地元には、みんなそれぞれ自慢の“何かしら”があるが、
この広島県人に愛されている「ここ」は、比べものにならないくらい、
いろんな意味で面白いぞ!

エッセイ
山賊のお花見

 このエッセイが掲載されている頃には、桜もすっかり散っていることだろう。
 今年は、仕事の隙間を縫ってちゃんとお花見をしようと心に決めていた。たまにはのんびり、何をするでもなく、花でも眺めながら座っていたい。
 地元の「湯来」という山手の町に、「湯の山温泉」というところがあり、そこにあるしだれ桜が、知る人ぞ知る名桜で毎年楽しみにしている。といっても、しだれ桜は満開の時が短く、気付いたときにはもう散ってしまう。
 今年は見逃したくなかったので、少し早めに行ったら、逆に早すぎて、まだまだ3分咲き程度だった。その様子を見て、あと1週間後くらいかな? と思ったのだが……。そんなときこそ、SNSだ。ツイッターを覗けば、リアルタイムな桜事情が画像で確認できる。
 なんと、翌日には満開になったのである。桜って、咲くと決めたら、予想を上回るスピード一気に咲く。見頃の見極めが肝心だ。
 SNSのお陰で、リベンジは成功! 今年は満開のしだれ桜に出逢うことができた。
 しだれ桜は、通常の桜と違い、花のついた枝がゆらゆらと風に揺れる。その様子は、美しい薄ピンクの炎の揺らぎのようで、非常に心地いい。しかも、なんとも言えない桜の薫りが漂ってくる。子どもの頃は、桜なんか眺めて何が嬉しいんだろうと思っていたが、限りある時の流れの中で、春になるたび桜が花をつけては散ってゆく様を見る時間を、今は愛おしいことだと思っている。僕もじじいになったもんだと、感傷に浸りながら、無言でおにぎりをかじった。

写真:iStock.com/c11yg

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 花見といえば、広島県民としては抑えておきたい名所がもうひとつある。広島の読者なら確実に「あーー、ね!!」とうなずきたくなる場所。

 それは……。「山賊」である!!

 広島県民が車の免許を取得したら、まずはドライブに行く場所であり、どんな世代にとっても、青春のど真ん中に必ずあったのが、この「山賊」なはず。
 知らない方のために、今日は、この山賊についてしっかり紹介させてもらう。
 山賊とは、一般では山で追いはぎをする悪党盗賊のことを指すが、我が広島では「山賊」は思い出の場所であり、何度も言うが、「青春の真ん中」だ。
 ようは、山賊の世界観をモチーフにした飲食店のことなのだが、これがなかなか山奥にあるのだ。にしては意外と規模が大きく、“中国地方のディズニーランド”と呼ばれているとかいないとか(言われてない!)。
 その存在、山奥にある秘密基地の如し。しかも、突如あらわれるその佇まいは、まさに“山賊のアジト”そのものである。
 まず、駐車場がすごい。年中、縁日の飾りつけがしてある。提灯がズラリと吊るしてあり、巨大な鯉のぼりが何本も空を泳ぐ。そして、ガンダムくらいのサイズの日本人形の“張りぼて”が、店舗軒先で不気味にライトアップされているのである。
 店内にはお座敷があり、囲炉裏を囲んで食事ができるスペースもあるし、店外には“野外コタツ席”まである。このコタツ席が、桜が満開になると非常に贅沢なお花見ができるからと、と大人気なのである。
 そのほかにも、滝を眺めながら食事できる席や、お屋敷の中で殿様気分を愉しめるような席もある。行楽シーズンになると、2時間待ちなんて日も少なくない。

 広島県民で、行ったことない人っていないんじゃないだろうか、むしろ行ったことないなんて言うやつがいたら、彼のその日の夕食は、強制的に山賊である。

 肝心のメニューだが、巨大な「山賊焼き(鶏手羽肉の炭焼き)」、「山賊むすび」「山賊うどん」がメインで、その他にも、アユやヤマメの塩焼きがあったり、皇牛の炭火焼きを味わうことができる。

 味は好みによるが、正直言って、コピルアク(※前回参照)同様、ほっぺたが落ちるほど美味い……というわけではない。はっきり言って、普通に旨い。しかし、なんといっても、あのロケーションだ。ここで食べると、最高に旨くなると僕は思っている。。

 なので、県外から来客があれば、僕たちは、宮島に続き、大体「山賊」に案内する。公共機関を使って行くのにはなかなか困難な山奥にあるので、地元の人が車で案内しないとまず行けないだろう。
 また、久々に同級生と会って「今日何する?」ってなったら、大体「山賊」に行く。高速道路で45分、下道で1時間ちょっとの道のりは、お互いの近況報告をしながらのドライブには、丁度良い距離だ。大人数で行けば、なおさら愉しい。
 もちろん、女の子とのデートもまず「山賊」だ。これ、絶対広島県民は、やってるはずである。帰りは、暗い山道で2人きり。ついついドキドキしてしまう。狙ってるのだろうか、山奥なくせして、周辺にラブホテルがたくさんある(笑)。
 少々乱暴な言い方になるが、いつの世も、我々広島県民は「山賊」に育てられてきた。

 花見のシーズンは、年間でも一番来客が多い時期かもしれない。待ちに待って、ようやく出て来た山賊焼きも、忙しすぎるせいか、焼き方が雑で、パサパサしてるなんてこともあるが、それもご愛嬌。全部含めて、長年多くの人に愛され続けてきたのだと僕は思っている。

 ただ一つ、最後にこれだけは言っておかなければならない。山賊は、広島県ではなく、お隣の「山口県」にある。広島県民が愛してやまない山賊は、実は広島には存在しない。

 県外から広島に旅行にきた人を、いの一番に山口県へ連れていくのは気が引けるが、広島に旅行に来た際は、是非“山口の山賊”で広島県民が愛してやまない味を堪能してほしい。

 是非! 一度! お越しください!!

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