現代物理学の未解決問題を楽しく紹介した最新刊『言ってはいけない宇宙論 物理学7大タブー』(幻冬舎新書)が話題を呼んでいる小谷太郎さん。今回は、X線天文学者で元NASA研究員でもある小谷太郎さんと、日本SF大賞を受賞した『オービタル・クラウド』や、『公正的戦闘規範』(ともにハヤカワJA文庫)などの著作で知られる人気SF作家・藤井太洋さんの対談の様子をお届けする第2回です。多元宇宙論について、小谷さんは『言ってはいけない宇宙論』で「検証不可能だ」としてやや否定的な見方を述べていますが、藤井さんはそれを検証できる可能性を思いついたといいます。果たしてその方法とは?(構成:荒舩良孝)

小谷太郎さん(左)と藤井太洋さん(右)。

10の500乗もの多次元宇宙が存在している!?

小谷 物理学は理論と実験に大きく分かれますが、理論家はバランスがすごく難しいと思います。現在存在している科学やテクノロジーばかり見るとあまり飛躍できず、おもしろみに欠けてしまいます。しかし、飛躍しすぎるとうそになってしまいます。

藤井 フィクションで作家が書く理論と、科学者たちが打ち立ててくる理論は、厳然と違いがありますね。一番の違いは反証可能かどうかでしょう。これはまるで違いますね。作家が書くものは反証しようがないものが多いです。

小谷 でも、最近はそうとばかりも言えません。現在、宇宙論では、量子重力理論の構築が急がれています。この分野では、常識では考えられないような理論を唱える人もいます。量子重力理論の候補の1つである超ひも理論では、この世界が11次元であると言っています。これだけでも十分、びっくりすることですが、11次元論者はさらに、この世界には10の500乗もの多次元宇宙が存在しているといいます。そこでは物理定数も違うのですが、それを確かめる方法はありません。

藤井 検証もできなければ、反証が可能な理論でもないということですね。人間原理も検証ができませんよね。

小谷 多元宇宙はいろいろな人がいろいろな説を唱えていますが、その中で有名なのが、『言ってはいけない宇宙論』でも扱っているヒュー・エヴェレット三世の多世界解釈です。多世界解釈は、簡単にいうと、量子的な物体を観測すると、その度に観測結果がAと出た世界と観測結果がBの世界に分裂していくというものです。この説が本当だとすると、世界、つまり宇宙はものすごい勢いで分裂して、10の500乗よりもたくさんあることになります。

ワームホールを使って多元宇宙を証明できないか

藤井 私は、多元宇宙論は、ごくわずかな可能性ですが、検証できるのではないかと思っています。

小谷 そうですか。

藤井 ワームホール(時空の中のある場所から、遠く離れた別の場所へとつながるトンネルのようなもの)に相当する粒子を、もし、加速器の中で光速に近い速度まで加速することできれば可能なのではないかと思います。ワームホールの片方だけを加速器で加速すると、一方だけ時間が進み、もう片方はあまり進んでいないというように、経過した時間の差をつくり出すことができます

小谷 キップ・ソーンの提唱した、ワームホールを用いるタイムマシンのアイディアですね。

藤井 そうです。

小谷 おもしろいですね。

藤井 このようなタイムマシンをつくると、片方のワームホールで時間が進むことで、それまでの間で分岐したであろうどこかの宇宙と情報が行き来することになるので、それをつかえば多元宇宙が存在するという可能性を示すことができると思うのです。

小谷 エヴェレットの多世界解釈による多元宇宙は、その存在すら調べる方法がまったくなく、普通に考えると検証不可能です。でも、ワームホールを使ってタイムマシンをつくるわけですね。理論的に考えると、そのタイムマシンでは、時間が進んでたくさん分裂した多元宇宙の1つから戻ってくることになります。そういうものができれば、多元宇宙が正しいかどうかを確かめる実験ができそうな気がしますね。

藤井 ちなみに私の短編小説「ノーパラドクス」(『NOVA+ バベル』[河出文庫]に収録)では、そのタイプのタイムマシンが発明された世界を書いています。これはタイムパラドクスの発生しないタイムマシン小説となっています。

小谷 「ノーパラドクス」では、ワームホールの加速は、CERN(欧州原子核研究機構)のLHC(大型ハドロン衝突型加速器)を使っているんですね。原子はペンローズタイルの形に並ぶという部分が、必然性はないけど、かっこいいですよね。

浦島太郎タイプのタイムマシンは原理的に可能

小谷 多世界解釈は藤井さんの短編「常夏の夜」(『公正的戦闘規範』に収録)でも登場していますね。この話の中に出てくるたくさんの未来は、多世界解釈の分裂と同じ意味合いです。

藤井 その通りです。

小谷 量子コンピュータが出てくるというのも、憎い演出ですね。量子コンピュータは、多世界と交信することによって演算結果を出しているという解釈もあります。多世界解釈に関連する用語がまったく使われていないので、この話が多世界解釈ものだと気づかない人も多いでしょう。

藤井 作家にとって多世界解釈はとても楽しいですからね。タイムマシンは、過去に行く理論が発見されればいいなと思います。

小谷 物理学的に考えていくと、光の速さに近い速さで飛んだり、ブラックホールのように重力ポテンシャルの深いところに行ったりする方法を使えば、浦島太郎タイプのタイムマシンは原理的には可能です。ですから、研究対象になり得るのは過去に行く方のタイムマシンです。

藤井 人間は時空の時間軸を自由に行き来することができませんが、粒子は加速器を使えば、時間の流れをコントロールできますよね。加速器で粒子を加速すると、何万分の1秒で崩壊するはずの粒子が、1秒くらい存在できるようになります。

小谷 地球の上空でも同じようなことが起こっていて、私たちがミュー粒子を観測できるのは、ミュー粒子の速度がとても速いために、寿命が引きのばされているからです。私はタイムマシンが好きで、『私立時計ヶ丘高校タイムトラベル部』という小説仕立ての科学解説書を書いたことがあります。私の小説のできばえはともかく、タイムマシンは人類の夢ですよね。

藤井 小説をお書きになったのですか。それはぜひ読まなければ!

 

 

(対談第3回につづく・4月29日日曜日公開予定です)

元NASA研究員の小谷太郎氏が物理学の未解決問題をやさしく解説した『言ってはいけない宇宙論 物理学7大タブー』好評発売中!

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小谷太郎『言ってはいけない宇宙論 物理学7大タブー』

2002年小柴昌俊氏(ニュートリノ観測)、15年梶田隆章氏(ニュートリノ振動発見)と2つのノーベル物理学賞に寄与した素粒子実験装置カミオカンデが、実は当初の目的「陽子崩壊の観測」を果たせていないのはなぜか? また謎の宇宙物質ダーク・マターとダーク・エネルギーの発見は人類が宇宙を5%しか理解していないと示したが、こうした謎の存在を生むアインシュタインの重力方程式は本当に正しいのか? 元NASA研究員の著者が物理学の7大論争をやさしく解説、"宇宙の今"が楽しくわかる。

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小谷太郎『理系あるある』

「ナンバープレートの4桁が素数だと嬉しくなる」「花火を見れば炎色反応について語り出す」「揺れを感じると震源までの距離を計算し始める」「液体窒素でバナナを凍らせる」……。本書では理系の人なら身に覚えのある(そして文系の人は不可解な顔をする)「あるある」な行動や習性を蒐集し、その背後の科学的論理をやさしく解説。ベッセル関数、ポアソン確率、ガウス分布、ダーク・マターなど科学の知識が身に付き、謎多き理系の人々への親しみが増す一冊。

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