虫を愛するがゆえ、虫に苦しめられる昆虫学者・丸山宗利さんの採集旅行の様子がオールカラーで楽しめる幻冬舎新書『カラー版 昆虫こわい』は発売以来大きな反響を呼んでいます。ここでは「昆虫こわい・特別編」として、今まさにケニアへ採集旅行中の丸山さんからのリアルなレポートを連載でお届けします。今回はケニア到着6日目。虫が好む湿潤な空気を感じ、期待に胸がふくらむ丸山さん。果たして本日の成果は!?

ケニアにて採集旅行中の丸山宗利さん。

ケニアの風景からゴミ袋が消えた理由

 今日は4月15日。移動の日である。朝8時にナイロビ市内のホテルに迎えに来てもらい、タイタ高原へと向かう。今日からはケニア国立博物館のラバンも合流し、調査の本番開始である。昨年は6月下旬にタイタ高原を訪れたので、2ヶ月以上時期が違う。昨年は雨季が完全に終わっており、本格的な乾季に向けて木々が葉を落とし始めていた頃で、当然虫はあまり見つからなかった。今はマリガットでの手応えからして時季的に間違いなさそうだ。たくさんの虫との出会いを期待して出発する。

 ところで、前回と今回で、ケニアの風景に大きな変化があった。昨年までは、車窓からアカシアの木々に引っかかるビニール袋がとても気になった。しかし、今年はそれが消え、とても気持ちの良い景色に変わったのである。それには理由がある。ケニアでは今年から30ミクロン以下の厚さの包装用ビニール袋、つまりスーパーのビニール袋の使用を法律で禁止したのである。国内の使用禁止どころか国外からの持ち込み禁止という徹底ぶりだ。日本では考えられない過激ともいえる政策だが、見習うべきところは多い。たしかに風景からビニール袋の残骸は消えたし、人々はエコバッグを使っている

 出発から8時間でタイタ高原のウンダニーイに到着した。車窓から見る景色は、昨年と異なって青々としており、いかにも湿潤で良い感じである。ただ、常に風が強く、ホテルに着く途中で数本の倒木が道をふさいでおり、現地の人たちが木を切って道をあけてくれていた。

写真を拡大
ホテル付近にいたカメレオン。

 ホテルに着いたら、昨年と同じ木にカメレオンがいた。ここは孤立した山で、固有種が多い。このカメレオンもその一つである。

 ホテルに荷物を置き、早速、灯火採集に出かけることにする。少し標高の低い場所に下り、アカシア林に囲まれた集落のなかで水銀灯を点灯したが、あいにくの小雨で気温が低い。しかも風が強く、ほとんど虫が来なかった。出鼻をくじかれた思いがしたが、天候ばかりは仕方がない。

写真を拡大
倒木で道がふさがれていた。

 帰り道、また別の場所で大きな倒木が道路をふさいでいた。しかも数分以内に倒れたばかりで、一歩間違えば危ないところだった。迂回路もなく、どうしようかと相談した結果、「ここは手伝って木を切るしかない」ということで、運転手のケンが大活躍し、数十分で車が通れるだけの木を取り除くことができた。

美しすぎる多肉植物「ペルシャジュウタン」

 4月16日。今朝は標高の低い森をまわる予定だったのだが、車からガソリンが漏れており、それを直してからということになった。修理中は高地にあるンガンガオの森で少し調査してほしいとのことである。

 その前に森林局へ挨拶に行ったのだが、その際に再びケンが車を診ると、なぜかタンクの穴がふさがり、燃料漏れが直っていた。しかし、せっかく高いところに行くことにしたので、ンガンガオで少しだけ調査することにした。

写真を拡大
フトオビメンガタハナムグリ。

 昨年、ここではツノゼミが採れたので、木の新芽を見てまわる。しかし、猛烈な風が吹いており、枝先にツノゼミが静止することができないためか、なかなか見つからない。結局、1時間半ほど歩き回り、2種2頭を得たのみだった。しかし、昨年見つからなかったフトオビメンガタハナムグリやドクバッタなどがいて楽しい。

 

写真を拡大
ドクバッタ。

 それから高原を少し下り、中腹のムワチャンワザを歩くことにする。テンシツノゼミの寄主植物もあり、期待したが、目立った成果はなかった。しかし、トゲトゲギスというかっこいいキリギリスの仲間が嬉しかった。

 

 

写真を拡大
トゲトゲギス。

 実は今回、タイタ高原周辺で行きたい場所があった。昨年、シロアリの巣を掘った場所で、Edithcolea grandis というガガイモ亜科多肉植物を見つけたのだが、そのときは果実の季節で、花が咲いていなかった。この種は特別にすごい花を咲かせることで有名で、いつか野生の花を見たいと思っていた。前回見つけた時季から差し引いて、今は花の時期かもしれないのである。

 車を止めてもらい、花を探す。残念ながら時季が過ぎているようで、ほとんどの株で小さな果実を付け始めていた。しかし、しつこく探してみると、ようやく開花株が見つかった。

