7月13日(金)、東京・上野の国立科学博物館で初の昆虫展示となる特別展「昆虫」がスタート。これを記念して、特別展の監修者である昆虫学者・丸山宗利さんが今年4月にケニアに行った際の採集旅行記をリバイバル掲載します。

 昆虫を愛するがゆえ、昆虫に苦しめられる丸山さんの採集旅行の様子がオールカラーで読める幻冬舎新書『カラー版 昆虫こわい』の番外編としてお楽しみください。今回はケニア到着9日目。毎日たくさんの面白い虫に出会うものの、目当てであるテンシツノゼミ Xiphopoeus がなかなか見つけられない丸山さん。本日は少し作戦を変えることにしましたが……!?

マクタウにて、シロアリの塚に立つ丸山宗利さん。

これまでに採ったことのないツノゼミに遭遇  

 4月18日。今日はタイタ高原で調査できる最終日である。ツノゼミがあまりにも見つからないので、今日はアカシアの木を標的として、あちこちを徹底的に探すことにする。

 朝一番でペルシャジュウタンの生えているサバンナへ行き、アカシアの木を見て回る。これまではテンシツノゼミの寄主であるマメ科のつる植物を見て回っていたが、あまりにも収穫がないので、アカシアに切り替えるというわけである。

 30分ほど枝先を凝視しながら歩くと、ようやく小さなツノゼミの姿を見つけた。アカシアにいるツノゼミは限られ、ありふれたものしかいないと思っていたが、これまでに採ったことのないユミセツノゼミ属 Tricoceps の一種で、思わぬ収穫であった。

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ユミセツノゼミ。

 以前に西アフリカのカメルーンでキク科の植物から同属種を採ったことがあるが、形が似ているだけで、寄主植物も違うし、他人の空似ではないかと思った。つまり同属のようで別物ではないかと。ツノゼミは角の形態ばかりに着目されて分類されていることが多く、似たような問題がたくさんある。遺伝子でこれから調べたい。

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思わぬ成果ににんまりの私。

 また、数箇所でアカシアの花が咲いており、たくさんのハナムグリが群がっていた。大部分は緑色の金属光沢に白い筋模様の入ったモンツヤハナムグリだが、黄色いヒストリオキヌツヤメンガタハナムグリが転々と混じっている。

 

 

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モンツヤハナムグリ。

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ヒストリオキヌツヤメンガタハナムグリ。

 しかし、アカシアの枝は棘が多く、網を使うのが難しい。間違えて引っ掛けてしまうと、振動に驚いてみんな飛んでいってしまう。なんとか数頭を捕まえた。

 

 珍しいツノゼミに気を良くして、別のアカシア林にも行ってみるが、同じツノゼミしかいなかった。それでも嬉しい。

 その後、マクタウに行く。途中、シロアリの塚の上にオオトカゲが乗って日向ぼっこをしていた

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シロアリの塚で見かけたノドジロオオトカゲ。

 ここはシロアリの塚が多く、昨年は1日がかりでいくつかの巣を掘って、シロアリと共生している甲虫を採集した。

 とにかく広大な平原が広がり、周辺の環境がよくわからないので、シロアリの塚に登ってあたりを見回す。アカシアがほとんどなく、別の植物で探すが、なかなかツノゼミは見つからない。

 また、ここでもガガイモ亜科多肉植物を見つけたCaralluma priogonium という珍しい種だ。茎の模様は美しいし、小さいながら花も面白い形をしている。花には小さなハエが集まっていた。

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ガガイモ亜科多肉植物 Caralluma priogonium。。

 ある種の植物はシャチホコガ科と思われるイモムシの食害でほとんどが丸坊主になっていた。たまたま枝に静止する羽化直後の成虫を見かけたが、とても美しいガだった。

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シャチホコガの一種。

 

 結局ツノゼミは見つからなかった。サバンナのような環境では、灯火採集では遠くからいろいろな虫が引き寄せられるが、虫の密度は基本的に低く、昼間に虫を探すのはなかなか難しい。夜に歩いていてよく見つかるのも、地面が開けていて探しやすいからなのだろう。


おそらく世界初! 珍しい甲虫の生体写真が撮れた

 夕飯はいつものヤギ肉だ。ヤギというと一般に臭い肉という印象があるが、ケニアのヤギ料理は臭くない。やわらかくて味があり、ケニアではむしろ牛肉よりずっと美味しいし、高級である。

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ヤギの煮込み。

 ケニアのこういった料理は、ウガリというトウモロコシの粉をお湯で練ったものか、ご飯か、ジャガイモか、チャパティというパンケーキと一緒に食べる。

 庶民向けのお店は安く、だいたい1食あたり150円から200円でおさまる。300円以上だと少々高級な印象である。この料理も150円ほどだ。


 

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チャパティを焼く女の人。

 今日はタイタ高原の最終日なので、灯火採集に気合を入れる。原理としては光をつけて虫を集めるだけなのだが、場所選びはかなりの高度な技術である。場合によっては数メートルずれるだけで大きく成果が変わってくるほどだ。

 チャボとグーグルマップを見て、良さそうな環境を探し、サバンナと疎林(そりん)の境目で、絶妙に見晴らしの良い場所を見つけた。ネットを駆使して採集地を探す方法を昔の人が知ったら驚くだろう。薄暮から点灯を開始する。夕日が美しい。

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夕日と灯火採集。

 結果として、今日の灯火採集もかなりの虫が集まった。灯火採集の場所選びは間違っていなかったのである

 モミガラコガネ属 Sybax のなかまも来たし、また別のヒゲブトオサムシ属 Paussus の一種、巨大でかっこいいムネアカセンチコガネのなかま Bolbaffer もやってきた。

 

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ヒゲブトオサムシの一種。

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ムネアカセンチコガネのなかま。

 一番嬉しかったのは、ケヅメコガネ Stiptocnemis の一種で、生態は不明だが、シロアリやアリとの共生関係が推測されるものである。後脚の跗節(ふせつ)に毛束があり、シロアリやアリとの共生にあたってそこから分泌物を出すのではないかと思っている。生体の写真はこれが世界初だろう。

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おそらく世界初、ケヅメコガネの一種を写した生体写真。

 明日は別の調査地へ移動である。タイタ高原では、ツノゼミこそ多くはなかったが、虫が全体に多く、雨季のサバンナでの昆虫採集を満喫することができた。

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