数多くの大手有名企業でマネジャー研修を担当するコーチングのプロ・播摩早苗氏。そんな播摩氏が描く話題のビジネス小説『宿屋再生にゃんこ』では、部下の心に眠る仕事への情熱を引き出す方法が楽しくわかります。ここでは春からの新リーダーに向けて1章・2章を特別無料公開! 毎日連載でお送りします。 

◆STORY◆倒産寸前の地方旅館に支配人として赴任した永理子。黒字化を達成しようと意気込むが、やる気のないスタッフを前に空回りするばかり。そんなとき、寮の居候猫が永理子に向かって語り始めて……。

◆15◆

 設楽は、管理職の自覚がないことが心配だった。いつも逃げ腰で、思慮の浅い印象を受ける。害虫ではなさそうだが、役に立つのか見極めが難しい。

「少しお話があります」

 遅番で出勤した設楽に声を掛けると、困った様子でついてきた。レストランの内装工事現場に一緒に行った。

「来週にはここが完成します」

「はあ」

「どうして仲居は部屋食にこだわるのかしら」

 設楽はビクッとして肩を動かし、無言で首をかしげた。

「部屋食じゃないと、お客さまから心づけをいただけなくなるということ?」

 消え入りそうな声で、設楽は、はいと返答した。宿屋がよかったころの古い体質が、この旅館には歴然と残っているのだ。

「設楽さんは、どうすべきだと思いますか? 心づけのこと」

 私は我慢して下手に出た。

「レストランになれば確かに減るかと……。いただいた場合、返すわけにも……」

 のらりくらり話す設楽を見ていると、我慢が沸点を超えそうだった。

「今後いただいたら、どうしますか?」

「ええと、私に言ってもらって、お客さまにお礼を申し上げるようにしようと思います」

 それは織り込み済みの対応策だった。

「で?」

「……で、それを月ごとにまとめて、仲居全員で均等に分けてはどうでしょうか」

 平凡な案だったが、とりあえず受け入れた。

「では、すぐに仲居に通達してくださいね」

「えっ。私がですか?」

 設楽が、それを徹底させることに気の重さを感じていることだけが伝わった。

 

 

 

 

 

 その夜ジェニファーは、届いたばかりのティガー・チキン&サーモン缶にがっついた。

「1缶は食べすぎよ。石橋さんにもドライフードをもらったんでしょ」

「まぁな」

「ジェニファーの体重は5キロくらい? だったら、缶の半分が適正量よ」

「ええんや!」

 ジェニファーは、舌で口の周りを舐め取ると、ベッドの上で前足を揃えて座った。

「永理子さん。今日やっと少ーし話、聞けたなぁ」

「でも、設楽さんの解決策は、素人でも思いつくことよ」

「あほ。本人から考えが出てくることが大事なんや」

「そんなの、まどろっこしいわ!」

「人は、自分が言ったことやから、すぐ行動に移せるんや。分かっとらんなぁ」

 ジェニファーは険しい声になった。

「でも舐められる必要はないわよね」

「舐められるぐらいのマネジャーがええんや!」

 そこは合点がいかない。

「このまま永理子さんがアタマ使えば使うほど、3人はもの考えなくなるでぇ。あんたはそうやってみんなの仕事横取りしてんのや」

 ジェニファーは、千鳥足になって部屋から出て行った。「仕事の横取り」とは何を言わんとしているのか、まったく理解できなかった。

 

 

 

 

 

 着任から10日目にレストランの改築工事が終わった。松田にオープンにふさわしい目玉メニューを頼んでいたが、案の定提示されなかった。公式ホームページの宿泊プランはレストラン食に変えていたが、載せられている料理写真は、従前のままだ。

 部屋食で予約を入れていたお客には、チェックインのときに、食事場所を選んでもらうことにした。その結果、部屋食から変更しないお客が毎日数人いる。仲居はこの間、両方に対応しなければならないのだ。設楽には、夕食の配膳に入る仲居を増やすように命じた。

 レストランでの食事は上々の評判で、とくに懐古趣味な内装には、常連客も満足してくれた。

 ところが、直後のじゃぱんの口コミに私は衝撃を受けた。サービスに1、料理に2をつけた客がいるのだ。それが総合評価を引き下げた。これでは絶対に稼働率が上がらない!

 


本日はここまで。明日の公開をお楽しみに!
ストーリーで学ぶ最強組織づくり 宿屋再生にゃんこ』好評発売中

この記事をシェア
この連載のすべての記事を見る

★がついた記事は無料会員限定

播摩早苗『ストーリーで学ぶ最強組織づくり 宿屋再生にゃんこ』

倒産寸前の旅館に支配人として赴任した永理子。黒字化を達成しようと意気込むが、やる気のないスタッフを前に空回りするばかり。そんなとき、一匹の猫が永理子に向かって語り始めた!  「舐められるぐらいのマネジャーがええんや」「あんたがアタマ使えば使うほど、みんなはもの考えなくなるでぇ」「マネジメントは『全部自分のせい』から始めるんや」  なぜかマネジメントに詳しい猫の教えで永理子は自分を変えていき……。ストーリーを追うことでチームマネジメントのポイント、旅館事業の裏側、地域活性化のヒントが楽しく学べる!

播摩早苗『えっ、ボクがやるんですか? 部下に教えたい、社会人のものの言い方100

今の時代、部下は「トリセツ」が必要なほど扱いにくい存在。しかし時代の流れだから仕方ないと諦めてしまっていては、彼らを戦力化していくことはできない。本書では上司を呆然・困惑させる今どきの部下の発言を、会話シーンとともに列挙し、どのように指導すべきかを指南。

●こんなNGワードに、上司はどう対処すべき?
「で、どうしましょう?」「わかりやすく説明しますね」「手が空いたときでいいって言ったじゃないですか!」「グーグルになかったので分かりませんでした」