4月初めのサンケイスポーツを見て、私は目を疑った。最終面を埋めた「フライボール革命」という特集である。

 打撃の基本は強いゴロやライナーを打つことだが、あえてフライで長打を狙う「フライボール革命」が日本でも旋風を起こしつつあるという。

 特集によると、「フライボール革命」は昨年、米大リーグで球団史上初の世界一になったアストロズが導入した打撃理論だが、日本でもスポーツのデータを収集、分析する企業の調査結果で、この革命的な理論が証明された。

「数字やデータを掘り下げ『真実』を探る 科学特捜隊」というカットがついた特集には「ボールを『上からたたく』はもう古い」という大見出しが躍り、「フライ率(フェアゾーンに飛んだ全打球に占めるフライの割合)が打撃成績に影響」という縦見出しもついている。

 当然、本文では、特集のテーマを裏づける根拠を説明している。

 たとえば、あの天井を向いてバットを振り抜くアッパースイングの柳田悠岐(ソフトバンク)は、昨年からフライを打つ意識を高め、フライ率が2016年の36.6%から51.8%に急上昇。その結果、打率は.306から.310に、ホームランも18本から31本に増えたという。

 同じ理屈で、長距離ヒッターではない西武の金子侑司も、フライ率が2016年の27.7%から39.6%に上がったら、打率は.265から.272に、本塁打も1本から5本に増えた。

 逆のケースも紹介している。ヤクルトの山田哲人はフライ率が56.5%から52.4%に落ちたことで打率が.304から.247に低下し、本塁打は38本から24本に激減した。

 そしてDeNAの筒香嘉智も、フライ率が59.8%から52.4%に下がり、打率は.322から.284に、本塁打も44本から28本と、成績が急降下した。

 たしかに野球のデータは事実であり、データ分析は尊重しなければならない。

 しかし、特集でとりあげた実例はほんの一部で、フライ率と打率や本塁打数の因果関係は証明されていない。ニワトリが先か、卵が先なのか。

 第一、柳田、山田、筒香らの打撃成績のアップダウンには、調子の波や体調など、それぞれに個別の事情や理由があるはずだ。フライが増えたから、減ったからという単純な話ではない。

 柳田は極端なアッパースイングでもよく打つが、あれは彼独特のスイングで、決してまねをしてはいけない。もし彼がレベルスイングに直したら、ヒットもホームランも、もっと打てると私は思う。

 投手が投げる球も打球も、回転(スピン)が速いほどホップする。つまり投球も打球も、手前で上から下に強いスピンを与えれば、空気抵抗に乗って浮力がついて伸びるのだ。

 ところが、打者がフライを打とうとすれば、バットが下から出てアッパースイングになることが多い。これでは打球を伸ばすスピンをかけるのは難しいし、高めの球はどうやって打つのか。

 特集では「打撃の常識とされてきた『上から強くたたく』『転がせば何かが起きる』という考え方は、過去のものになろうとしている」という。しかし、いわゆる「ダウンスイング」というのは上から下にたたき落とすのではない。

 基本である水平に振れる選手がいないから、構えたトップからミートポイントまで最短距離でまっすぐバットを振り出すということだ。

 

世界記録868本をたたき出した、王のダウンスイング

 私も巨人で一緒にプレーした王貞治は、ネクストバッターズサークルに入ると、2、3歩歩くようにして縦振りをした。一見、大根切りに見えるので、担当記者が理由を聞くと、「素振りで極端な縦振りを体に覚えこませておけば、打席でボールを打つときにちょうどレベルスイングができる。素振りで水平に振っていたら、本番ではアッパースイングになる。人間の体なんて、そんなものだよ」といった。

 バットを水平に振るということは、ウェイト、つまり頭が後ろ(捕手側)に残らない。重心が体の真ん中にあるスイングをすれば、頭(ウェイト)が後ろに残らないのだ。

 ところが、バットが下から上に抜けるアッパースイングの場合、右打者なら右の腰が下がって左側の腰が高くなる。これではレベルスイングのようにボールにスピンをかけて強い打球を飛ばすことは難しく、バットの芯に当たる率も低い。

 王が荒川博コーチと一本足打法に取り組んだとき、毎晩足の指が裂けるほど素振りをし、日本刀で濡れたワラの束を斜めに切り下げる練習もした。こうして完成した打法が、構えたところからミートポイントまで一直線に振り抜くダウンスイングであり、「フライボール革命」とやらのアッパースイングとは違う。

 

打撃の基本はセンター返し

 私が若いころ、巨人の大先輩・青田昇さんから「ヒロよ、打撃の基本はセンター返しだ」と教えられた。打率.314、15本塁打で新人王になった私は当時、長打の魅力にとりつかれて青田さんの教えを軽く考えていた。あのころ「センター返し」の真意を悟っていたら、私の打撃成績はもっとよくなっていただろう。

 史上唯一、三冠王3度の落合博満も「バッティングの基本はセンター返し」と、以下のように著書に書いている。

「基本であるコンパクトなスイングを考えた場合、トップの位置からミートポイントへバットを一直線に振り出すのがいい。(1)バットを振り抜く理想的な方向はセンター。(2)トップの位置を深く取り、そこからミートポイントまで一直線に振り出し、フォロースルーはできるだけ大きく取る」

「これは大振りとは違う。大振りとは、トップの位置からミートポイントまでの軌道が定まらないこと。つまりミートポイントまでが一直線でなく、単に遠回りしているスイングを指す。

 トップの位置からミートポイントに一直線に振り出すスイングを身につければ、スイングのスピードは速くなり、体の小さな打者でも強く鋭い打球、距離の出る打球が打ち返せるはずだ。

 大は小を兼ねる。体が小さな選手でも、トップの位置はできるだけ深く、柔らかく、スイングの弧は大きく描くこと」

 ホームランの世界記録868本を放ち、2度三冠王になった王と、3度の三冠王を達成した落合が身につけた打撃の基本は、フライで長打を狙う「フライ打法」とは真逆である。

 シーズン最多のホームラン記録(当時)である55本を放ったとき、王は担当記者のインタビューに答えている。

「狙って打ったホームランは1本もない。2ストライクまでは真ん中直球を待ち、ライナー性のいい当たりだけを心がけて打った。そのうちの、いい角度で上がった打球がホームランになっただけだよ」

 

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