7月13日(金)、東京・上野の国立科学博物館で初の昆虫展示となる特別展「昆虫」がスタート。これを記念して、特別展の監修者である昆虫学者・丸山宗利さんが今年4月にケニアに行った際の採集旅行記をリバイバル掲載します。

 昆虫を愛するがゆえ、昆虫に苦しめられる丸山さんの採集旅行の様子がオールカラーで読める幻冬舎新書『カラー版 昆虫こわい』の番外編としてお楽しみください。今回はケニア到着8日目。どんな美虫、珍虫が待ち受けているのでしょうか!?

ケニアにて採集旅行中の丸山宗利さん(写真右)と柿添翔太郎さん(通称チャボ)。

アフリカゾウの糞だけを食べる虫 

 4月17日はタイタ-ルモ野生生物保護区へ糞虫とツノゼミを探しに行く日だ。その前に、昨日のペルシャジュウタンの花がもう一度見たくて、朝一番でその場所に寄ってもらった。やはり美しい。ため息が出る。朝のやわらかい光で良い感じに撮影できた。

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ペルシャジュウタンの花(拡大)。

 10時ごろに野生生物保護区へ到着。ここはあるホテルが管理している。マネージャーと交渉し、入場料をまけてもらい、レンジャーを乗せてサバンナへ入ることになった。

 昨年もここを訪れ、その際にはライオンやアフリカゾウを見たり、野生動物の糞から大量の糞虫を採集したりした。

 ところが、車で保護区をまわるも、なかなか動物が見つからない。インパラなどの普通種が散見される程度である。

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保護区にいたインパラ。

 レンジャーによると、雨が多いため、保護区内のどこも餌が豊富で、動物が散り散りになってしまったという。

 風景だけはすばらしく、点々とアカシアの生えるサバンナがどこまでも続いている。

 

 

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保護区内のサバンナにて。私(写真右)とチャボ。

 そこで、同じく昨年訪れたときに、ゾウの糞から糞虫を採集できたホテルの庭に行くことにする。ここはサバンナを見下ろす場所に位置し、池を併設していることから、乾季には水をもとめてさまざまな動物がやってくる。しかし、やはりここも糞が少ない。

 ただ、ホテルの庭には夜になると電灯がつくようで、それが池の上にあるものだから、水面にたくさんの虫が落ちている。巨大なナンバンダイコクコガネやタマオシコガネなど、非常に数が多い。やがて死んで捨てられる運命にあるので、できるだけ採集することにした。

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採集に夢中の我々。

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採集した大型の糞虫。大きいのがナンバンダイコクコガネ。

 さらに、その電灯の下を見ると無数のマグソコガネが落ちている。マグソコガネを専門としているチャボは大喜び。夢中で採集する。

 私はナンバンダイコクを中心に、大きな糞虫を採集することにした。これがものすごく楽しい。ナンバンダイコクコガネはアフリカゾウの糞を専門に食べる糞虫である。日本のカブトムシよりずっと大きく、ずっしりしている。

 また、2人ともかねてより採集したかったモミガラコガネ属 Sybax のなかまが嬉しい収穫だった。生態は不明だが、アリかシロアリとの共生関係が疑われるなかまである。チャボの研究にきわめて重要な属でもある。

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モミガラコガネのなかま。

 結局、チャボは膨大な数のマグソコガネを採集し、私もついでにいろいろ採集し、大成功の採集となった。

 

 その後も保護区内を見て回るが、美しいヘビクイワシを見つけた程度で、他にめぼしい動物はいなかった。ツノゼミがいそうな木もあまりなかった。

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美しいヘビクイワシ。

 夜もここで灯火採集をすることにして、一度近くの町に行って、夕飯を食べる。鶏肉の煮込みが出てきたが、成熟した大型のニワトリの肉で、恐ろしく硬い。しかし味は良い。そのへんを歩いて虫を食べているニワトリで、本来の鶏肉の味とはこういうものなのだろう。

 

ライオンの潜むサバンナで出会った珍虫

 夜は保護区内にある池のほとりで灯火採集をすることにする。ここは付近に小屋があり、ライオンが来たときに逃げ込めるようになっている。

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保護区内での灯火採集の様子。

 到着した頃にはすでに暗くなっており、点灯直後から多数の虫が集まり始めた。

 嬉しかったのはヒゲブトオサムシである。私が一番好きな昆虫のなかまで、この日は4種も飛んできた。アリの巣に住み、太い触角からアリの好む匂いを出してアリにうけいれられている。この触角が格別にかっこいいのだ。

 

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オオヒゲブトオサムシの一種。

 これまで採集したことのなかった大型のオオヒゲブトオサムシ属 Cerapterus の一種や大型のヒゲブトオサムシ属 Paussus の一種が特に嬉しかった。チャボは珍しいマグソコガネをたくさん採集していた。

 

 

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ヒゲブトオサムシの一種。

 今日も膨大な数の虫が飛来したが、残念ながらツノゼミは来なかった。明日はどうにかがんばりたい。

 灯火採集からの帰りに保護区入り口の電灯でいろいろな糞虫を拾って帰った。眼の前でオオミミギツネやマングースのなかまが糞虫を食べており、これらの動物との取り合いである。付近には膨大な数の死体が落ちている。それにしても毎晩無数の虫を集めて殺す電灯は罪深い。日本の山間部の自販機やコンビニの明かりも同じことである。(今回はおかげで大量の虫が採れたのだが。)

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