写真を拡大
ペルシャジュウタンの花。

 初めて見る花は予想以上に美しかった。しかも大きく、直径15センチほどある。英語では「ペルシャ絨毯の花」というが、まさにそんな雰囲気である。和名をつけるとしたら「ペルシャジュウタン」がいいだろう。とにかく憧れの花で、しかも期待を裏切らない美しさに感動した。気持ちがとろけるような魅力にあふれている。生きていてよかった。

 

写真を拡大
フトタマムシの一種。

 私が花を探している間、チャボは美しいフトタマムシの一種 Sternocera castanea を採集していた。これはこれでとてもうらやましい。

 

 

 

南部鉄器みたいな模様の甲虫に遭遇

写真を拡大
ドウガネタマオシコガネの一種。

 夕食後に灯火採集をすることになり、再び移動する。途中、明日訪れる予定の保護区へ挨拶に行くことになり、車道から草原に入るが、車窓からドウガネタマオシコガネ属 Kheper の一種が糞を転がしているのが目に入った。あわてて車を降りて撮影する。すでに日が傾きかけていて、夕日に輝く姿が美しい。

 ところが、写真を撮っていたら、保護区のレンジャーの車が通りかかり、ライオンがいるから車から降りるなと叱られてしまった。保護区への挨拶はうまくいき、明日は無事に調査できる運びとなった。

 マクタウという町に移動し、昨年も訪れた道に入る。まっすぐな道が続くすばらしい景色で、昨年は枯れ草で全体に茶色がかった景色だったが、今は青々としていて全然違う。

写真を拡大
マウタウの道。

写真を拡大
昨年撮影した、同じマウタウの道。

 近くの食堂でヤギの煮込みを食べた後、灯火採集を開始する。

写真を拡大
ムネアカセンチコガネ。

 水銀灯をつけると、すぐにムネアカセンチコガネが飛来した。丸々として可愛らしい甲虫で、アフリカ産種の生態は不明だが、地中のキノコを食べている可能性が高い

 

 

 

写真を拡大
ゴミムシダマシの一種。

 灯火採集の息抜きに周辺を歩きまわると、道路の砂の上にさまざまな砂漠性の昆虫が見つかって面白い。一番多いのはゴミムシダマシや糞虫のなかまである。このゴミムシダマシは南部鉄器のような彫刻がかっこいい

 

 

写真を拡大
ヒヨケムシの一種。

 また、あちこちで巨大なヒヨケムシを見つけた。クモに近いが日本には生息しない生物で、なんとも不気味な姿をしている。ここで見つかるのは特に巨大で恐ろしげである。

 灯火採集は大成功で、昨年の10倍以上の数と種類の虫が飛来した。これは明日も期待できそうだ。

 

 

本日はここまで。丸山さんの旅はまだまだ続きます。
次回記事は明日4月22日日曜日公開予定です。

笑いと涙の世界採集旅行記『カラー版 昆虫こわい』好評発売中!

この記事をシェア
この連載のすべての記事を見る

★がついた記事は無料会員限定

丸山宗利『カラー版 昆虫こわい』

体長わずか数ミリメートルの昆虫を求めて、アマゾンの密林や広大なサバンナへと世界を旅する著者は数々の恐ろしい目に遭ってきた。ペルーでは深夜の森で、帰り道の目印に置いた紙片をアリに運ばれ遭難しかけたり、カメルーンではかわいい顔したハエに刺されて死の病に怯えたり、ギアナでの虫採りが楽しすぎて不眠症になったり……。「昆虫こわい」と半ば本気で、半ば興奮を戒めるためにつぶやく著者の旅を追ううちに、虫の驚くべき生態や知られざる調査の実態がわかる、笑いと涙の昆虫旅行記。

丸山宗利『きらめく甲虫』

こんな色合い見たことない!想像を超えた、生きる宝石200。ベストセラー『昆虫はすごい』著者による最新写真集!まるで銀細工のようなプラチナコガネ、日本の伝統紋様さながらに多様な柄をもつカタゾウムシ、虹色の輝きが美しいアトバゴミムシ……。硬くて強そうな見かけの甲虫はそのかっこよさで人気があるが、本書では甲虫の中でもとくに金属光沢が美しいもの、珍しい模様を背負っているもの、色合いが芸術的なものを厳選して紹介してゆく。

丸山宗利『ツノゼミ ありえない虫』

奇想天外、ユニークすぎる形を特殊撮影法で克明に再現! 世にもフシギなかたちの昆虫「ツノゼミ」を138種類掲載した、日本ではじめてのツノゼミの本です。ツノゼミとはいってもセミではなく、カメムシ目に属する昆虫です。体長2ミリ~25ミリほどの小さな虫ながら、ツノのかたちをさまざまに進化させていて、まるで空想の世界のような姿をしています。本書では深度合成写真撮影法で撮影しているため、すべての部分にピントがあった写真を掲載。面白い姿をすみずみまで楽しめる一冊です。