なのか」という前提条件が欠けているにも関わらず、最初のインパクトで判断力が持っていかれてしまうのだ。調査を行ったスタンフォード大学のサム・ワインバーグ教授は「数字や統計も鵜呑みにし、意図を疑わずに信じてしまう傾向がある」という。高校生に限らず、人間の心理の隙を利用される一例だろう。

 しかし、インターネット上では次から次へとこの手のフェイクが襲い掛かってくる。騙されないためには、どうすればよいのか。

鵜呑みに注意!

 4月22日(日)午後、早稲田大学にて日本初の「ファクトチェック(真偽検証)」専門のNPO法人ファクトチェック・イニシアティブ(FIJ)主催のシンポジウムが行われた。

 講演を行った情報リテラシー教育専門の坂本旬法政大学教授は、この「福島原発花写真」の実験について触れた。

 出典が明らかでない写真やデータの「鵜呑み」は、日本でも深刻であるようだ。

 スタンフォード大と同様の調査を学生50人に対して行ったところ、「福島第一原発近くの状況を示す強い証拠となるか」という問いに、「はい」と答えた学生が3割弱。「いいえ」が3割強。「わからない」は4割という結果になった。

 高校生よりは慎重な感覚が見てとれるが、投稿元を確認して存在を疑った学生はたった1人だけだったという。

 特に、フェイスブックなどのソーシャルメディアに流れる広告は巧妙化している。「なにもかも疑え」とまで言ってしまうと、重要な情報すら目にとめなくなるニヒリズムに陥る怖さが待っているように感じるが、「鵜呑みにせずに、よく観察したほうがよい」「無批判に受け入れないほうがよい」などの訓練は必要な時代かもしれない。

情報検索のプロ、図書館に学べ!

「フェイクニュース」には、プロパガンダ、クリック広告、スポンサー付きコンテンツ(いわゆる記事広告)、陰謀論、誤情報、デマなどがある。特に米国では2016年の大統領選後、教育現場でのフェイクニュース対策が論じられるようになるとともに、10代の多くが「スポンサー付きコンテンツ」と「ニュース」を見分けることができないという現状が明らかになっているようだ。

 坂本教授は、若者への教育として、「図書館」の力を借りて対策していくという方法を提案し、図書館司書課程・司書教諭課程の授業の一部にファクトチェック実習を取り入れているという。図書館は、情報検索と収集のプロ。しかも、どの学校にもあるものだ。活用しない手はないだろう。

 米国ではすでに、メディア・リテラシー教育の一形態として、大学図書館や学校図書館が中心となり、学生を集めたワークショップなどに取り組んでいるケースがあるという。

 図書館の書架には、「自分が読みたいタイトル」だけでなく、関連書が視界に入る範囲にずらりと並んでいる。「信じたい話」「たまたま目に飛び込んできた衝撃情報」だけに飲み込まれがちなネットの世界とは対極の場所でもある。

 学校教育現場でのフェイクニュース対策に、情報検索・収集のプロ「図書館」で対抗する。希望が見えた。

 シンポジウムでは、ほかにも国内外の深刻なフェイクニュース問題とその対処法について報告された。追ってレポートする。

 

※この連載は、毎月11日、26日公開予定です。

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