数多くの大手有名企業でマネジャー研修を担当するコーチングのプロ・播摩早苗氏。そんな播摩氏が描く話題のビジネス小説『宿屋再生にゃんこ』では、部下の心に眠る仕事への情熱を引き出す方法が楽しくわかります。ここでは春からの新リーダーに向けて1章・2章を特別無料公開! 毎日連載でお送りします。 

◆STORY◆倒産寸前の地方旅館に支配人として赴任した永理子。黒字化を達成しようと意気込むが、やる気のないスタッフを前に空回りするばかり。そんなとき、寮の居候猫が永理子に向かって語り始めて……。

◆14◆

「ふむ。教えたってもええけど、交換条件があるねん」

「何?」

「あのな、またたびウォーター飲みたいねん」

「またたびウォーター?」

「そや。いい酔い心地やねん」

「ネットで申し込むわ。到着は……明日ね」

「ほな、また明日」

 ジェニファーは、いつものモンローウォークで部屋から出て行こうとした。

「ちょっ、ちょっと待ってよ」

 振り返ったジェニファーは、目を見開き、歯を出して邪悪な笑みを浮かべた。

「またたびウォーターと他に何がいい?」

 私は、文字通り「餌」で釣ろうとした。

「そなら、フランスのティガーゆうメイカーのチキン&サーモン缶詰がええな」

 スマホで急いで検索した。

「えっ……、高い……」

「嫌ならええで。ほな……」

「あっ、待って。注文するわよ!」

 私は、チキン&サーモン12缶セットの注文を確定した。

 ジェニファーは、思わせぶりに背中から尻尾までをなめて、毛づくろいをした。私は、それが終わるのを辛抱して見ていた。

「ほな、一つだけ教えたるわ」

「お願いします」

「永理子さん、今日、新しいメニューの依頼するつもりが、松田さんに勝とうとして怒らせたなぁ」

 その通りだ。やり直しが利くならもう一度松田と話したかった。

「ええか。明日職場行ったら、舐められることを目的に会話してみぃ。それでみんながやる気出るなら、それでええやんか」

「舐められる?」

「松田さん、瀧本さん、設楽さんや。あほなふりして、話を全部引き出すんや」

 三人に舐められる場面を想像しただけで腹立たしかった。

「リーダーは、自分が有能やってみせびらかしたらあかんのや」

 この八方塞がりの状況を打開するためには致し方ない。私はやってみようという気になっていた。

 

 

 

 

 

 翌日午後に、羽生田商会と高須燃料が翌月の重油価格を提示してきた。羽生田商会はリッター当たり75円、高須燃料は76円だった。

 正直、迷った。1円の違いなら、メンテナンスつきの高須燃料のほうがいいのではないか。

「瀧本さん、ちょっと話があるんです」

 遅番で出社した瀧本に声を掛けた。重油の購入先について相談する相手として、瀧本を選んだのだ。この話題なら舐められても耐えられそうだった。他の従業員のいない、クローズ時間のラウンジに誘った。

「羽生田商会もかなり頑張って。まさか高須燃料より1円低い提示になるとは思わなかったんです」

 経緯を説明した。

「で?」

 瀧本は相変わらずポーカーフェイスだ。

「意見を聞かせてほしいの」

 瀧本はしばらく黙っていた。ジェニファーの毛づくろいを待つよりイライラする時間だった。そもそも私は、反応の遅い人間をビジネスパーソンとして認められないたちなのだ。

「支配人は、メンテナンスもやるっていうことに魅力を感じてるんですか」

「ええ。まぁ」

「1円高くてもいいほどだと……」

 そう聞かれると、確信はないが、ふと高須のさわやかな笑顔が浮かんだ。

「今回は、羽生田にしておいたらどうでしょう」

 舐められることを目的に……、というジェニファーの言いつけを思い出して、質問を続けた。

「なぜそう思うんですか?」

「羽生田商会は、おそらく前の支配人にキックバックしていたんだと思います」

「えっ!」

「まぁ、珍しい話じゃないです。だからその分値を下げただけです」

「ひどいわ」

「話をもっていったのは支配人でしょうから、羽生田は断れなかったのでしょう」

「ええ」

「1円安かったのは事実です。来月高須が安ければ、変えて構わないわけです」

「そうね」

「……支配人が取引したいからと言って経費削減策がブレるのはよくないと思いますよ」

 チクリと言った瀧本の言葉に、私は後頭部を殴られた気分だった。

「そうね。間違ったことするところだった」

 瀧本はまた黙った。私は、思い切って前日の話題を切り出した。

「昨日のことだけど。私のこと、何も分かっていないって……。それについて聞かせて」

 瀧本は、瞬きをしてしばらく考えているようだった。

「言いすぎました。すみませんでした」

 瀧本は、これ以上口を利く気はないというように、首をぺこりと折って終わらせようとした。反省の色は見えなかった。役に立つようで、反抗的でもある。油断のならない相手だった。

 


本日はここまで。明日の公開をお楽しみに!
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播摩早苗『ストーリーで学ぶ最強組織づくり 宿屋再生にゃんこ』

倒産寸前の旅館に支配人として赴任した永理子。黒字化を達成しようと意気込むが、やる気のないスタッフを前に空回りするばかり。そんなとき、一匹の猫が永理子に向かって語り始めた!  「舐められるぐらいのマネジャーがええんや」「あんたがアタマ使えば使うほど、みんなはもの考えなくなるでぇ」「マネジメントは『全部自分のせい』から始めるんや」  なぜかマネジメントに詳しい猫の教えで永理子は自分を変えていき……。ストーリーを追うことでチームマネジメントのポイント、旅館事業の裏側、地域活性化のヒントが楽しく学べる!

播摩早苗『えっ、ボクがやるんですか? 部下に教えたい、社会人のものの言い方100

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